第23話 小太刀さんとの約束の日
川岸の土手の斜面には、初夏の緑が草原となって広がっている。
俺は土手の上の舗装された道路上で、自転車を漕いで目的地へと向かった。
ダンジョン前の待ち合わせ場所まで行くと、目的の場所でそわそわしている小太刀さんの姿が見えてきた。
小太刀さんは俺に気付くと、ぱぁっと花開くような笑顔を見せて、手を振ってきた。
「六槍さん、おひさしぶりです! 約束通りに来てくれたので、鬼電はせずにすみました」
笑顔を向けてくる小太刀さんは今日も素敵だ。
俺はすぐ前まで行って自転車を止めると、ドキドキしている内心を隠して返事をする。
「それは良かったです。……ていうか小太刀さん、来るの早くないですか? まだ約束の十五分前ぐらいのはずですけど」
「えへへっ。待ち遠しすぎて、少し早く来ちゃいました。昨日までの独りでのダンジョン探索、寂しかったんですよぉ~」
「そ、そうですか。じゃあ、さっそくダンジョンに行きましょうか」
「はいっ♪」
自転車を所定の場所に停めつつ、ルンルンステップでダンジョン総合に向かう小太刀さんの後を追う。
俺はすぐに勘違いする系男子なので、「これは実質デートなのでは?」などと思ってしまうのだけど、そんなことはもちろん口には出さない。
装備預かり窓口で装備品を回収し、更衣室で着用する。
ダンジョン総合案内の窓口では、俺の
先週のうちに顔写真等を提出しておいたのだ。
俺はそれをしっかりと財布にしまい込む。
その後俺は、武具店に行って6000円で「レザーヘルム」を購入し、頭にかぶった。
これで俺のダンジョン予算は、残り15000円ほど。
残額は25000円のロングスピアを買うために取っておきたい。
ショートスピア、ウッドシールド、レザーアーマー、レザーヘルムを装備した俺は、そこはかとなくフル装備の戦士っぽい姿になった。
ちょっとダサい気もするが、そこは気にしたら負けだと思う。
装備を整え終えたら、小太刀さんと一緒にダンジョン入口へと向かい、魔法陣を使ってダンジョン内に転移した。
第一層に降り立った俺と小太刀さんは、第二層への階段を目指して歩きはじめる。
ダンジョンを進みながら、小太刀さんが俺の顔をひょこっと覗き込んできた。
「……ひょっとして六槍さん、ちょっと疲れてます?」
「えっ、そう見えますか?」
「うん、そんな気がします。どことなくですけど」
「うーん、そこまでではないと思うんですけどね。バイトの休日にダンジョン探索を入れているので、今日までで実質十三連勤とかで。さすがに疲れが出てきた感じはちょっとあります」
「うへぇ、そっかぁ……。お疲れ様です。……ていうか私、六槍さんに無理言っちゃってます?」
「いえいえ、そんなことは全然。小太刀さんとのダンジョン探索は超楽しいですし、俺もやりたくてやっているので。それにバイトの退職願いは出したので、あと一週間耐えれば俺も専業
「え、本当ですか? それじゃその後は、毎日二人でのパーティ探索ができ──」
そこまで言ったところで、小太刀さんが手で口元を押さえて黙り込んだ。
何やら恥ずかしそうに、頬を赤らめているようにも見える。
それから小太刀さんは、何かを誤魔化すようにコホンと咳込みをして、こう続けた。
「そ、それじゃ今日は、あまり遅くまでの探索にならないようにしましょうか。いつも夜遅くまでになっちゃうので」
「そうですね。八時入りなので、五時上がりぐらいの探索計画で臨めればと」
「了解です。その方向でいきましょう。──っと六槍さん、お客様ですよ」
小太刀さんの【気配察知】が、モンスターの存在を感知した。
洞窟の先から、一体のコボルドが姿を現す。
「一体じゃもう、肩慣らしにもならないですね。──よっと」
俺は襲い掛かってきたコボルド一体を槍で攻撃して、一瞬で魔石へと変える。
そして粛々と魔石を拾いつつ、何事もなかったかのように洞窟を進んでいく。
最初と比べれば、俺もずいぶん強くなったなと思う。
今日の目的は、第四層の探索だ。
初挑戦だが、今の実力でどこまでやれるか試してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます