第18話 どうしてこうなった
──チュン、チュンチュン。
家の外から、小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「うんっ……」
床で毛布に包まった俺は、ぶるりと震える。
初夏の暖かくなってきた時期とはいえ、まだ寒い日もあり、そんな日には床に毛布一枚で寝るのは少し厳しい。
「ん……?」
寝ぼけた頭が鮮明になってくる。
そもそもどうして俺は、床に毛布一枚で寝ているんだ?
「うぅん……」
そのとき俺のベッドのほうから、悩ましげな女性の声が聞こえてきた。
俺はそれで、びくりと震え上がる。
おそるおそるベッドを見る。
そこには俺がいつも寝ている布団に包まり、安らかな寝息を立てている若い女性の姿があった。
冷や汗が止まらない。
どうして小太刀さんが、俺の家の俺のベッドで寝ているんだ。
「ムニャムニャ……もう、六槍さん……それを入れるのは、ここですってばぁ……」
小太刀さんの寝言攻撃。
俺の混乱は止まらない。
いったいどんな夢を見ているんだ。
……いや、落ち着け。
小太刀さんはしっかり服を着たまま寝ているし、俺は床で寝ていた。
何も間違いはないはずだ。
思い出せ。
昨日の夜、何があった?
打ち上げ、ファミリーレストラン、並んでいくビールのジョッキ、酔いつぶれて寝てしまった小太刀さん──そうだ、思い出した!
どうしていいか分からなくなった俺は、タクシーで俺の家まで小太刀さんを運んで、彼女を自分のベッドに寝かせたのだ。
タクシーの運ちゃんに疑いの目で見られたのをうっすら覚えている。
てことは、二人の自転車、ファミレスに置いたまんまじゃん──とか、問題はそこじゃない。
どうして俺は、自宅に運んだのか。
まだファミレスで一晩明かしたほうが健全だったんじゃないかとか……。
「んっ……ふわぁああああっ……。……あれ、ここどこ……?」
小太刀さんが起きた。
上半身を起こし、寝ぼけ眼で周囲を見回す。
衣服がはだけて見えた首元から肩にかけてが、妙に艶めかしい。
俺と小太刀さんの目が合った。
小太刀さんは、かわいらしく小首を傾げる。
「あれ……? おはようございます、六槍さん……?」
「お、おはようございます、小太刀さん」
小太刀さんはまだ寝ぼけた様子で、ぐるりと部屋中を見回す。
やがてその目がはっきりと見開かれていき、ぱちくりと何度もまばたきをした。
その表情が、徐々に青ざめていく。
「え……あの、六槍さん……? こ、ここは……?」
「落ち着いて聞いてください、小太刀さん。まず、ここは俺の自宅です」
「ふぇっ……? ──えぇえええええーっ!?」
「だから、落ち着いて聞いてくださいってば!」
顔を真っ赤にして絶叫する小太刀さんが冷静さを取り戻すには、数分の時間を要することになった。
***
「……面目次第もございません」
「いえ、こちらこそ。もっと気の利いたやり方があったのではないかと……」
肩身を狭くして恐縮する小太刀さんに、俺もまた反省の言葉を述べる。
朝食の席。
狭いワンルームでちゃぶ台を挟み、俺は小太刀さんと二人で食事をしていた。
まあ朝食といってもトーストとハムエッグとトマト、レトルトのコーンスープぐらいのものだが。
ひとまず話は理解してくれた小太刀さん。
俺に何もやましいところがないと納得すると、今度は自己嫌悪に陥ったようだ。
「六槍さんが優しすぎて、自分がダメすぎて、鬱になる……。人間の屑でごめんなさい……」
「いや、俺はいいんですけどね。不用心ですよ。世の中には悪い男だっているんですから」
「あ、でもでも、それは六槍さんの人柄を見てですよ? 誰彼構わず気を許したりはしません。そこは大丈夫です」
「……つまり反省してないと」
「ぴえんっ! 反省してます! 本当にすみませんでした!」
ほとんど土下座のようにして、深々と頭を下げてくる小太刀さん。
いや、いいんだけどさぁ……。
俺は大丈夫だと思ってるんなら、その人を見る目、全然あてにならないからね?
「まあ今回の件は、後々しっかり反省してもらうとして。今日はこのあと、二人でダンジョンに向かうでいいですか? ファミレスに止めっぱなしの自転車は回収しつつですけど」
「あー、えっと……すみませんけど一度、家に帰る時間をいただけると。さすがに身だしなみが……。お風呂にも入りたいですし」
「分かりました。じゃあ一度解散して、十一時ぐらいでいいですかね。ダンジョン前に再集合ってことで」
「了解です!」
びしっと敬礼してくる小太刀さん。
最初は美人のお姉さんキャラだったのに、すっかり三枚目キャラが板についてきたなぁ……。
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