第25話 後輩

 今日のダンジョン探索を終えた俺と小太刀さんは、自転車を漕いで駅前のファミレスに向かった。


 ファミレスの前には、少年的な格好の後輩女子が待っていた。

 バイト先の後輩、弓月ゆづき火垂ほたるだ。


 弓月は俺と小太刀さんの姿を見つけると、何やら愕然とした表情を浮かべた。

 現地に到着した俺に向かって、弓月は開口一番、こんなことを口走ってきた。


「む、六槍先輩!? 誰っすか、その美人さんは!?」


「さっき電話で伝えただろ。探索者シーカーの先輩と一緒に行くって」


「うぇえっ!? 探索者シーカーの先輩って、女の人だったんすか!? てか、何やってんすか六槍先輩! まさかこんな綺麗な女性と二人っきりでダンジョンに潜ってたって言うんすか!? 破廉恥、破廉恥っすよ──ぁ痛たっ」


「お前は初対面の人を前に、何を言っているんだ」


 俺は後輩の頭にチョップを落とす。


 弓月は涙目になって、「いや、破廉恥って六槍先輩のことっすよ。初対面の人相手にそんなこと言うわけないじゃないっすか」などと言い訳した。


 ちなみに小太刀先輩は、弓月のはっちゃけぶりを見て「あはは……」と困り笑いを浮かべていた。まあそうなるわな。


 今日のダンジョン探索後に受けた電話。

 それはバイトの先の後輩、弓月火垂からの「お願い」の電話だった。


「お願い」とは何かといえば、弓月をダンジョンに同行させてほしいというもの。


 それというのも、弓月は実は、少し前から探索者シーカーに覚醒していたというのだ。


 でも一人でダンジョンに行くのは踏ん切りがつかず、親に相談しても「危ないからやめておけ」「ほかの人には黙っておきなさい」と言われて、そのままずっともやもやしていたらしい。


 だがそこで、バイト先の先輩である俺が探索者シーカーになってダンジョンに潜ったという話を聞いた。


 身近な人がダンジョンに潜っているとなれば心強い。

 また弓月自身の中でもダンジョンに行ってみたいという気持ちが以前より大きくなっており、両親を説得して、ダンジョンに潜ることに決めたのだという話だった。


 電話でひと通り話を聞いた俺は、すぐ隣にいた小太刀さんに相談した。

 その結果、二人で弓月と会って話をしてみることになった。


 そして駅前のファミレスの前で待ち合わせて、今ここというわけだ。


 小太刀さんも、こんなにはっちゃけたやつだとは思わなかっただろう。

 残念ながら、弓月のテンションはこれで平常運転なのである。


 そんな弓月も、小太刀さんの前に出ると、礼儀正しく頭を下げる。


「はじめまして、弓月火垂っす。うちの先輩がお世話になってるっす」


「こちらこそ、はじめまして。小太刀風音です。よろしくね、弓月さん」


「気安く『火垂ちゃん』って呼んでほしいっすよ。うちも『風音さん』って呼ばせてもらってもいいっすか?」


「う、うん。いいけど……」


 小太刀さんがちらっと俺のほうを見てくる。


 俺がいい笑顔を向けてやると、風音お姉ちゃんは「しーっ! しーっ!」と言って口元に人差し指を立ててきた。


 しょうがない、武士の情けだ。

 お姉ちゃん呼びすると面白いことは黙っておいてあげよう。


 だがその俺と小太刀さんの様子を見た弓月が、驚きの表情を俺に向けてきた。


「あ、あの六槍先輩が、知り合って間もない女性と打ち解けている、だと……!?」


「ちょっと待て、弓月。それはどういう意味だ」


「だって六槍先輩、女子相手には変に壁作るじゃないっすか。ていうかむしろ他人すべてに壁作るじゃないっすか」


「……いや、否定はできないけど」


「勤務先でも、うちぐらいじゃないっすか? 他人行儀じゃなく話せるの」


「ぐう」


 おい後輩、少しは手加減しろ。

 俺の精神的HPはとっくにゼロだぞ。


 こいつもコミュ力の化け物なんだよな。

 こっちの壁をどんどん破壊して、あっさり懐に入ってくる類の。


 ともあれ。

 互いの挨拶が済んだところで、三人でファミレスに入る。


 夕食時だけに待つかと思ったが、意外とすぐに席に案内された。


 各自、夕食メニューを注文する。


 なお小太刀さんにビールは頼ませまいと思ったが、「一杯だけ、一杯だけだから!」などと言うので、一杯だけ許可した。

 なんで俺が小太刀さんの監視役になっているのかは謎である。


 一方、そんな俺と小太刀さんのやり取りを見た弓月は「ふぅん」と言って、興味深々といった様子を見せていた。


 ひととおり注文が終わったところで、本題に入る。


「で、弓月。お前も探索者シーカーだって話だが」


「うん、そうっす。ある日突然、朝起きたら自分のステータスが見れるようになってたんすよ。──【ステータスオープン】」


 弓月はそう言って、自分のステータスを開いてみせた。

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