第33話 ダンジョン探索五日目

 俺は五日間、バイト生活を頑張った。

 実質の連続勤務は、十五、十六、十七、十八──十九連勤。


 その後二日の、小太刀さんや弓月と約束しているダンジョン探索も含めれば、実質二十一連勤が確定だ。


 でもバイトを二十一連勤だとさすがにグロッキーになるが、ダンジョン探索が挟まっているとそこまででもない。


 休息には「三つのアール」が必要だと、何かのネット記事で見た記憶がある。

 レスト(肉体的休息)、リラクゼーション(精神的休息)、レクリエーション(娯楽)だ。


 その記事では、適切な休息には「三つのR」の「すべて」が満たされる必要があると書いてあったが。

 今の俺の場合はレクリエーション(娯楽)だけは満たされているから、そこまでしんどくはないのかもしれない。


 ともあれ俺は、五日間のバイト生活を終えて、小太刀さんとの約束の日にたどり着いた。


 俺がいつものように自転車を漕いでダンジョン前に向かうと、先週と同じように小太刀さんが嬉しそうに手を振ってきた。

 この小太刀さんの笑顔を見ただけでも疲れが吹っ飛ぶまであるな。


「お久しぶりです、小太刀さん」


「こちらこそお久しぶりです、六槍さん。この日を一日千秋の想いで待っていました」


「あはは、また大袈裟な」


「大袈裟じゃないですよぉ! 一人ぼっちのダンジョン探索は寂しいんです!」


 ぷくっと頬を膨らませてくる小太刀さんである。

 とてもかわいい。


 俺たちはいつものように準備をして、ダンジョンへと向かう。

 第四層はまだ厳しいと思うので、今日も第三層だ。


 ダンジョンの第三層を歩きながら、俺は小太刀さんに聞いてみる。


「今日は第三層でいいとして、明日はどうしましょう。弓月も加われば、第四層いけると思います?」


「うーん……どうだろう……。最悪ゴブリンシャーマンに加えて、ゴブリンアーチャーが二体いるパターンがありえるんですよね。遠隔攻撃モンスターが三体いると、火垂ちゃんが落とされる可能性がなくはない、かも……?」


