第3話 初めてのダンジョン探索(1)
ダンジョンの入り口は、川べりの土手にぽっかりと開いた洞窟だ。
俺は入り口前にある管理小屋の職員に仮免許証を見せてから、洞窟の中へと踏み込んでいく。
少し進むと、地面に光り輝く魔法陣が描かれた場所に出た。
洞窟はここで行き止まりだ。
魔法陣に足を踏み入れる。
俺が魔法陣の真ん中に立つと、右手の甲にある紋様が光って、視界が真っ白な光に包まれた。
一瞬の後、知らない場所にいた。
洞窟の中のようだが、あたり一面の壁が穏やかな明かりを放っていて、ちょっと幻想的だ。
俺がいる場所は、小会議室ぐらいの広さがある。
背後の地面を見ると、例の光り輝く魔法陣があった。
ダンジョンの出口だろうと思ったが、念のためもう一度踏んで往復してみた。
予想通りの動きをしてくれた。
さて、退路の確認は済んだ。
あらためてダンジョン探索の開始だ。
部屋からは三方に道が続いている。
正面、左手、右手のそれぞれに、洞窟の通路が続いているようだ。
「よし。行くか」
不思議と恐れはない。
これも
どの道が正解かも分からないので、とりあえず正面の道に進んでみる。
洞窟はゆったりと蛇行しながら進んでいく。
「……長い。ていうか、何も起きないな」
十分ほど歩いてみたが、同じような洞窟が延々と続くばかりで何も起こらなかった。
さらに十分ほど歩いたところで、十字路に差し掛かる。
道に迷うといけないので、まっすぐ進むことにした。
するともう数分ほど歩いたところで、「ト」の字型の三叉路。
これもまっすぐ進むことにする。
そうしてさらに十分ほど進んだ頃のことだった。
洞窟の前方から、「何か」が駆け寄ってくるのが見えた。
人型で、小柄。
頭部は獰猛な犬のそれに似ていて、目は赤く輝き、口からはだらだらと唾液を垂らしている。
手には粗末なナイフ。
そいつが一体、俺に向かって襲い掛かってきた。
俺は右手の槍の感触を確かめ、迎え撃つ。
武具店のおっさんが言っていた第一層のモンスター【コボルド】だろう。
「くらえっ!」
俺は相手が攻撃範囲に来たタイミングを見計らって、槍を勢いよく突き出す。
ギャッというモンスターの悲鳴。
槍はそいつの胸に突き刺さった。
槍を引き抜くと、突き刺した部分から血が出る代わりに、黒い靄のようなものが漏れ出す。
コボルド(仮。以下略)はよろめくが、倒れはしない。
飛び掛かるようにして、再び間合いを詰めてきた。
俺はもう一撃と思って槍を突き出す。
だが今度は予想されていたのか、素早く横に跳んで回避された。
「くっ……!」
コボルドが突き出してきたナイフを、かろうじてかわす。
前のめりでバランスを崩したそいつにエルボードロップを叩き込んで、倒れたところを槍でもう一度突き刺した。
それがトドメになったようで、犬面の怪物は全身が黒い靄になって消え去った。
どういうわけか手にしていたナイフまで同じように消滅する。
あとには黒と紫を混ぜたような色の宝石が一つ、転がっていた。
モンスターは一般の生物とは異なるもの──すなわち「生物ではないもの」と規定されているらしい。
そう定められたのには倫理面における人間側の都合もあるのだろうが、実際にもモンスターには一般の生物の常識からは考えられない現象が起こるのだから、「生物ではない」という定義もあながち間違いではないだろう。
「はぁっ、はぁっ……ふぅっ。何とか勝てたな」
俺は宝石を拾い上げて、財布の中に入れる。
宝石は小指の先ほどの大きさだ。
この宝石は【魔石】というものらしい。
持って帰ると、「換金所」でいくらかの値段で買い取ってもらえる。
講習で聞いたところによると、コボルドの魔石なら1個400円だ。
厳密に言うと、そこから源泉所得税が一割引かれて還付前の手取りは360円になる。
命懸けの戦いを繰り広げて360円とはずいぶんと世知辛いが、四の五の文句を言っても仕方がない。
なおステータスを確認すると、「経験値」の欄が「0/10」から「4/10」に変わっていた。
今後に期待だ。
「よし。この調子で進もう」
俺はさらに先に進むことにした。
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