第15話 初めてのパーティ行動(8)
第三層への階段は、すぐに見つかった。
こうなることを予想して、小太刀さんが階段近辺で探索していたのだ。
二人で下層への階段を下りていく。
第一層から第二層に降りたときと同じような形状の螺旋階段をぐるりぐるりと下りて、やがて第三層へとたどり着いた。
第三層の景色は、相変わらず第一層、第二層と代わり映えしないものだ。
でも小太刀さんがまとう気配が、少し変わった。
「ここからは私も本気でやりますので。経験値配分をあまり意識できなくなると思いますけど、ご容赦を」
「了解です」
凛々しい小太刀さんも素敵である。
なお茶化すのはさすがにやめておいた。
二人で第三層を進んでいく。
その途中、小太刀さんが腕時計をちらりと見る。
「そろそろ五時ですね。六槍さんは午前中もダンジョンに潜っていたみたいですけど、どうします? 帰り道もありますし、軽く一時間ぐらい探索して上がりにしましょうか?」
「俺は遅くまででも行けますよ。MPもだいぶ残ってますし、小太刀さんが都合悪くなければ、行けるところまで行ってみたい感じです」
「なら二人で行けるところまで行っちゃいましょうか。『ふっ、今夜は帰さないぜ』、なーんちゃって」
「…………」
「だ、黙らないでくださいよ! 気まずいじゃないですかぁ!」
いや、だってさぁ……。
誘ってるの? 天然なの? いたいけな男子の心を弄ぶのが趣味なの?
まあそんなこんなの小悪魔風音お姉ちゃんを頑張ってスルーしつつ、俺は彼女と並んでダンジョンを進んでいく。
するとしばらくして、小太刀さんが反応した。
「六槍さん、モンスターです。三体」
小太刀さんがいつものように、モンスターとの遭遇を告げてきた。
それからほどなくして、行く手の先から三体のモンスターが姿を現す。
しかし小太刀さんの【気配察知】、モンスターの気配に一足早く気付くは気付くんだけど、本当に一足なんだよな。
よっぽど絶妙なシチュエーションでもないと、奇襲を仕掛けるようなタイミングは取れない感じ。
それでもスキルがないよりは全然いいけど。
さておき。現れたモンスターは一体が大柄、二体が小柄なやつだった。
ありていに言うと、ホブゴブリンが一体と、ゴブリンが二体だ。
さすがは第三層、モンスターの編成がエグい。
「ホブゴブリン一体」も「ゴブリン二体」も、第二層ならそれぞれが一回の遭遇でぶつかる戦力だ。
さすがの小太刀さんでも、これをまとめて一人で相手にするのは大変だろう。
三体はトンネル状の洞窟を、こちらに向かって駆けてくる。
ゴブリン二体が先に来て、ホブゴブリンがその後ろからだ。
俺はいつものように槍と盾を構え、迎え撃つ姿勢を取る。
だが小太刀さんは少し違った。
二本の短剣を構えた小太刀さんの体が、淡い緑色の光をわずかに発したかと思うと、次の瞬間──
「──【ウィンドスラッシュ】!」
小太刀さんの凛とした声とともに、突き出した右の短剣の先から、緑色に光る三日月状の斬撃が高速で発射された。
それは前を走ってきたゴブリンを無視して、後ろのホブゴブリンに直撃する。
魔法によって胸部を深く切り裂かれたホブゴブリンは、苦悶の叫びをあげた。
だが前を走っていた二体のゴブリンは、それを意に介した様子もなくこちらに向かってくる。
「──はぁああああっ!」
小太刀さんが駆け出して、ゴブリンのうち一体に、二本の短剣で斬りつけた。
そのゴブリンは、一瞬にして黒い靄となって消滅する。
ヒューッ。
本気の小太刀さん怖いわ。
距離があるうちに魔法で一撃を加えて、彼我の距離が近付いたら近接戦闘でさらに攻撃を仕掛ける。
俺が【ロックバレット】を使ってやろうとしていたのと同じ戦術だな。
一方の俺も、ぽかんと見ているわけにはいかない。
小太刀さんより少し遅れて、もう一体のゴブリンに向かって駆け出し、槍を突き出した。
攻撃は命中。だが一撃では倒せない。
槍を引き抜くと、そのゴブリンはいきり立って反撃してきた。
俺は、盾と槍を駆使してそれに応戦。
数秒の攻防の後、どうにか無傷のままに、そのゴブリンを倒すことに成功した。
一息ついて小太刀さんのほうを見ると、向こうもちょうどもう一体、ホブゴブリンを撃墜したところのようだった。
さすがと言うほかないな。
地面に落ちた三個の魔石を、二人で拾う。
その後、小太刀さんが俺のほうに向かって右手を上げて見せてきたので、俺はためらいつつも自分の手をパチンと合わせた。
いわゆるハイタッチというやつだ。
「イエーイ! 六槍さん、ナイス援護です。おかげで楽に倒せました。第三層、全然イケますよこれ」
「い、いえーい……」
小太刀さんは嬉しそうだ。
すごくテンションが上がって高揚しているように見える。
パッと見では小太刀さんの無双状態だから彼女一人でも行けたような感じはするのだが、実際のところは俺がゴブリンを一体受け持っただけでもだいぶ違ったのかもしれない。
ちなみに俺はというと、小太刀さんと手を合わせたことにアホほどドキドキしていた。
静まれ、俺の中の青少年。
「あ、あれ……? ひょっとして、私一人で盛り上がっちゃってます? 六槍さんとパーティ戦闘でうまくできたのが嬉しくて、つい」
「い、いえ。俺も別の意味で盛り上がって……いや、何でもないです」
「……?」
不思議そうに小首を傾げる小太刀さんだった。
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