「でもそこまで気にしていたら、俺たちが落とされる可能性だって皆無ではないし」


「そうなんですよね。それに落とされる可能性といってもHPが0になるだけで、死亡ラインは遥か彼方。全滅さえしなければ命に別状はない、と考えると──」


「試しに第四層、行ってみてもいいですかね」


「そう思います。やってみて危なそうだったら、また考えれば」


 小太刀さんも平気で「死亡ライン」がどうとか喋るんだから、やっぱ俺たち探索者シーカーになると、生死に関する感覚が微妙にズレるんだろうな。

 現代に生きる普通人の会話じゃない気がする。


 そんなやり取りをしながら第三層を探索していると、やがて最初のモンスターに遭遇した。


 モンスターの編成は、ゴブリン×1、ホブゴブリン×1、ゴブリンアーチャー×1。

 ゴブリンとホブゴブリンが敵前衛に立ち、ゴブリンアーチャーが後衛から射撃攻撃をしてくるという、第三層でも標準的なモンスター編成の一つだ。


 それを見た小太刀さんが、さっそくとばかりに緑色の燐光を体にまとわせながら、不敵に口元を吊り上げる。


「六槍さん──私、昨日のレベルアップで、ちょっと強くなったんですよ」


「ちょっと強く?」


「はい、ちょっと強くです──行きます! 【ウィンドスラッシュ】!」


 小太刀さんがいつもの風属性魔法を発動させた。


 風の刃はいつも通りにホブゴブリンに──ではなく、敵後衛のゴブリンアーチャーに命中した。


 ゴブリンアーチャーはその一撃で、あっさりと消滅して魔石に変わった。

 おっ、すごい。


 ネットで確認した情報によれば、ゴブリンアーチャーの耐久面の能力は普通のゴブリンとまったく変わらない。


 でも小太刀さん、先週までは【ウィンドスラッシュ】ではゴブリンも一撃では倒せないと言っていたのだ。

 明らかな進歩。


 しかもそれだけではなかった。


「──はぁああああっ!」


 魔法を撃った後、すぐに駆け出した小太刀さんは、ホブゴブリンに対して短剣二刀流でいつもの連続攻撃を仕掛ける。


 ズバズバッと連撃を叩き込まれたホブゴブリンは、これまたあっという間に消滅していった。


 おーっ、これもすごい。

 先週までの小太刀さんは、ホブゴブリンに対しては【ウィンドスラッシュ】に物理攻撃を重ねて倒していたのだ。


 あとは俺が、ゴブリンを一撃で仕留めるだけ。

 あっという間の完封勝利だった。


 戦闘終了後、俺は満面の笑顔を浮かべた小太刀さんとハイタッチを交わす。


「イエーイ! ふふふっ、どうですか六槍さん。私、ちょっと強くなってません?」


「ちょっとというか、すごくというか。いや、両方瞬殺とかすごいですね」


「でしょでしょ? もっと褒めてくれてもいいですよ?」


「いよっ、小太刀さんカッコイイ! 惚れる!」


「えへへ〜っ。と言っても、まだ確殺じゃないんですけどね。大見得を切ったので、ちゃんとできて良か──」


 と、そこまで言ったところで、ゆっくりと目を見開いた小太刀さんが口元を手で押さえて、そっぽを向いた。

 その頬は心なしか、赤く染まっているようにも見える。


「な、何かあったんですか、小太刀さん!?」


「い、いえ、ストップ! ちょっと待ってください六槍さん。情報を整理します」


 小太刀さんは胸に手を当て、何かをぶつぶつとつぶやいてから、すーはーと深呼吸をした。


「お、お待たせしました。もう大丈夫です」


「…………」


 そんなあれやこれやがありつつも、この日のダンジョン探索はつつがなく終わった。


 俺は獲得した経験値でレベルアップし、7レベルから8レベルへと上昇。

 スキルは【槍攻撃力アップ(+8)】を取得した。


 なおここで取得可能スキルリストに【槍攻撃力アップ(+10)】は出現しなかった。

 ネット上の情報から推測するに、+10以上は俺が11レベルになったら解放されるものと思われる。


 小太刀さんはレベルアップなし。

 というか昨日12レベルにアップしたばかりらしく、次のレベルまではかなり遠いようだ。


 魔石換金による収入も、おおよそこれまで通りの金額。


 この日の探索で特筆すべきは、ドロップした宝箱の中から有用な武器が一つ出てきたことだ。


 それはゴブリンアーチャーが落とした宝箱に入っていた「ショートボウ」だ。


 小型の弓矢で、弓だけでなく矢筒と矢束がセットになって出てきた。

 武具店で購入すると、一揃いで16000円する代物だ。


 これは弓月が使うかもしれないと考え、小太刀さんの【アイテムボックス】に収納した。


 そうしてこの日の探索も終わり、時計の針は翌朝へと進む。



六槍大地

レベル:8(+1)

経験値:626/860

HP :52/52(+4)

MP :48/48(+4)

筋力 :12(+1)

耐久力:13(+1)

敏捷力:10

魔力 :12(+1)

●スキル

【アースヒール】

【マッピング】

【HPアップ(耐久力×4)】

【MPアップ(魔力×4)】

【槍攻撃力アップ(+8)】(Rank up!)

残りスキルポイント:0



小太刀風音

レベル:12(+1)

経験値:3284/4302

HP :48/48

MP :39/39(+3)

筋力 :12

耐久力:12

敏捷力:21(+1)

魔力 :13(+1)

スキル

【短剣攻撃力アップ(+6)】(Rank up!)

【マッピング】

【二刀流】

【気配察知】

【トラップ探知】

【トラップ解除】

【ウィンドスラッシュ】

【アイテムボックス】

【HPアップ(耐久力×4)】

【宝箱ドロップ率2倍】

残りスキルポイント:0

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