第20話 武器屋のオヤジ
ひとまず武具店の中に入って、強面スキンヘッドのおっさん店員こと大迫さんに、外で起こった出来事を説明した。
ちなみにこの大迫さん、この店の店長で、昔は凄腕の
あの新田という男よりもはるかに高レベルなのだとか。
「昔は」と言いつつ今も実力は健在なのだが、現在はダンジョンに潜ることは基本的になく、ここで武具店の経営をやっているのだという。
あと
ひと通り話を聞き終えた大迫さんは、こう感想を漏らした。
「ふむ、なるほどな。新田の野郎、前々から素行があまりよくないとは思っていたが、今回のは捨ておけねぇな。新人イビリって時点でどうしようもねぇが、実際にやったことはそれすら軽く超えてんだろ」
「あの……私たちの言い分を、一方的に信じてくれるんですか?」
小太刀さんがおずおずとそう聞くと、大迫さんはニッと笑う。
「そりゃあな。あいつとお前さんたちとじゃ、普段の印象が違う。それもやつの自業自得ってわけよ。それに加えてさっきの状況だ。差し当たって疑う余地はないな」
「あ、ありがとうございます!」
「なに、礼を言われるようなことじゃねぇ。俺は客を選ぶタイプの武器屋のオヤジなのさ」
そう言って、歯をキラリと光らせるスキンヘッド店長。
格好いい。惚れる。
ちなみに小太刀さんの話によると、あの新田という男とは、小太刀さんがダンジョン探索を始めてから二日目に出会ったのだという。
「ベテラン
そのとき小太刀さんは、あの男の態度に嫌なものを感じたから、適当な理由をつけて断った。
結果、さっきの言いがかりをつけられることになったわけだ。
スキンヘッド店長こと大迫さんによれば、今回起こった出来事をダンジョン総合案内で相談すれば、取り調べの結果次第で免停(
「ああいう手合いもまったくいないわけじゃないし、
「どうしてですか?」
「自由じゃない
そう言ってまたニヤリと笑う大迫さん。
いや、気持ちはすごく分かるが、それもどうなんだろう。
この大迫さんも、わりと適当な人なのかもしれないな。
まあ、それはそれとして。
「けど、悔しいですね……。自分がまだ新人
俺は拳をギュッと握り締める。
物事がトントン拍子で進んでいたせいか、俺の中にも油断があったのかもしれない。
俺の力は、あのチンピラみたいな男に対してまるで歯が立たず、戦いにすらなっていなかった。
実際のところ、槍を使ったところで結果は何一つ変わらなかっただろうと確信できるほどだ。
今よりももっと、強くなりたい──切実にそう思った。
だから今回のことは、自分の目を覚ますいい冷や水になったと、そう考えておこう。
いや、それでもあの男が小太刀さんにやろうとしていたであろうことは許せないが。
「一般的な熟練
「【限界突破】、ですか……?」
「ああ。だがそいつぁ今は気にすることはねぇ。【限界突破イベント】に遭遇できるかどうかは、どのみち運次第だしな」
そう言ってから、大迫さんはパンパンと手を叩く。
「さて、それじゃあ本業に戻ろうか。お前さんたち、今日は何を買いにきたんだ?」
「あ、そうでした」
小太刀さんが【アイテムボックス】を出現させて、そこから剣を取り出す。
それを売却したい旨を大迫さんに伝えた。
なお【アイテムボックス】といえば、俺も5レベルになったせいか、修得可能スキルのリストに【アイテムボックス】が出現していた。
小太刀さんが持っているから彼女とパーティを組む前提ならそこまで必須ではないのだが、それだと細々と不便があるので、できれば俺も修得しておきたいと思っている。
「ふむ。【アイテム鑑定】をしてみたが、何の変哲もないブロードソードだな。【耐久値】も減ってないようだし、15000円でよければ買い取るぜ」
それを聞いた小太刀さんが俺のほうを見てきたので、俺はうなずく。
結果、15000円での売却が成立した。
だがこれにも税金の源泉徴収がかかるらしい。
普通のリサイクルショップであればそんな制度はないのだが、
結果、ブロードソードの売却金額によって、俺と小太刀さんは6750円ずつの追加収入を得ることになった。
それでも十分大きいな。
ところで──
「あの、大迫さん」
「ストップ。俺は武器屋のオヤジだから、『オヤジ』あるいは『オヤジさん』と呼んでくれ」
スキンヘッド店長は、大迫さん呼びにノーを言い渡してくる。
そこはこだわりがあるらしい。
あの新田という男も大迫さん呼びをしていた気がするが……まあどうでもいいか。
「分かりました。オヤジさん、さっき言ってた【耐久値】って何です?」
渡したブロードソードの【耐久値】がどうとか言って買い取り額を決めていたので、気になっていたのだ。
「ああ。そいつはな、武器や防具が壊れるまでの残り寿命みたいなもんだ。未使用状態なら一律100。攻撃を命中させたりダメージを受けたりすると減って、0になるとそのアイテムは壊れる。残り【耐久値】は【アイテム鑑定】のスキルで確認することができるぜ」
「なるほど」
俺は【アイテム鑑定】なんて持ってないし、修得可能スキルのリストにもないけどな。
小太刀さんはどうだか知らないが。
「逆に言うと、そいつが0にならない限りは、その武具は完全な性能を発揮し続ける。防具なら一度どこかが貫通されても、すぐに修復される。どれだけ使用するとどの程度の【耐久値】を消耗するかは、そのアイテム次第だ」
ダンジョン産のアイテム、凄いなおい。
いっそ魔法より魔法なんじゃないだろうか。
そこに小太刀さんが口を挟んでくる。
「そういえば、昨日ずっと気になっていたんですけど。六槍さんが着ている服って、『ダンジョン用の衣服』じゃないですよね?」
「『ダンジョン用』……? ダンジョン用の服とかあるんですか?」
「ありますあります。魔石を使って作られたダンジョン用の衣服は、武具と同じで、破損してもすぐに修復するんです。付いてしまった血なんかも綺麗に消えますし。これもその衣服の【耐久値】がなくならない限りはですけど」
「あー……」
そういえば、俺が昨日着ていた衣服は、わりとあちこち穴が開いてしまっていた。
服がいちいち使い物にならなくなってしまうのは困るので、どうしようかとは思っていたのだ。
「ダンジョン用の衣服も、うちの店で扱ってるぜ。よければ見ていってくれ」
スキンヘッド店長──武具店のオヤジさんが、サムズアップをしながらいい顔を見せてくる。
ううむ、ダンジョン探索にはあれこれ経費がかかるな。
これだと収入も、バイトの給料と同じように考えていてはダメそうだ。
なおフリーランスや個人事業主の年収は、経費や税金などの諸々を考えると、サラリーマンの年収の三倍ぐらいあってトントンだとかいう話を聞いたことがある。
もちろんそれも、職種次第のところはあるのだろうが。
とにかく言えるのは、
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