第30話 第三層へ
小太刀さんと合流した俺たちは、ダンジョン内でランチ休憩をとったあと、再び第二層の探索を開始した。
最初に遭遇したモンスターは、ゴブリンが一体。
ゴブリンは武器を振り上げて俺たちに向かって襲い掛かってきた。
「【ファイアボルト】!」
弓月が放った炎の魔法が、向かってきたゴブリンに直撃する。
その一撃でゴブリンは黒い靄になって消滅し、魔石が床に転がった。
遭遇して数秒の出来事という、ゴブリン瞬殺事案であった。
「おおっ、ゴブリンを一撃で倒せたっすよ! 先輩、うち凄くないっすか!? また最強になった気がするっすよ!」
目をキラキラと輝かせ、そう訴えかけてくる我が後輩。
俺は苦笑しつつ、かわいい弟分の頭をなでてやる。
「おうおう、確かにすごいな。すぐに調子に乗るあたりもほほえましいな」
「でしょでしょ? にへへーっ」
心底嬉しそうに頬を緩ませる弓月である。
皮肉に気付いていない、というか気付いた上で乗ってやがるなこいつ。
3レベルになった弓月の魔力は、1レベル時と比べると10から12に上がっているから、その影響が出たのかもしれない。
一方で小太刀さんは、俺が弓月の頭をなでたあたりで、また何やら複雑そうな表情を見せていた。
だが次にハッとした様子を見せ、ぶんぶんと首を横に振ってから、こほんと咳払いをする。
「ほ、火垂ちゃんもかなり強くなった感じがすごくしますね。第三層、いけるんじゃないでしょうか?」
「ですね。3レベルになって【HPアップ(耐久力×4)】のスキルも修得したし、ゴブリンアーチャーに瞬殺されるってこともまずないか。──どうする弓月、第三層に行ってみるか?」
「行きたいっす! 最強になったうちの実力を見せつけてやるっすよ!」
ボクシングのポーズをとって、シュッシュッとジャブを放ってみせる弓月。
お前の攻撃方法は明らかにそれじゃないけどな。
が、弓月はそこで小太刀さんのほうを見て、にこっと笑いかける。
「ところで風音さん。うちのこと、羨ましいんすか?」
我が後輩は唐突に、脈絡のないことを言い出した。
いきなり何を言い出すんだこいつは。
だが小太刀さんは、心当たりがあるのか、その頬をボッと赤らめる。
「ふへっ!? な、な、何を……!?」
「にひひっ、さては人肌が恋しいんじゃないっすかぁ? やってほしいって言えば、喜んでやると思うっすよ~?」
「ほ、火垂ちゃんが、何を言ってるのか分からないんだけど……?」
「目が泳いでるっすよ風音さん。うりうり~」
「火垂ちゃん、ストップ、ストップ……!」
弓月がにじり寄って、小太刀さんを洞窟の壁際へと追い詰めていく。
小太刀さんは明らかに困惑していた。
「おい弓月、何だか分からんが小太刀さんを困らせるな」
「きゃいんっ」
弓月の首根っこを引っつかんで、小太刀さんから引っぺがす。
小太刀さんはホッと胸をなでおろしていた。
一方の弓月は、俺に恨みがましいジト目を向けてくる。
「先輩! 首根っこつかむとか、うちみたいなかわいい後輩女子にやることじゃないっすよ! まるで動物扱いじゃないっすか!」
「仔犬みたいなもんだと思ってるところはあるな」
「ひどいっすよ! 断固抗議するっす! 動物愛護協会に訴えてやるっす!」
「相変わらず見事なノリボケだな」
「えへへーっ、それほどでも~」
「そこでデレるのか」
相変わらずテンションの切り替えが早いやつである。
しかしもう一発テンションチェンジが入る。
弓月は何やら、大きくため息をついた。
「……それにしても先輩、やっぱどうかと思うんすよ。先輩の言ってること、一般論としてはまあ分かるんすけど、これでそれはないっしょ」
「いや、何の話だよ。切り替え激しすぎて分からんわ」
「はあっ……まあいいっす。うまくいきすぎてうちが構ってもらえなくなっても嫌だし、適当にからかって遊ぶっすよ」
「待て待て、普通に先輩で遊ぶとか言うな後輩」
だがその俺の突っ込みにも、「分かってないなぁ」と言わんばかりの目を向けてきて、あきれたように首を横に振る弓月であった。
相変わらず、先輩を敬う気は皆無のようだな。
別にいいけどさ。
***
弓月の戦力がある程度できあがったところで、俺たちは第三層へと下りた。
今のパーティにおいて、第三層で怖いのはゴブリンアーチャーだ。
万が一の話ではあるが、弓月が集中放火された場合に耐えられるかどうか、怪しい部分がある。
とはいえ、【HPアップ(耐久力×4)】で弓月の打たれ強さも補強されているから、よほどのことがなければ大丈夫だとは思うが。
ちなみにだが、
もっとありていに言うと、「HPが削り切られなければやられることはない」という話。
何か運命的な力によって、たとえば敵の矢がたまたま当たりどころが悪くて即死してしまうとか、そういうことは起こらないようになっているらしい。
俺の
ダンジョンで命を落とさないために気を付けておくべきは、HP管理である──
そんな非現実的とも思えることを、俺の中の
そうした考え方を前提に、俺は弓月に作戦を言い伝える。
「弓月、お前が気を付けるべきはゴブリンアーチャー、つまり弓を持っているゴブリンだ。こいつの耐久力は普通のゴブリンと変わらないから、遭遇したら真っ先に【ファイアボルト】で落とせ。接近戦を仕掛けてくるゴブリンやホブゴブリンは、俺と小太刀さんで止めるから気にしなくていい」
「ラジャーっす! 風音さんも、よろしくお願いしますっす」
「うん、任せて火垂ちゃん。お姉ちゃんの格好いいところ、たくさんお見せします」
「おーっ! 見たいっす見たいっす!」
「小太刀さんは最近、ポンコツ感が強いですからね。ここらで挽回しておかないと」
「えっ……? そ、そんなですか六槍さん!? 私って、そんなポンコツっぽい感じします!?」
「あ、いや、えっと……すみません、口が滑りました」
「い、いえいえ、いいんですよ六槍さん! もっとどんどん滑らせちゃってください! 私も火垂ちゃんみたいに、六槍さんと軽妙なやり取りをたくさんしたいです!」
「は、はあ……」
小太刀さんが変な方向に意気込みを見せていた。
やっぱり寂しいんだな、うん。
と、そんな軽妙なのかよく分からないトークをしながら第三層を探索していると、やがて最初のモンスターと遭遇した。
モンスター編成は、いま一番遭遇したくないグループの一つだった。
ホブゴブリン×1と、ゴブリンアーチャー×2。
どのあたりが嫌かというと、ゴブリンアーチャーが二体いるところだ。
万が一、二体がかりで弓月に集中放火されると、弓月が落とされかねない。
逆に言えば、こいつらを問題なく倒せれば、このパーティでの第三層探索は大きな問題なくいけるってことだ。
「さあ、うちの第三層デビュー戦っすよ!」
弓月がその身に、赤色の魔力をまとわせる。
俺と小太刀さんもまた、モンスターの群れを迎え撃つべく戦闘態勢をとった。
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