第31話 3対3の戦闘
敵はホブゴブリンが一体と、ゴブリンアーチャーが二体。
ホブゴブリンが剣を振り上げ襲い掛かってくる一方で、二体のゴブリンアーチャーは射線が通った段階でこちらに向かって弓を構え、矢をつがえていく。
だが遠隔攻撃は、向こうの専売特許ではない。
緑と赤の燐光を身にまとった二人の女子が、ゴブリンアーチャーの射撃動作よりもわずかに早く、それぞれの魔法攻撃を発動した。
「いきます──【ウィンドスラッシュ】!」
「落としてみせるっす──【ファイアボルト】!」
小太刀さんが放った風の刃は、向かってきていたホブゴブリンに命中して、その胸部を大きく切り裂いてダメージを与える。
一方で弓月が放った火炎魔法は、敵後方のゴブリンアーチャーのうち一体に直撃し、そいつを一撃で消滅させて魔石へと変えた。
「よしっ! ──って、うわぁっ!」
だが弓月の快哉の声と同時、残ったほうのゴブリンアーチャーが放った矢が、俺と小太刀さんの間の空間をヒュンと抜けた。
直後、小さな悲鳴。
「くっ……痛っつぅ……!」
「バカ、弓月! 油断するな!」
俺は叱責の声を飛ばしながら、タイミングを見計らって残りのゴブリンアーチャーに向かって駆ける。
走り出す前に背後をチラ見したが、弓月の肩に突き刺さった矢が、黒い靄になって消えていくところだった。
「ご、ごめんっす……! でもお兄ちゃん、もっと優しく!」
「それはすまん! でもその調子なら大丈夫そうだな!」
「あとで先輩が優しく治してくれれば大丈夫っす!」
少なくとも、軽口が飛んでくる程度にはダメージは深刻ではないということ。
俺はひとまず敵に集中する。
前方では小太刀さんが、ホブゴブリンを二本の短剣で斬りつけるところだった。
「──はぁああああっ!」
身軽な小太刀さんが剣舞を舞い、ズバズバッと連撃が入る。
風の魔法で切り裂かれた上に、短剣によって二条の斬撃も加えられたホブゴブリンは、あっさりと消滅していった。
その流れは、俺も織り込んでいる。
小太刀さんがホブゴブリンを落としてくれると確信していた俺は、消滅していくそいつの脇を駆け抜け、敵後衛のゴブリンアーチャー目掛けて突進した。
俺の手には、今日の探索前に新調した武器「ロングスピア」が握られている。
新しい槍は俺の手にしっかりと馴染んでおり、これまで愛用していたショートスピアと比べても遜色のない扱いやすさだ。
武具店のスペック表示では、8000円のショートスピアの攻撃力が「6」であるのに対して、25000円のロングスピアの攻撃力は「10」。
その数字の意味は明白ではないが、今日の探索中に得た俺の体感でも、ショートスピアを使っていた昨日までとは明らかに武器の威力が違っていた。
単に長くなっただけの武器でないことは間違いない。
「──はっ!」
そのロングスピアで、ゴブリンアーチャーを攻撃する。
ずぶりとモンスターの体に潜り込んだ槍の穂先は、背中まで貫通。
一瞬の後に、ゴブリンアーチャーは黒い靄になって消滅し、魔石を落とした。
「ふぅっ……」
俺は一つ息をつき、念のために周囲を見回す。
ほかにモンスターの姿はなかった。
戦闘終了だ。
弓月が一撃をもらったため完封勝利とはいかなかったが、敵にほとんど攻撃を許さないまま全滅させた戦闘内容は、十分に良好と評価できるだろう。
モンスターがいなくなった代わりに、小太刀さんの前、ホブゴブリンが倒された位置には
久々に見る「棺桶型」の宝箱だ。
最近は小包のような形状の「小箱型」の宝箱を見ることが多かったのだが。
ちなみに「小箱型」の宝箱には、「HPポーション」が入っていることがほとんど……というか、俺がこれまでに見てきた十個ほどの「小箱型」宝箱の中身は、すべて「HPポーション」だった。
