第17話 打ち上げ
(※作者注:この作品は未成年の飲酒を推奨するものではございません)
***
「それでは、初めてのパーティ探索の大成功を祝して、かんぱーい!」
「か、かんぱーい……」
小太刀さんと俺、二人のビールのジョッキが打ち合わされる。
二人掛けのテーブルには、パスタやチキンソテー、フライドポテトやサラダなどの料理が次々と運ばれてきていた。
ここは駅前の繁華街にあるファミリーレストラン。
ダンジョン探索を終えた後、小太刀さんと二人で自転車を漕いでやってきたのだ。
「んぐっ、んぐっ、んぐっ……ぷはぁああああっ! やっぱこれですよね~。仕事終わりの一杯は格別です。──ほら、六槍さんも飲んで飲んで」
「いや、あの、俺まだ二十歳になってないんですけど……」
「あーっ、そういえばそうでしたっけ。でも大丈夫ですって。来年には二十歳なんだからイケるイケる。ほら、ぐーっと」
「はあ……」
その理屈はどうなんだと思いつつも、小太刀さんに勧められて飲まないのも気が引ける。
ちなみに問答無用で生を二つ頼んだのは小太刀さんである。
俺は一口、ジョッキのビールを口に含んで飲んでみる。
苦いけど、胃に落ちていく冷たい清涼感は、疲れた体に染みわたる感じはした。
一方の小太刀さんは、店員さんにビールの追加を頼みつつ、食事に手を付けていく。
「六槍さんも、すきっ腹にお酒だけ入れるとまずいですから食べて食べて」
「い、いただきます」
小太刀さんのこのノリは何なのか。
年下の面倒を見るお姉さんとか、なんかそういうテンションだ。
俺もそれに押されている。
なんだか小太刀さんの顔をまともに見れずに、うつむきながら食事をとっていた。
ちらりと視線を小太刀さんの顔を見れば、何とも幸せそうな表情で顔を赤らめながら、ビールや食事を口に運んでいる。
ダンジョン探索中は彼女との間合いをつかんだような気がしていたが、ダンジョンを出るとなんかダメだ。
「でも六槍さん、今日は本当に楽しかったです。私、こうやって誰かと一緒の時間って、久しぶりなんですよ。最近ずっと一人だったから」
「……そうなんですか?」
「そうなんです。私、おばあちゃんっ子でね。両親が事故で亡くなってからは、おばあちゃんと二人で暮らしていたんですけど、そのおばあちゃんも最近病気で死んじゃって」
なんか突然、重たい話が来たぞ。
俺が口を挟みかねているのも構わず、小太刀さんは自分語りを進めていく。
「それからなーんか、ぽっかり胸に穴が開いたみたいになっちゃって。なんか全部どうでも良くなって仕事もやめてしまって。そしたらある日突然、
「…………」
「ダンジョンの報酬に人権がなかったのが、逆に良かったのかな。命懸けの仕事で最低賃金以下の収入ってウケますよね。でもそれでムキになって、おうおうやっちゃるわいみたいになって。──で、今日初めて同い年ぐらいの
お酒で顔を赤らめた小太刀さんの舌はよく回る。
もともとよくしゃべる人だと思っていたけど、これはもうなんか、彼女の中にあった「誰かにしゃべりたかったこと」が堰を切ってあふれ出した感じだ。
「でも今日は本当、久しぶりに楽しかったなぁ。生きてるって感じがした。六槍さんって、いい人ですよね。優しくて謙虚で気遣いさんで」
「ど、どうも……」
要するに、なんだろう。
これはいわゆる「くだを巻かれている」という状態なのだろうか?
俺は一向に構わないのだけど、この人は大丈夫なんだろうか。
気が付けば小太刀さんの前には三つ目の空きジョッキが並んでいるのだが。
さらに店員さんが次の一杯を持ってきて、空いたジョッキを下げていく。
ちなみに俺のジョッキはまだ最初の一杯目が半分も減っていない。
「あ、あの、小太刀さん。大丈夫ですか……?」
「……? 大丈夫って、何がれすか? おばあちゃんが死んじゃって寂しくないかって、そういうことれすか? それなららいじょうぶれす。今のわらひには、六槍さんがいますから。えへーっ」
いつの間にか、見事に呂律が回らなくなっているんですが。
あの飲みっぷりは酒に強いからやってたんじゃないの?
「いや、そうじゃなくて……」
「なんれすか? まさか六槍さんは、わらひのこと捨てるんれすか? ぐすっ……さっきは責任取ってくれるって言ったじゃないれすかぁ!」
「えぇーっ……」
待って待って、いろいろおかしい。
誰か彼女の保護者は……いない!
しいて言うなら、俺しかいない。
そして、その後も小太刀さんの勢いは止まらず──
やがて俺の前で、テーブルに突っ伏して眠りこけてしまった。
……無防備すぎんだろ。
なんで俺、こんなに信用されてるの?
俺が悪い狼さんだったらどうする気だよ。
などなどといろいろ突っ込みがやまない状況ではあったが、寝てしまったものはしょうがない。
ゆすってもムニャムニャ言うばかりで起きる気配を見せない。
……どうしよう、この人。
俺もまた、初めてビールを飲んだせいもあってか、頭がふわふわして思考が回らない状態だった。
どうしていいか分からなくなった俺は──
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