第2話 自転車を漕いで近所のダンジョンへ

 俺の家から最も近いダンジョンは、隣県との県境にある川の土手に入り口がある。

 俺は自転車を二十分ほど漕いで、そこにたどり着いた。


 ダンジョンの入り口付近には、いくつかの特殊な施設がある。

 俺はそのうちの一つ、看板に「ダンジョン総合案内」と書かれた小さな建物に入った。


「いらっしゃいませ。こちらは探索者シーカー専用の案内所です」


 窓口の受付嬢が営業スマイルを見せる。

 俺は右手の甲に現れた紋様を見せた。


「今朝起きたら探索者シーカーになっていました。ダンジョンに入りたいんですが、手続きとかは」


「それでしたら、まず探索者シーカーとして登録していただきます。こちらに住所、氏名、電話番号などをご記入ください」


 用紙を受け取って記入し、その後にいくつかの検査と簡単な講習を受ける。

 二十分ほどでそれらが終わり、仮の免許証を渡された。

 後日に顔写真などを持ってくると、正式な免許証を作ってもらえるらしい。


「まだ武器や防具をお持ちでなければ、武具店で最低限の装備を購入されることをお勧めします」


「このあと寄ってみます。ありがとうございました」


 職員にお礼を言って、俺は総合案内を出る。

 次にすぐ近くにある「ダンジョン用武具店」へと入った。


 武具店には所狭しと武器や防具が展示され、それぞれに値札が付けられている。


 俺は「初心者コーナー」と書かれた一帯に行って、品物の物色を始めた。

 ちなみに俺の財布には今、なけなしの1万円が入っている。


 展示されている商品の中で一番安い武器は「ダガー」で5000円だ。

 包丁ぐらいの長さの大型ナイフで、値札には「分類:短剣」「装備部位:片手」「攻撃力:5」と付記されている。


 次に安いのは「ショートスピア」で8000円。

 俺の背丈ぐらいの長さがある槍で、値札には「分類:槍」「装備部位:片手」「攻撃力:6」と記されている。


 次が「ハンドアックス」で11000円。

 小型の斧で、「分類:斧」「装備部位:片手」「攻撃力:7」と書かれているが、ここまで来ると高くて買えない。


 武器はほかにも「ショートソード」「ブロードソード」「レイピア」「バトルアックス」などいろいろとあったが、どれも1万円を軽く超えていた。


 防具も見てみる。


 最も安いのは「ウッドシールド」で4000円だ。

 金属枠の付いた直径50cmぐらいの木製盾で、値札には「装備部位:片手」「防御力:2」と記されている。


 次に安いのが「レザーヘルム」で6000円。

 革製の兜で、「装備部位:頭」「防御力:2」だ。


 鎧らしいものとなると「レザーアーマー」が一番安くて、12000円。

 胴体を守る革製の鎧で、「装備部位:胴」「防御力:5」と書かれていた。


「いらっしゃいお兄さん。今日が初めてのダンジョン探索かい?」


 俺が初心者コーナーで武器や防具とにらめっこしていると、スキンヘッドのいかついおっさんが近付いてきた。


 この武具店の店員のようだ。

 一見は強面こわもてだが、フレンドリーな笑顔を見せてくる。


「はい、今朝起きたら探索者シーカーになっていたので、試しにダンジョンに潜ってみようかと。──この『攻撃力』とか『防御力』って何なんですか?」


「ああ、そいつはな、【アイテム鑑定】のスキルを使ったときに出る数値だ。数値に関して詳しいことはまだ分かってねぇが、買うときの参考にしてくれ」


「『分類』とか『装備部位』も、そのスキルを使ったときに?」


「おう。武器系のスキルがあるなら、『分類』は見といたほうがいいかもな。──っていうか兄さん、最初のスキルポイントはもう使ったかい?」


「いえ、まだです」


「それなら武器を買う前に、修得可能スキルのリストは見といたほうがいいぜ」


 そう言われたので、俺はステータスを呼び出して操作し、「スキル修得」のページを開いた。

 このあたりの操作方法は感覚で知っている。




▼修得可能スキル(どれもスキルポイント1で獲得可能)

●武器

・槍攻撃力アップ(+2)

●魔法

・ロックバレット

・プロテクション

・アースヒール

●一般

・筋力アップ(+1)

・耐久力アップ(+1)

・敏捷力アップ(+1)

・魔力アップ(+1)

・HPアップ(耐久力×4)

・MPアップ(魔力×4)

・マッピング

・隠密

・気配察知




「修得可能スキルにある武器系のものは、【槍攻撃力アップ(+2)】だけみたいです」


「ほう、兄さんの得意武器は『槍』か。ちなみに一種類でも武器系があるなら、武器戦闘で大成する可能性があるぜ。その手のスキルは(+4)、(+6)、と修得するたびに次が解放されていくからな。人によって(+10)が最大だったり、(+20)が最大だったりと上限はあるらしいが」


「武器系が一つもないこともあるんですか?」


「人によってはある。武器系スキルもない、魔法もないってなると、下層でのダンジョン探索はかなり厳しくなってくるな。その点、兄さんは幸運だ」


 講習で聞いた話によると、修得可能スキルのリストは、探索者シーカー一人ひとりのオリジナルなのだという。


 俺の修得可能スキルには【槍攻撃力アップ(+2)】があるが、これが「短剣」の場合も、「斧」の場合も、「剣」の場合もあるし、そうしたスキルが一つもないこともあるのだろう。


 あとスキルリストには、新しいスキルの「解放」という要素もあるらしい。


 特定のスキルを修得することで新しいスキルが解放されるスキルツリー要素や、レベルが一定値以上に上がることで新スキルが解放される可能性もあるという。


 さておき。

 俺は結局、8000円を支払って「ショートスピア」を購入することにした。

 なけなしの1万円が、あっという間に2000円になった。


「本当は保険として『HPポーション』も一本は持っておきたいところなんだが、予算が残り2000円じゃなぁ」


「修得可能スキルのリストに【アースヒール】という回復魔法があるみたいなので、それを修得しようと思っているんですが」


「おっ。兄さん、回復魔法まで修得可能なのか。そりゃツイてるな。回復魔法は真っ先に取っておいて損はないと思うぜ」


 そう言われたので、俺は早速ステータスを操作して【アースヒール】の魔法を修得する。

 ステータスの「スキル」の欄に【アースヒール】と表示された。


「いろいろありがとうございました。これからダンジョンに行ってみようと思います」


「おう、気を付けろよ。第一層のモンスター【コボルド】は強くはねぇが、油断は禁物だぜ。特に二体以上と遭遇したときは厄介だからな」


 俺は武具店のおっさんに会釈をして店を出ると、ダンジョンの入口へと向かった。

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