小太刀さんが【トラップ探知】【トラップ解除】を使ってから、「棺桶型」の宝箱を開いていく。
中から出てきたのは、いつぞやと同じく「ブロードソード」だった。
あれは高値で売れるから大歓迎だ。
それにしても──
「昨日今日と、宝箱の出現率、高くないですか? それも小太刀さんが倒した敵から、よく出ているような……」
気のせいかもしれないが、宝箱の出現率が先週よりも、かなり高い気がする。
昨日も「小箱型」の宝箱がたくさん出て、HPポーションフィーバーだったのだ。
すると小太刀さんは、えへんと胸を張ってみせる。
「ふっふっふ。さすが六槍さん、そこに気付くとはお目が高いですよ」
「……と、言いますと?」
「何を隠そうこの小太刀風音、11レベルに上がったときに【宝箱ドロップ率2倍】のスキルを修得しているのです!」
「な、なんだってーっ!?」
「どうもどうも。気持ちのいいリアクション、ありがとうございます」
とりあえずノリで驚いてみたら、小太刀さんはすごく嬉しそうだった。
それにしても、【宝箱ドロップ率2倍】なんて、そんなスキルもあるのか。
宝箱が出れば出るほど臨時収入が入るんだから、超優良スキルじゃないか。
一方では、第三層での初戦闘を終えた弓月が、こちらもハイテンションな声を上げる。
「それにしても風音さん、すげぇっすね! 戦闘もめっちゃ格好良かったし! 戦闘以外でも役に立つスキルもたくさん持ってるっす!」
「ま、まあね~」
弓月に褒められた小太刀さんは、さらに嬉しそうにした。
頬を赤くして、てれてれしている。
さらに弓月は、興奮した顔で俺のほうを見てくる。
「六槍先輩も、貫禄の先輩
「お、おう。……それにしてもお前、ホント褒めるのうまいよな」
「ふへへっ。そう思うんなら頭をなでてほしいっすよ♪」
おのれ、愛らしさで兄を篭絡するつもりか。
俺は弓月の頭に手を置いて、わしわしとなでてやる。
弟分は「にへへ~っ」と頬を緩ませ、こそばゆそうに目を細めた。
こいつもある意味ではすごくかわいいと思うんだけど、俺の中ではなぜか弟分の枠なんだよな。
かわいい舎弟というか何というか。
なんでこいつ、ここまで俺に懐いてるんだろうな。
「それより弓月、怪我のほう、大丈夫か?」
「んあ……? あー、まあ、少し痛いは痛いっすけど、死ぬほどじゃないっす」
「死ぬほどだったらダメだろ。見せてみろ」
「優しくしてね、お兄ちゃん♪」
魔法が発動し、弓月の傷口はすぐにふさがった。
この見た目なら、HPは全快したはずだ。
「あ、どれだけHPが減ってたか、確認しようと思って忘れてたな」
「それは覚えてるっすよ。たしか『20/28』だったっす」
「お、弓月グッジョブ。8点ダメージか。多少ブレると考えても、まあ問題なくいけそうだな」
少しゴブリンアーチャーを警戒し過ぎだったかもしれない。
でも1レベルや2レベルの段階だといろいろ厳しかったのも確かだろうし、まあこんなもんか。
「第三層の探索、問題なくいけそうですね」
その小太刀さんの言葉に、俺もうなずく。
一番厄介な部類の敵編成を相手にこの内容なら、普通にいけるだろう。
そんなわけで俺たちは、その後も第三層の探索を続けていった。
見立て通り、その後の戦闘も危なげなく捌くことができた。
むしろ小太刀さんと二人のときよりも安定していたぐらいだ。
そのまましばらく探索を続けると、第三層に下りてから四時間ほど探索したあたりで、弓月のMPが枯渇した。
時間もちょうど良かったし、俺たちはそこで探索を切り上げ、帰還することにした。
さてさて、今日の戦果は──
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