第28話 後輩の初戦闘
獰猛な犬面からよだれを撒き散らしながら、洞窟の奥から、一体のコボルドが駆け寄ってくる。
その手には、粗末な短剣。
対する弓月もまた、
俺と小太刀さんが見守る中、緊張した面持ちの弓月の体が、赤色の燐光をまとう。
弓月は短剣を持っていない左手を前に突き出すと、声変わり前の少年のような声で、こう叫んだ。
「【ファイアボルト】!」
弓月が突き出した左手、その直前の空間にハンドボールほどの大きさの炎の塊が生み出されたかと思うと、それがすぐさま発射された。
ごうと唸りをあげて飛んだ炎の塊は、弓月に襲い掛かろうとしていたコボルドに直撃。
その全身が炎に包まれ、一瞬のちには黒い靄となって消滅した。
あとの地面には、魔石が残る。
弓月の初戦闘は、あっという間に終了した。
「はぁっ、はぁっ……や、やったっすか……?」
額に汗した弓月が、そんな言葉を絞り出す。
見守りに徹していた俺と小太刀さんが漏らしたのは、感嘆の言葉だ。
「へぇ、コボルドを一撃か。大したもんだな」
「ですね。コボルド相手とはいえ1レベルでモンスター瞬殺は、ちょっとびっくりです」
「えっ、これってすごいんすか? さてはうち最強っすか?」
「おう、すごいすごい」
「やりぃっ! 嬉しいから、先輩にうちの頭をなでなでする権利をあげるっす」
「ありがとうよ」
「うきゅっ」
俺は弓月の頭に手を置いて、髪をわしわしする。
後輩ワンコは嬉しそうに目を細めていた。
しかし、それを見た小太刀さんは、目を丸くした。
「え……? 六槍さんと火垂ちゃんって、そこまで仲いいんですか……」
「あ、この頭わしわしですか? こいつ、こうされるのが好きみたいなんですよ」
「前に先輩がうちの頭なでたそうにしてたから、許可してみたらクセになったっす」
「弓月の頭、絶妙に手を置きたくなる位置にあるんだよな」
「なんだとーっ! チビ呼ばわりは捨て置けないっす! そういうこと言ってると【ファイアボルト】ぶつけるっすよ! コボルドみたいに消し炭にしてやるっす!」
「やめろ。お前の魔法の威力はシャレにならん」
コボルドを一撃で落とす威力の魔法とか、絶対痛いわ。
しかし俺がコボルドを一撃で撃墜できるようになったのが、いくらかレベルが上がって【槍攻撃力アップ(+2)】を取得した後であることを考えると、弓月の魔法攻撃力は本当に相当なものなんだよな。
その代わり弓月は筋力や耐久力には劣るわけだが、パーティ戦闘を前提にするなら、この魔法の威力はそれを補ってあまりある長所だ。
このまま伸びていくとしたら、こいつの将来的なポテンシャルはかなりのものになるだろう。
ちなみに小太刀さんはというと、いまだに困惑の様子を見せていた。
「へ、へぇー……。火垂ちゃん、六槍さんにずいぶん気を許しているんですね……」
「ん……? ああ、たぶん風音さん、何か盛大な勘違いしてるっすよ。うちにとって六槍先輩は、仲のいい兄貴みたいなもんっす」
「そうそう。こいつは俺にとって、かわいい弟みたいなもんです」
「でも先輩、いつも言ってるっすけど、うちこう見えても女子っすよ?」
「妹って感じはしないな」
「ひどい! お兄ちゃんが女子扱いしてくれないっす! 風音お姉ちゃん、先輩がひどいっすよぉおおおおっ!」
「わっ……! よ、よーしよーし、いい子いい子」
弓月は小太刀さんの胸に飛びついて、嘘泣き仕草を始めた。
小太刀さんは戸惑いつつも、弓月をやんわり抱き寄せて頭をなでる。
くそっ、弓月のやつめ、うまいことやりやがって。
羨ましいぞ。
と、そんなコントをやりつつも、俺たちはコボルドの魔石を拾いつつ第二層への階段を目指す。
弓月がいると、まあ賑やかになるな。
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