第6話 魔石換金と出会い
ダンジョンから戻った俺は、まずダンジョン総合案内の建物に向かった。
魔石の換金所や、装備品の預かり所など、基本的な施設はこの建物内にだいたい揃っている。
まずは魔石の換金だ。
魔石換金窓口に行って、手に入れたコボルドの魔石八個を職員に提出すると、番号札を渡された。
それから待つこと少々。
査定が終わったらしく、提出した魔石の代わりに現金と支払伝票が渡された。
「お待たせしました。魔石の買い取り額3200円から源泉徴収で1割をお預かりしまして、2880円のお渡しになります」
千円札二枚と小銭八枚が、トレーに乗せて差し出された。
俺は渡されたお金を財布に入れ、窓口の職員さんに会釈をしてからその場を後にする。
……何とも言えないむず痒さだ。
バイトの給料などは口座に入るので、自分で稼いだお金を現金で手渡しされたのは初めての経験だった。
どうしても頬が緩んでしまう。
「でも、2880円か……」
俺は職員に聞こえない位置でそうつぶやく。
ダンジョンに潜っていたのがだいたい四時間ぐらいだから、時給換算でざっと720円。
手取りの額であることを考慮しても、命懸けの労働の報酬額じゃないな。
やはり世間はどこもブラックか。
ただ将来に希望が持てるのはある。
第一層のコボルドは魔石の換金額も安いが、下層に進むほど、そこに徘徊しているモンスターの魔石換金額は高くなる。
今後に期待だ。
「さておき、昼飯だな」
腹が減った。
壁掛けの時計を見れば、時刻は午後の一時半。
昼食時を少し過ぎていた。
装備品の預かり窓口で槍を預けてから、総合案内の建物を出る。
ちなみに預かり所は良心的だ。
特別高価なものや、膨大な量の装備品を預けたりしない限り、預かり手数料は無料である。
公費が入っている施設の強みだな。
俺は自転車を漕いで、近くのラーメン屋に向かうことにした。
このあたりはダンジョン関係なしにちょくちょく来ていたので、近くの店などある程度は把握している。
だがそのとき、予想外のことが起こった。
「こーんにーちはー!」
どこかから女性の声が聞こえてきた。
聞き覚えのない声だ。
それとなくあたりを見回してみると、一人の若い女性と目が合った。
少し離れたところで自転車にまたがっていた彼女は、俺に向かってニコッと微笑みかけてくる。
見覚えのない顔だ。
俺と同い年ぐらい──十代後半か二十歳ぐらいに見える。
ポニーテールの黒髪に、パーカー、ズボン、スニーカーというスタイル。
パッと見でかわいいなと思うぐらいには、顔立ちもプロポーションも整っている。
俺じゃないよな、と思って周囲を見回しても、彼女の相手らしき人物は俺のほかに見当たらなかった。
「お兄さんですよ! 今、ダンジョン総合案内の建物から出てきましたよね?」
女性は俺の前まで来て自転車を止める。
俺はようやく自分が声を掛けられているのだと確信した。
「えぇっと……はい。たしかに総合案内から出てきたけど……」
「ですよね! あ、はじめまして。私、
「え、あ、まあ……そうだけど」
「……ひょっとして、声をかけたの、ご迷惑でした?」
「い、いや、そんなことは」
俺は見知らぬ女性(美人さん)に突然声をかけられた事態に戸惑って、しどろもどろになっていた。
安定のコミュ難陰キャ仕草である。
こういうときに使える鮮やかなトーク技術など持ち合わせていないし、突然のことで頭の回転も追いついていない。
だがそんな俺の無様さなど気にする様子もなく、女性──小太刀風音は人懐っこく接してくる。
「えっと、よければお名前、聞いてもいいですか?」
「え、あ、えっと……六槍大地、です。六つの槍って書いて、六槍」
「へぇっ、格好いい名前ですね。六槍さんは、今日はもうダンジョン上がりですか?」
「いや、昼飯食べに行こうかと思って。近くのラーメン屋に」
「これからお昼ですか。私もまだお昼食べてないんです。もしよかったら、ご一緒させてもらってもいいですか?」
「えっ……? あ、ああ。そっちがよければ、よろこんで」
「よかった! 一度同業の方とお話してみたかったんです」
「それはあまり、役に立てないかもしれないけど……」
ぐいぐい来る小太刀さんを相手に、俺はどうにか受け答えをするだけで精一杯だった。
これはダンジョンやモンスターより強敵かもしれないな……。
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