第16話 初めてのパーティ行動(9)

 その後も俺たちは、第三層の探索を順調に続けていった。


 第三層のモンスター編成は確かにエグい。

 ホブゴブリン二体だの、ゴブリン四体だの、おおむね第二層の二倍に相当する敵戦力と遭遇する。


 それに加えて【ゴブリンアーチャー】なんていう射撃攻撃をしてくる初出モンスターまで混ざってきて、そりゃあさすがの小太刀さんだって単独ソロで攻略するのは厳しかろうという塩梅だった。


 だがそれも、小太刀さん一人であればの話。

 低レベルであるにせよ二人目の探索者シーカー──つまり俺がいるとなれば、戦力バランスは大きく動く。


 戦い方としては、本気になった小太刀さんがアタッカーとして大暴れして、俺がそれをサポートして支える感じだ。


 結果、過半数の戦闘をノーダメージで完封したし、たまにどちらかが怪我をしたときも【アースヒール】であっさり全快できる。


 ちなみに単独ソロで探索していたときは、小太刀さんは大きなダメージを負うたびに一本3000円の【HPポーション】を使い捨てにせざるを得なかったらしい。


 そりゃあ赤字にもなるってものだ。

 なのでこれまでは、余裕を持って戦える第二層で、地道にレベル上げに励むしかなかったのだという。


 結局この日、俺たちは夜の九時ぐらいまでどっぷり第三層の探索をしてから帰還することになった。

 帰路に時間がかかることもあり、ダンジョンを出たときには夜十時を回っていた。


 久しぶりの外気に触れた小太刀さんは、月明かりが照らす暗い夜の土手で、うんと大きく伸びをする。


「んんっ……! 疲れたぁ~! 今日はお疲れ様です、六槍さん。本当に助かりました」


「小太刀さんもお疲れ様。こっちこそ小太刀さんにおんぶに抱っこで申し訳ない」


「何をおっしゃるウサギさん。痒いところに手が届くフォローといい、いざというときの【アースヒール】といい、最高だったじゃないですか。私はもう六槍さんなしじゃ生きていけない体になっちゃいました。責任取ってください」


「はいはい、姫の仰せのままに。どこまでもお供しますよ」


 お互い軽口を言い合っているのだが、どこまで本気なのか自分でもよく分からない。

 小太刀さんもハイテンションのままにノリで言っているだけだろう。


「あと私ばっかり経験値を取ってしまってすみません。なるべく六槍さんにもトドメを回したかったんですけど、なかなかそうもいかなくて」


「いえ、そこはレベル差があるんで仕方ないですよ。それでも5レベルには上がりましたし」


 第三層の探索で、俺のレベルは4から5に上がっていた。

 ステータスはこんな感じ。




六槍大地

レベル:5(+1)

経験値:143/220

HP :44/44(+4)

MP :16/36

筋力 :10(+1)

耐久力:11(+1)

敏捷力:9(+1)

魔力 :9

●スキル

【アースヒール】

【マッピング】

【HPアップ(耐久力×4)】

【MPアップ(魔力×4)】

【槍攻撃力アップ(+2)】

残りスキルポイント:0




 スキルは念願の(?)【槍攻撃力アップ(+2)】を取得。

 その影響か、帰り道で遭遇したコボルドは一撃で倒すことができた。初めて。


 ちなみに修得可能スキルのリストには新しく【槍攻撃力アップ(+4)】が出現していた。

 前情報どおりだな。


 その後俺たちは、二十四時間営業のダンジョン総合案内に行って、換金窓口で獲得した魔石の清算を行った。


 やがて魔石の買い取り伝票とともに、二人分の現金がそれぞれに渡される。

 俺が渡された伝票には、このような内容が記載されていた。


コボルド……単価400円、個数6

ゴブリン……単価600円、個数18

ゴブリンアーチャー……単価700円、個数7

ホブゴブリン……単価1000円、個数7

小計……25100円

パーティ按分(50%)……12550円

源泉徴収(1割)……1255円

───────────────────

支払い……11295円


 ……驚いた。


 パーティ二人で頭割りした上で、一人分の手取りが11000円以上。

 午前中の2880円と比べると、ほとんど四倍近い金額だ。


 午後から夜にかけてダンジョンに潜っていた時間が、ざっと七時間から八時間といったところか。

 手取り時給およそ1500円。

 これはかなり人権を得た気がするぞ。


 いや、命懸けの仕事の報酬としてこれで満足するのもどうなんだという気もするが、午前が午前だっただけになぁ。


 ちなみに大手飲食チェーン店でバイトしている俺の時給は1110円(額面)だ。

 その前のブラックな就職先は、いろいろあって時給換算の実質額面賃金は1000円を余裕で下回っていたと思う。


 一方で小太刀さんも、伝票と現金を見て、にへらっと締まらない笑みを浮かべていた。

 彼女は俺の視線に気付くと、喜色満面で訴えかけてくる。


「六槍さん、ヤバいですよ。これでポーション経費ゼロですよ? ヤバいです。これは人権ですよ人権」


 同じこと言ってるし。

 だがそれだけではなく、小太刀さんはさらに、にひーっと笑いかけてくる。


「し、か、も。今回はこれだけじゃないんですよ。覚えてますか、六槍さん?」


「覚えてるって、何がです?」


「ふっふっふ。私の【アイテムボックス】には、何が入っているでしょーか!」


「【アイテムボックス】? ……あー、第二層でホブゴブリンを倒したときに手に入れたブロードソードか。え、あれが売れるってことですか?」


「もっちろーん♪ でも武具店はこの時間には閉まっているので、それは明日のお楽しみですね」


 ちなみに俺は今日の探索中に、明日も小太刀さんとパーティを組んで探索することを約束していた。

 明後日からは五連チャンでバイトが入っているのだが、明日はまだ休みだ。


 まあ実質、休日まで労働していることになるのだが。

 ダンジョン探索は別腹というか、楽しいのでアリというか。

 体力面はヤバくなってきたら考えよう。


 なお、俺はバイトを辞めて、小太刀さんと同じように探索者シーカー一本でやっていく方向へと気持ちが傾きつつあった。

 少なくとも食っていけるだけの稼ぎは得られそうだしな。


 と、そこで小太刀さんがお腹を押さえる。

 ぎゅるるるーっと空腹の音が鳴った。


「ううっ……六槍さん、お腹減ってませんか? 私もう腹ペコで」


「そうですね。じゃあ今日は解散にしますか」


「えっ……? あ、いや、その、せっかくなので晩御飯もどこか一緒に食べに行かないかなーと思ったんですけど。……ご迷惑でなければ、ですけど」


「えっ、行きます。ご迷惑でないです」


 俺は即答した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る