第27話 ダンジョン探索ツアー

 弓月と会って、ダンジョン探索ツアー決行を決めた日の翌朝。


 ダンジョン前で集合した俺、小太刀さん、弓月の三人は、ひと通りの準備を終えてからダンジョンへと向かった。


「うぉおおっ、すげぇっす! 本当にワープしたっすよ!」


 魔法陣を使ってダンジョンに転移した弓月は、めちゃくちゃテンションが上がっていた。


 そんな弓月の装備は、ダンジョン用の衣服と短剣ダガーが一本だけ。

 用意してきた予算の都合で最低限の武装となったが、魔法攻撃がメインになるだろうからさほど大きな問題ではないと思う。


 初期のスキルは、火属性の基本攻撃魔法【ファイアボルト】を取得した。

 魔力が高いので、それなりに高い威力を発揮してくれるだろう。


 なおステータスの「魔力」は、最大MPのほか、魔法の威力や魔法防御力にも影響してくるとのことだ。


 ダンジョンに入った俺たちは、ひとまず第二層を目指すことにした。


 第一層だとさすがに稼ぎの効率が悪すぎるし、第二層でも遠隔攻撃を行ってくる敵はいないから、1レベルで耐久力が低い弓月を連れていても問題はない。


 第三層でも行けそうな気はするのだが、ゴブリンアーチャーの射撃がやや怖いので、ひとまずは様子見だ。


 第一層の洞窟を歩きながら、弓月は物珍しそうに周囲を見回していた。


「ほえぇ~、これがダンジョンっすか。これは壁が発光してるんすか? 不思議っす」


「ダンジョンは不思議の塊だからな。わりと何が起こっても驚かないが、それでも一応、法則性みたいなものはある気はするな」


「そうですね。慣れてみれば、言うほど予想外のことは起こらないっていうか」


「そうそう、そんな感じ」


「けどダンジョンって、そもそも何なんすか? うちら探索者シーカーもそうっすけど、レベルとかステータスとかモンスターとか、ゲームみたいっすよね」


 本質的な質問が来たな。

 だが、それにはこう答えるしかあるまい。


「それな。ダンジョン探索の先輩から言わせてもらうとだ。何も分からん」


「そうですね。そのさらに先輩から言わせてもらうと、何も分からないです」


「なるほど。何も分からないということが分かったっす」


 探索者シーカーはダンジョン探索を行うプレイヤーであるからして、ダンジョン探索のプレイングには詳しいが、根本的なダンジョンの原理に詳しいわけではないのだ。


 テレビのリモコンを操作したらテレビが付く、ぐらいのもの。

 操作方法さえ分かっていれば、プレイはできてしまう。


「でも弓月も、ダンジョン発生時期に起きた事件とかの基本的なことは知ってるんだろ?」


「基本的なことって、三十年前にダンジョンが発生したとか、ダンジョンからモンスターが出てきて大変なことになったとか、その辺のことっすか?」


「そうそう。俺もそれぐらいしか分からん」


「つまりパンピー並みってことっすね」


「実際、十日ぐらい前まではパンピーだったからな」


 今からおよそ三十年前、全世界で同時多発的に「ダンジョン」が発見され、大騒ぎになったらしい。


 同時期に、これまた同時多発的に「探索者シーカー」たちが誕生。


 彼らだけがダンジョンに転移することができ、彼らの報告でダンジョン内の「モンスター」の存在が明らかとなった。


 ダンジョン発見当初、モンスターはダンジョンの外には出てこないと目されていた。

 探索者シーカーたちが潜ったダンジョンからは、その兆候が見られなかったからだ。


 だがしばらくしてから、未発見だったいくつかのダンジョンから大量のモンスターがあふれ出してきて、その近隣に住んでいた人々を襲いはじめた。


 どこの国も軍隊が出動して、モンスターを撃退しようとした。


 だがモンスターたちの体には不思議なバリアのようなものがあり、それのせいで銃器に代表される現代兵器の効果が薄く、モンスターの制圧には多大な人的被害を要求されることになった。


 しかもダンジョンからは、次から次とモンスターが湧き出てくる。


 すぐさま人類が滅ぼされるような勢いでは到底なかったが、それでも軍戦力だけで戦っていたのでは、モンスターによる被害は拡大の一途を辿ったであろうと目されている。


 そうならなかったのは、探索者シーカーの力に覚醒した者たちが戦場に現れ、軍戦力をはるかに超える勢いでモンスターたちを殲滅していったからだ。


 探索者シーカーの攻撃に対しては、モンスターが持つ謎のバリアは効力を発揮しない。

 モンスターの天敵が、探索者シーカーだったわけだ。


 やがて探索者シーカーたちは、転移魔法陣から次々出てくるモンスターの勢いを押し返し、自らそれらのダンジョンへと潜っていく。


 するとそれらのダンジョンからは、モンスターがあふれ出てくることはなくなった。


 ダンジョン内で探索者シーカーが活動するようになると、そのダンジョンは外部にモンスターを吐き出すことがなくなるようだと、今のところは結論付けられている。


 ダンジョンからモンスターがあふれ出てくる現象を「オーバーフロー現象」と呼ぶが、ダンジョン誕生初期のそうした騒動以降は、オーバーフロー現象は滅多に起こっていない。


 稀に起こるものも、それまで未発見だったダンジョンによるもの。

 現在進行形で探索者シーカーが潜っているダンジョンでオーバーフロー現象が発生した事例は、今のところないようだ。


 ただどこぞの国が、実験としてとあるダンジョンの探索を禁じたところ、一定期間を置いた後にオーバーフロー現象が発生したという結果もある。


 なので、とりあえずダンジョンには探索者シーカーを潜らせておけ、ということになっている。


 ……というあたりが、ダンジョンの歴史に関する基礎知識だ。


 弓月にはパンピー並みとは言ったが、ここ一週間ぐらいで少し頑張って調べたから、そこらのパンピーよりは詳しいかもしれないな。


 と、そんな話をしながらダンジョン第一層を進んでいると、例によって小太刀さんがぴくりと反応した。


「火垂ちゃん、前方からモンスターです。最弱のモンスター一体なので、火垂ちゃんに任せます」


「りょ、了解っす! うひぃ~、実戦だぁ」


 緊張の面持ちで待ち構える弓月。


 直後、洞窟の先から一体のコボルドが姿を現した。

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