第34話 第四層・再チャレンジ(1)

「うーっす! 六槍先輩、遅いっすよ!」


「そうですよ、六槍さん! 早く早く!」


 俺が予定時間より十五分ほど早くダンジョン前の待ち合わせ場所に行くと、そこで待っていた弓月と小太刀さんから理不尽な声を掛けられた。


 いや、まだ待ち合わせ時間前なんだけど……。

 キミたちは遠足の日の朝にはしゃいでいる小学生か何かですか?


 自転車を置き場にとめていると、弓月が駆け寄ってきて、そのまま俺にタックルしてきた。

 転ぶほどじゃなかったが、よろめいてしまう。


「うわっ! おまっ、お前な……!」


「先輩! うちらみたいな可憐な乙女二人を待たせておいて、その休日のお父さんみたいな態度は何なんすか!?」


「いや待たせたって、まだぜんぜん時間前だろ。あと小太刀さんはともかく、お前を可憐な乙女枠に入れたくない。概念的に却下だ」


「ムッカーッ、何すかそれ! ていうかテンション低いっすよ先輩! もっと上げていくっすよ!」


「俺がテンション低いのは今に始まったことじゃないだろ」


「言われてみればそうっすね」


 ケロッと納得して、テンションを平常に落とす弓月。

 朝っぱらから元気だなぁこいつ。


 そんなわけで無事合流した俺、小太刀さん、弓月の三人は、いつも通りに準備をしてからダンジョンへと潜った。


 魔法陣でダンジョン内へと転移し、下層へと向かう。


「というわけで弓月、今日は第四層に行こうと思う」


「うっす。さっき風音さんから聞いたっすよ」


「よし。俺と小太刀さんだけじゃ攻略できなかった階層だ。第四層を攻略できるかどうかは、弓月、お前の双肩にかかっていると言っても過言じゃない」


「ごくりっ……。世界の命運は、うちに託されたわけっすね」


「いや、ぜんぜん。そういうのとは違う」


「っす。知ってたっす」


 ちなみに弓月の装備も強化されている。

 前回の探索で得た収入で「レザーアーマー」を購入し、それを身に着けていた。

 ゴブリンアーチャーの射撃攻撃によるダメージなどを、いくらか軽減してくれるだろう。


 さらに昨日の探索で手に入れた「ショートボウ」も、弓月に貸与されている。

 メイン攻撃手段は魔法だが、魔力を温存したい局面もあるだろう。


 と思っていたら、すぐにその出番がやってきた。

 下層への階段にたどり着く前に、第一層でコボルド一体に遭遇したのだ。


「出たっすね、コボルド! うちの弓矢の錆にしてやるっすよ。【ファイアボルト】を使うまでもないっす」


 そう言って、弓月は張り切って弓矢で攻撃を始めた。


 だが、弓月は初めて扱う弓矢を器用に使いこなしてはいたものの、威力不足は否めず。

 コボルドに矢を一発命中させても、撃破には至らなかった。


「わーっ、倒せなかったっすよ! お兄ちゃん助けてっす! 風音お姉ちゃんでもいいっすよ!」


「「しょうがないなぁ」」


 俺と風音さんでカバーに入って、襲ってきたコボルドを押し返す。


 そこに弓月の二射目が発射されたが、これはコボルドがひょいと回避してしまった。


 結局、俺と小太刀さんとでもう一度コボルドをあしらって、弓月の三射目でようやくの撃破となった。


「ううっ……弓矢だとうち、雑魚雑魚だってことが分かったっす……」


 苦労の末にコボルド一体を撃破した弓月は、がっくりと肩を落とす。


 そりゃあまあ、ステータスもスキルも魔法に特化されているんだから、物理攻撃が弱いのは仕方ないわな。


 やがてたどり着いた第二層への階段を降りながら、俺は弓月に質問する。


「弓月、たしかお前、だいぶレベルアップ近かったと思うが。今のコボルドの経験値入って、次のレベルアップまであといくつだ?」


「んー、117/130っすから、次のレベルアップまでは、あと13ポイントの経験値が必要じゃ、っす」


「ゴブリン二体か、ホブゴブリン一体で届くな。第四層に行くまでに、もう1レベル上げておきたいところか」


 そう思っていると、第二層の最初の戦闘で、ちょうどホブゴブリン一体と遭遇した。


 俺は前に出て、盾と槍を構え、後衛の弓月に伝える。


「まず俺が一撃を入れる! 弓月は【ファイアボルト】でトドメを!」


「了解っす!」


「私、出番ないなぁ……」


 小太刀さんは端っこでしゃがんで、ちょっといじけていた。

 お姉ちゃんにはこの先、たくさん働いてもらうから安心してほしい。


 俺よりも体格のいい大柄なモンスターが、剣を振り上げ襲い掛かってくる。


 俺はその攻撃を、盾を使ってどうにか凌ぎ、隙を見てロングスピアの一撃を叩き込んだ。


 ホブゴブリンの胸部にぐさりと突き刺さった槍の穂先は、モンスターの背中まで抜ける。

 俺はそれをすぐさま引き抜き、その場から飛び退いた。


「今だ弓月、【ファイアボルト】を──って、あれ?」


 ホブゴブリンは黒い靄となって消え去り、あとには魔石だけが残った。

 おやぁ……?


 これは、ホブゴブリンを一撃で倒してしまった……?

 小太刀さんじゃなくて、俺が?


 背後からは、後輩のじとーっとした声が聞こえてくる。


「先輩~、ホブゴブリン残ってないんすけど~」


「お、おう、すまん。計算外だった」


 ロングスピアに武器をランクアップし、【槍攻撃力アップ(+8)】まで取得した俺の攻撃力は、ホブゴブリンを瞬殺するほどにまで上がっていたらしい。


 ただその後の戦闘では、俺がホブゴブリンを一撃で倒せたことは、そう多くはなかった。


 モンスターからの攻撃でも、同じモンスターから同じ防御力でダメージを受けて、あるときは5点ダメージ、またあるときは7点ダメージなどと一定の範囲内でブレがあったりするわけで。


 それと同じことが、こっちがモンスターを攻撃したときにも起きる。

 このときの戦果は、たまたま運が良かった(悪かった?)ケースのようだ。


 ただいずれにせよ、地力が上がっていないと起こらないことなわけで。

 俺も地道に強くなってるんだなぁと感じた一件であった。

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