第11話 初めてのパーティ行動(4)
現れたモンスターは、小柄な体躯の人型モンスターであるところはコボルドと似ていたが、頭部は犬に似たそれではなかった。
顔は人間の子供をおそろしく醜悪にした感じで、耳と鼻がいびつに尖り、口は大きく裂け、目はらんらんと赤く輝いている。
肌はくすんだ緑色。
妙に節くれだった細い腕で、ショートソードのような形状の武器を手にしていた。
そいつが一体。
俺たちの姿を見ると、口からよだれを撒き散らしながらこちらに駆け寄ってくる。
「ゴブリンです。六槍さん、お任せします」
「了解」
小太刀さんが身を引くように後退する。
俺は一歩前に出て、槍と盾を手に、初見のモンスターを迎え撃つ姿勢を取った。
コボルドと比べて、かなり動きが速い。
が、対応できない速さじゃない。
「──はっ!」
間合いまで飛び込んできたところに、俺は勢いよく槍を突き出す。
だがその攻撃はタイミングが甘かったのか、素早く後ろに跳び退いたそいつ──ゴブリンによって回避されてしまった。
しかし攻めるタイミングを失ったのは向こうも同じだ。
俺とゴブリンは数歩の間合いで睨み合い、互いにじりじりと攻撃の機会をうかがう。
小太刀さんが加勢してくれれば造作もないが、この程度は一人でやってみせろということだろう。
『──キシャアアアアアッ!』
業を煮やしたのか、ゴブリンが奇声を上げて襲い掛かってきた。
俺は槍を突き出して、迎撃を試みる。
だがゴブリンはその身を半歩分ほど横に翻して、紙一重で俺の槍を回避する。
そしてそのまま、間合いを詰めてきた。
「──うぉおおおおおっ!」
槍の間合いから小剣の間合いに詰められそうになった俺は、左手の盾を前に突き出して突撃。
ゴブリンはその動きに対応できずに、シールドタックルで跳ね飛ばされてよろめいた。
それを好機に、俺は槍でゴブリンを攻撃。
胸部をぐさりと突き刺したが、その一撃だけではゴブリンは消滅しなかった。
しゃにむに飛び掛かって反撃してきたゴブリンを、俺は再び盾で殴りつけてノックダウンさせる。
そして倒れたところを再び槍で突くと、ゴブリンは今度こそ黒い靄になって消滅した。
あとには黒と緑をマーブル模様に混ぜたような色の魔石が落ちる。
俺がそれを拾い上げたところで、パチパチという拍手の音が聞こえてきた。
戦況を見守っていた小太刀さんだ。
「お見事です、六槍さん」
「いや……なんというか、こんな泥臭い戦い方でギリギリって感じですね。やっぱりコボルドと比べるといくらか強いな」
「でも無傷で勝てるのは十分すごいですよ」
「もう一度やったら分からないです。負けはしないと思うけど、手傷の一つや二つは負いかねない」
「ふふっ、謙遜屋さんですね六槍さんは。虚勢を張る人よりは、パートナーとしては安心できますけど」
パートナー……そういう意味深な言葉を使うのは、惚れてしまうのでやめてほしい。
いや、完全に俺の自意識過剰だけどな。
男子ってすぐに勘違いしてやーねー。
ちなみにステータスを開いて経験値を確認すると、ゴブリンの経験値は7ポイントだった。
コボルドの経験値4ポイントと比べると、悪くはないな。
魔石の買い取り額は、ゴブリンのものは600円(手取り540円)だったはず。
コボルドの魔石400円(手取り360円)の五割増しだ。
なおモンスターの経験値は、トドメを刺した
今の戦闘では小太刀さんには経験値が入らない形だ。
「でもどうかな、第三層……ちょっと厳しいかなぁ……。無理ではないと思うんだけど、もう少し二層で様子を見るべきかどうか……」
小太刀さんは独り言をつぶやきながら、考え込む仕草を見せる。
「俺としては、もう少しこの層で経験を積みたい感じですけど。それじゃ風音お姉ちゃん的にはうまみがないですよね」
「ううっ……私が悪かったから、それはもうやめてください……。なんかこう、胸が痛いです……」
小太刀さんは革鎧の上から自分の胸に手を置いて、居たたまれない感じの顔をしていた。
しかし小太刀さんがいい感じにボケてくれたおかげで、距離感がなんとなくつかめてきたな。
これがコミュニケーション強者の手腕か(多分違う)
「じゃあ間を取って、俺が4レベルに上がったら第三層に行ってみるとかどうです? あと27ポイントの経験値でレベルアップだし、それまでに第二層の感覚もだいぶつかめる気はしますし」
「んー、そうですね。六槍さんがそれでいいなら、それでいきましょうか」
ひとまずそういうことで話がまとまり、俺たちは第二層の探索を続けることになった。
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