第41話:床下の作戦会議
「き、
「私が来たーぞ!!」
壊れた扉の破片を跨ぎながら『貧乳派』のエース・鬼頭が入室する。
「
「……『雇われ用心棒』ハ?」
「この服に見覚えはないか?鍔広帽は邪魔だから置いてきてしまったが」
男から奪い取った紳士服を見せびらかすようにその場で軽く回る。
「リーナよ、彼は服を脱がせる以外は特に何も能力がなかったぞ?あの男のことを何処か過信していたんじゃないか?」
「あいつ……、強力な能力だとか言っておきながら、全然役に立たないじゃないッ!!」
その言葉を聞いて初めてリーナの顔が不安に歪む。
「さぁて。話は
「は、はい。それをどうにかしない限り、お互いに動けなくて……」
「心配ない。
そう言い放つと、持っていたスコップを床に突き立てた。
「「「???」」」
言っている意味が分からない。三人が首を傾けていると、
ミシミシミシッ!!
足元から何かが軋む音がする。
「こ、これは……っ?」
目線を向けると、大理石でできた床に亀裂が走っていた。まるで氷が張った湖を岩で叩いたかのように、亀裂は鬼頭が刺したスコップを中心に広がる。
「なぁに簡単さ。見えないピアノ線が怖いのなら、ピアノ線が張られていないエリアで戦えばいいだけのこと。つまり、」
ミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシッ!!!
堅牢なはずの床は腐った木の床板のように剥がれ落ちて落下する。
「
ボゴオッ!!という轟音を鳴らし、剥離した床が砂埃と共に崩れ落ちた。
四人の少年少女と一緒に。
☆★☆★☆
(な、何ヨ?!コレ?!)
ピアノ線が張り巡らせた死のゾーンの先にぽっかりと空いた穴を見ながら、リーナは唖然としていた。
(何でこんな突拍子もないこと思い付くノ?!!)
まさか硬質な床をぶち抜いて、下の階からモグラのように奇襲する手で来るとは。
ここまでの飛び抜けた発想は想定していない。
(い、一体、どうすればいいっていうノ……?)
対象が見えない以上、狙いを定めることはできない。
一方で相手は好きな場所から好きなタイミングで急襲できる。
だが、
(逆に言えば下から
相手が下に潜った以上、出てくるなら床を砕いて出現する。
他の方向からの奇襲がないのであれば、おっぱい饅頭によって底上げされた身体能力と聴力で予兆を察知し、避けることだって可能なはず。
(床からの一撃を避けた直後に媚薬を打ち込んでやるワ!)
正面対正面で何が飛んでくるか分からない状況よりも、よっぽど
布製の絨毯が張られたオフィスの床面を注視しながら、前兆となる音を拾うことに全神経を集中させる。
☆★☆★☆
「それにしても『貧乳派』の長の力と発想力には驚かされたぜい。『貧乳派』の能力で床の耐久力を下げて、一階分まるまるぶち抜くなんていうぶっ飛んだ作戦、オレの頭の中には絶対出てこねぇよ」
窓から差し込む陽光のお陰で、室内灯が点いていなくても明るい36階の無人オフィスを歩く。目指すはリーナがいる場所の真下だ。
「戦いとは敵味方が誰も読めないことをやった者が勝つのだ。……と、前の隊長が言っていたのを参考にしたまでだ。ま、正直に言ってしまえば、頭であれこれ考えるよりも土壇場の奇抜な策で突破する方が好きなだけなのだがな」
歩いた距離にして、これくらいの位置だろうか。
一つの長机に書類やらキャビネットやらが置かれているため、申し訳なく思いつつ机や椅子を脇にどかして広いスペースを作る。
「はわわ……。上の階まで天井が高いですね……。上階までどうやって行くんでしょうか?」
「オレの能力を使えば問題ないぜい」
ポケットにゴム銃をしまうと手を開閉させる。
「『豊乳派』の能力を使えば物体の重さや高さを調整できるからな。床を触れば盛り上げることだってできるぜい。本来こういうのは
「天井を壊した後に床を盛り上げればいいってことか?」
