第26話 弓月火垂のステータス

「弓月、このステータス、見てもいいか? ステータスはあまりみだりに人に見せるものじゃないらしいんだが」


「これってほかの人にも見せれるんすか? ……な、なんか恥ずかしいっすけど、どうぞっす」


 弓月は少しためらいながらも、俺と小太刀さんに自分のステータスを見せてきた。

 内容はこんな感じだ。



弓月火垂

レベル:1

経験値:0/10

HP :18/18

MP :30/30

筋力 :5

耐久力:6

敏捷力:7

魔力 :10

●スキル

(なし)

残りスキルポイント:1



「これはまた、ずいぶん尖ったステータスだな」


「そうなんすか?」


「俺は1レベルのとき、筋力、耐久力、敏捷力、魔力の数字は7、8、6、7だったな」


「私は6、6、10、6でした」


 小太刀さんも口を挟んでくる。

 小太刀さん、やたら敏捷力が高いとは思っていたけど、やはり1レベルのときからそうなのか。


「じゃあうちは、魔力が高いんすか。魔法使いかぁ」


「修得可能スキルのリストも見せてもらっていいか?」


「うっす。ちょっと待つっすよ。ちょんちょんな、と──はい、どうぞっす」



▼修得可能スキル(どれもスキルポイント1で獲得可能)

●武器

・弓攻撃力アップ(+2)

●魔法

・ファイアボルト

・ファイアウェポン

・バーンブレイズ

●一般

・筋力アップ(+1)

・耐久力アップ(+1)

・敏捷力アップ(+1)

・魔力アップ(+1)

・HPアップ(耐久力×4)

・MPアップ(魔力×4)

・マッピング

・アイテム鑑定

・モンスター鑑定



「なるほどな……。【弓攻撃力アップ】はあるけど筋力が低いし、魔法攻撃を優先して考えた方がいいのかもな」


「そうですね。火属性は攻撃魔法が充実していて、【バーンブレイズ】は初期取得できる唯一の範囲攻撃魔法だったはずです」


「あ、あの、二人とも。ちょっと待ってほしいっす」


 弓月は慌てた様子で言って、自分のステータスを隠した。


「ん、どうした?」


「いや、あの……結局うち、ダンジョンに連れてってもらえるんすか?」


「「あっ」」


 俺と小太刀さんの声がハモった。

 そう言われてみれば、そこをすっ飛ばして何事もなくステータス検証に入ってしまっていた。


「別にダンジョンは一人でも入れるが──って、それが気持ち的に厳しいから、俺に『お願い』してきたんだったか」


「そーっすよ! 忘れないでほしいっす!」


「悪い悪い」


 この積極性の塊みたいな後輩が、そういうところで尻込みするのは意外だが。

 俺は小太刀さんのほうに目を向ける。


「どうします、小太刀さん?」


「うーん……。気持ち的にはお手伝いしてあげたいんですけど、1レベルの探索者シーカーを連れるとなると、一時的に私たちの収入や獲得経験値が落ちちゃうのはあるんですよね」


「確かに。ゴブリンアーチャーが出てくる第三層に、1レベルの弓月を連れて行くのは少し怖いか。となると、第一層か第二層で弓月のレベル上げをしないといけない」


「ですです。それに私たちが付き合うとなると、一時的にはかなりの収入減になります。将来への投資と考えられるなら、安いものだと思うんですけど……」


 探索者シーカー一本で生活費を稼いでいる小太刀さんは特に、そのあたりをシビアに考えざるを得ないだろう。


 俺のときは一応のWin-Winが成立したが、弓月を1レベルから育てるとなると、俺と小太刀さんが一時的な不利益を被ることになることは免れない。


 弓月が今後、俺たちとずっとパーティを組んでやっていくつもりなら、その不利益はすぐに取り返せるとは思うが──


 つまり論点は、こうなるか。


「弓月。俺や小太刀さんと、長期でパーティを組んでやっていく意思がお前にあるなら、この話は引き受けられると思うんだが。そのあたりどうだ?」


「『長期でパーティを組んで』っすか? うーん……まだダンジョンに入ってもないし、『やってみないと分からない』っていうのが正直なところっす」


 まあ、そりゃそうか。

 今の弓月はパーティを組むも何も、ダンジョンに潜るというのがどんな感じなのかすら分かってないんだもんな。


 だがその上で弓月は、にぱっと笑顔を作って、俺と小太刀さんに向けてこう言ってきた。


「でも六槍先輩や風音さんのことは好きっすよ。風音さんとはまだちょっと話しただけっすけど、二人と一緒にやっていきたい気持ちはすごくあるっす」


「……お、おう。そうか」


 こういう人たらしなことを平気で言うあたりも、弓月の恐ろしいところなんだよな。


 見れば小太刀さんも、てれてれとした様子を見せていた。

 そりゃそうだよ。

 面と向かって「好き」って言われたら、誰だって照れるよ。


 しかしそうなってくると、あとはもう、俺と小太刀さんがどうするかだ。

 不利益だけで終わる可能性を踏まえた上で、弓月のダンジョン初挑戦に付き合うかどうか。


 といっても、俺の心はもう決まっていた。


 何しろ第四層があの内容だ。

 弓月が成長すれば、ゴブリンシャーマン攻略のための大きな力になってくれるだろう。


 気がかりなのは、弓月もまたバイトとの掛け持ちで、ダンジョン探索に使える日が少ないことだが。

 そのあたりも、おいおい考えていくしかないだろう。


 小太刀さんのほうを見ると、彼女もまた俺の目を見て、こくりとうなずいた。

 よし、決まりだな。


「分かった。じゃあ弓月、今度予定が合うときに一緒にダンジョンに行くか」


「やったっす! じゃあ明日はどうっすか? うちバイト休みだし、六槍先輩もたしか休みだったっすよね?」


「さっそくだな。まあでも、確かに明日は都合がいいか」


 そんなわけで、さっそく明日に弓月のダンジョン探索初挑戦ツアーを行うことになった。

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