第24話 第四層の初探索

 第一層、第二層、第三層を最短コースで通過し、俺と小太刀さんは第四層へとたどり着いた。


 景色は相変わらず代わり映えしない洞窟風景だが、遭遇エンカウントするモンスターは変わる。


 第四層の探索を始めて最初に遭遇したのは、ゴブリン×1、ホブゴブリン×1、ゴブリンアーチャー×1、それに初見のモンスター×1という編成だった。


 初見のモンスターといっても、何者であるかは下調べで分かっているのだが。


 そいつの姿はゴブリンに似ているが、豪華な色彩の腰布をまとい、頭にはドクロをかぶり、手には錫杖を持っている。


「ゴブリンシャーマン」というのが、そのモンスターの名称だ。


 下調べによると、第四層ではこのゴブリンシャーマンが曲者だという話だったが、実際に戦ってみてもその通りだった。


 モンスターの群れは、ゴブリンとホブゴブリンを前衛に、ゴブリンアーチャーとゴブリンシャーマンを後衛に据えたフォーメーションで襲い掛かってきた。


 一方の俺たちはというと、まず小太刀さんが初手魔法攻撃を放つ。


「前から削り落とします──【ウィンドスラッシュ】!」


 放たれた風属性の攻撃魔法は、前衛のホブゴブリンに直撃。


 そこに追撃を仕掛けようと、小太刀さんは短剣を両手にホブゴブリンに向かって疾走した。

 小太刀さんお得意の、対ホブゴブリン必殺パターンだ。


 だが──


「なっ!? くぅっ……!」


 小太刀さんがホブゴブリンに追加攻撃を仕掛けるよりも早く、敵後衛のゴブリンシャーマンから火炎魔法の攻撃が飛んできた。


 小太刀さんも警戒はしていたはずだが、回避は間に合わず、直撃を受けてしまっていた。


 致命傷ではないはずだ。

 しかし弾速が速く、緩やかながらも追尾性能を持つあの魔法攻撃を回避するのは、小太刀さんといえども至難の業だろう。


 小太刀さんはそれで気勢を削がれてしまう。


 そこにホブゴブリンの猛攻撃が襲い掛かる。

 小太刀さんはひとまず防御を優先せざるを得なくなった。


「小太刀さん! こいつらっ……!」


 俺はもう一体の前衛モンスター、ゴブリンを槍で攻撃して命中、一撃で魔石へと変える。

 攻撃力を上げた成果が出た。


 だがそこに重ねるようにして、ゴブリンアーチャーが弓矢攻撃を仕掛けてきた。


「ぐっ……!」


 俺はそれを回避できず、腹部に矢を受けてしまう。


 突き刺さった矢は、すぐに黒い靄になって消滅した。

 レザーアーマーの防御力もあり、大したダメージじゃない。


「──うぉおおおおおっ!」


 俺は構わず、ゴブリンシャーマンに向かって突撃した。

 小太刀さんも少し遅れてホブゴブリンを撃破したようだったが、このタイミングなら俺のほうが早い。


 だがそこに、ゴブリンシャーマンが二度目の火炎魔法を放ってきた。


 ターゲットは俺。

 盾で防御しようとしたが間に合わず、脇腹に火炎弾の直撃を受けてしまった。


「ぐぅぅっ……!」


「六槍さん! ──このぉおおおおおっ!」


 小太刀さんが疾駆し、二本の短剣を振るってゴブリンアーチャーを一手で屠った。


 俺もまたゴブリンシャーマンに突進して、槍で攻撃を仕掛けた。


 だがこの攻撃は命中したものの、一撃でゴブリンシャーマンを撃破するには足りなかった。


 ゴブリンシャーマンを魔石に変えることができたのは、もう一発、俺が火炎魔法による攻撃を被弾したあとのことだった。


 モンスターの群れをすべて撃退した後、俺と小太刀さんは地べたにへたり込んでいた。


「はぁっ、はぁっ……! うぁ~、やられたぁ~! ……六槍さん、大丈夫ですか?」


「結構やられましたね……。うわっ、HPが半分以下になってる」


「えっ、怖っ」


 なおHPが0を下回った探索者シーカーは、その場で気絶してしまうらしい。


 ほかの探索者シーカーが近くにいる場合は、モンスターはそっちを優先して攻撃するため、気絶した探索者シーカーが狙われることはない(今のところそういった事例は報告されていない)というのだが。


 現在HPは0を下回るとマイナスになり、最大HPと同じだけマイナスになるとデッドエンドとのこと。

 今のところは、変に無理をしなければそんなことにはなりそうにないが。


 なお前にも思ったが、探索者シーカーの能力に覚醒してからは、「死」に対する恐怖心があまり大きくなくなった気がする。

 死んでしまわないように気を付けよう、ぐらいの感じだ。


 さておき俺は、【アースヒール】を使って俺と小太刀さんの負傷を回復することにした。


 小太刀さんはゴブリンシャーマンの魔法攻撃を一発受けただけだったから、【アースヒール】一発で全快した。


 でもゴブリンシャーマンの魔法攻撃を二発、ゴブリンアーチャーの弓矢攻撃を一発被弾していた俺は、そうはいかなかった。

【アースヒール】を一回使っただけでは足りず、二回目を使ってようやくの全快だった。


 結果、たった一回の戦闘で、俺のMPは「28/40」まで減ってしまった。


 第三層の戦闘であれば、二回か三回戦闘して、一発【アースヒール】を消耗するかしないかぐらいのバランスなのだが。


「これは厳しいな……。ゴブリンシャーマンが一体加わっただけで、こうも戦闘バランスが変わるか」


「第四層、ヤバいですね。あのゴブリンシャーマンをまずどうにかしないと」


「そうなんですよ。でも小太刀さんの【ウィンドスラッシュ】一発じゃ落とせないですよね?」


「うん、それ。【ウィンドスラッシュ】一発じゃゴブリンも落とせないから、シャーマンをそれで落とせるとは考えにくいです。二発撃ち込めば、とは思いますけど」


「俺がレベル上がったら【ロックバレット】を取るか……。でもそれだとどっちみちMP食うんだよな」


「「うーん」」


 俺と小太刀さん、二人で唸って考え込んでしまった。


 ネットで調べたダンジョン情報によれば、第四層のモンスター編成は、一言で言うなら「第三層のモンスター編成+ゴブリンシャーマン一体」だ。


 ゴブリンシャーマンは必ず一体、編成に含まれている。

 それに加えて、第三層のモンスター編成がそのまままるっといるという、なかなかに凶悪な敵構成だ。


「もうしばらく、第三層でレベル上げするべきですかね?」


「そうするしかないかもです。私は昨日11レベルになったばかりなので、しばらく上がらないと思いますけど。何か決定打がほしいですよね」


 というわけで、俺と小太刀さんは第四層探索を一時断念し、第三層に戻ってレベル上げをすることにしたのだった。


 だがこの閉塞した状況を打ち破りうる知らせが、この日のダンジョン探索後に訪れた。


 夕方の五時過ぎ頃。

 今日の探索を終えてダンジョン総合の建物に戻った俺は、スマホの着信に気付く。


 リダイヤルすると、スマホの向こうからは人懐っこい後輩の声が聞こえてきた。


「あ、六槍先輩、ちーっす! あのっすね、うち、先輩に折り入ってお願いがあるんすよ。『うちをダンジョンに連れてって♡』ってやつなんすけど」


 バイト先の後輩が、何やらわけの分からぬことをのたまってきたのである。

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