「なんなら、オレがゴム銃で陽動してもいいぜい?大きい音を立てて気を逸らしている間に、即座に別の穴を空けて攻め込む、とかな」
「それだと
「無理だな」
「無理なんですか?!じ、じゃあ、できないじゃないですか……」
うーん、と頭を捻らせていた時、
「……ふと思ったんだけどさ、何も陽動用のゴム銃を
解決の糸口となる一言を純多が放つ。
「どういうことだ?」
合点が行かない鬼頭が続きを促す。
「つまり、
「「「!!!」」」
『貧乳派』が『豊乳派』の武器を手に取る。
実戦経験が豊富な鬼頭と籾時板でさえも一度も経験したことがなく、思いつかなかった発想だった。
「もしそれが可能なら、オレは床を盛り上げることに専念できるし、陽動作戦も可能だな」
「だが……」
『貧乳派』と『豊乳派』は性癖によって世界が分断されてから三年間、互いを睨みながら戦ってきた勢力だ。そう簡単に頷けるわけがない。特に鬼頭と田打が歯切れの悪い答えを返す。
「相手は私たち『貧乳派』の長を殺した怨敵だぞ?そんなやつらと共闘しろというのか?」
「い、今は休戦状態ですが、私たちは本来敵同士。相手の武器を使うなんて……」
二人の意見も最もだ。二者を説得しようと口を開こうとしたところで、
「オレは賛成だぜい。純多の意見を参考にしようじゃねぇか」
ゴム銃の調子を整えながら独り言のように呟く。
「オレたち『豊乳派』と『貧乳派』は古くから血生臭い関係を築いてきたが、こんな所で呑気に
「しかし……」
「忘れちゃいけないことが一つあるぜい?支部長さん?」
薄暗い部屋の一角を視線で示すと、影の中に立つ人影の瞳が鋭い光を返す。『貧乳派』・『豊乳派』どちらの勢力かは分からないが、三つの勢力の行く末を報告する観測者の一人であるのは間違いない。
「オレたちは『豊乳派』と『貧乳派』が互いを潰し合わずに協調関係を築けるかどうかを試すモニターにもなっているんだからな。ここで殺し合えば血生臭い関係に逆戻り。手を取り合えばピンチの時に手を貸す助っ人程度の関係くらいは作れるかもしれないぜい?」
『貧乳派』と『豊乳派』。
世界的に見ても圧倒的な人数を所有する二つの勢力だが、性癖で分断されたこの世界では、
「…………」
もしこれから『どちらでもない派』の最強格と謳われている
例え相手が仇敵であったとしても、変な意地を張らずにパイプを作っておいた方がいいのではないのか。
「……ふんっ。貴様らの助けなど死んでも借りるものか。だが、」
籾時板からもらった輪ゴムでポニーテールを編みながら口を開く。
「「助けてください
指の動きが止まると息を吹き返したポニーテールが揺れる。
「……賢明だぜい。さすが、一支部の長さんだな。さて、ここで作戦会議に入る前に、一つ確認しておきたいことがある。純多の『『貧乳派』の救世主』の能力についてだ」
幼馴染みの視線が向けられる。
「例えばオレが持つゴム銃。オレ自身が割り箸と輪ゴムを使って手作りしたものなんだが、それに対して田打ちゃんが持っている盾は能力によって生成されたものだろ?こんな感じで、『能力が込められた実体の武器』と『能力で生み出した虚像の武器』があるんだ。触れた奴の能力を消しちまう『『貧乳派』の救世主』の能力で、能力が込められた武器から能力が消えるかどうかと、能力で生み出した武器を触れられるかどうかを実験するぜい」
『『貧乳派』の救世主』の力を持った純多が、籾時板のゴム銃と田打の盾に触れてみる。
結果として、『能力が込められた実体の武器』と『能力で生み出した虚像の武器』の両方に触れることに成功。
「オレの銃も支部長さんのスコップも問題なく持てるってことか。本当に他人
の能力を消す以外は何の力もないんだな」
「…………悪かったな」
「そう
この作戦を実行するには、この場にいる全員が力を合わせる必要があるらしい。
立ち位置や動きを入念に確認した後、リーナとの第二ラウンドが始まる。
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