第39話:CMNF

「後学のために教えてもらおう。CMNFとはどのような性癖なのかをな」

「ふんっ。口が裂けても言うものか。敵に自分の能力をペラペラ喋る馬鹿が何処にいるというんだ?」

「……37階からの紐なしバンジーを楽しみたいようだな?口の中におっぱい饅頭を詰め込めば、鞭打ちくらいで済みそうか?」

「貴女は何か勘違いしているようだ」


 スコップの腹で殴られた顔を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。


「私が好きなのは鞭で打たれる方ではなく、鞭で打つ方だ!!」

「そうかそうか。そんなに空の旅を楽しみたいか?」

「分かった分かった!!話すから窓から投げ捨てようとしないでくれ!!私は高所恐怖症なのだ!!」

「呆れたものだ。高い所が苦手な癖に、よくもこんな仕事を引き受けたものだな……」

「金を目の前にぶら下げられたら、人間とは従順に従うしかなくなるものなのだよ」


 紳士っぽい言い方なのに話の内容は微塵も紳士じゃない男は、埃を払うような仕草をしながら観念して口を割る。


 CMNFというのは加虐被虐性愛サディズム・マゾヒズムのプレイの一種で、男性が服を着た状態・女性が全裸の状態で行うプレイのことだ。

 ただし、あくまで『男性が着衣・女性が全裸』という状況・プレイを指す言葉であり、必ずしも着衣と全裸による性行為のみを指すわけではない。


 女性を全裸にすることで、着衣を脱がせた男性が女性よりも優位である、という優越感に浸ることが目的であり、SMプレイの観点では服を脱がせた男性がS、全裸になっている女性がMということになる。


 ちなみに、『男性が全裸・女性が着衣』という逆のシチュエーションの場合はCFNMといい、CMNFが「Clothed Male and Naked Female」(服を着た男と全裸の女性)、CFNMが「Clothed Female annd Naked Male」(服を着た女性と全裸の男性)の略称である。


「なるほど。それでCMNFの能力は、『相手が女性であれば完全に武装を解く|(服を脱がす)ことができる』能力。女性である私を残したわけか。だったら田打たうちでもいいではないか?」

「勿論、あの少女でも問題はなかった。だが何よりも」

「何よりも?」

「私は気の強い女性を挫折させた瞬間が最も興奮するのだ!あんなすぐ縮こまってしまいそうな少女では骨がないではないか!!」


加虐被虐性愛サディズム・マゾヒズム』とは、こんなやつばかりなのだろうか。

 他の性癖など全く理解できない鬼頭は首を捻るしかない。


「……っと、こんな所で油を売っている場合ではない。解いた装備を戻してもらおうか」


 服・ヘアゴム・ズボン・ブラジャー・下着・予備のおっぱい饅頭・スマートフォン・ハンカチ、などなど。

 どれもこれもなくなっては困るものばかりなのだが、


「ん?それはできないよ?」


『雇われ用心棒』の男は、しれっと言い放つ。


「……パラシュートのないスカイダイビングの下見をしに行くというのはどうだ?」

「違う違う!!しないんじゃなくてできないんだよ!!CMNFやCFNMの能力は装備を解くことはできるのだが、それを元に戻すことはできないのだよ!!」

「随分と不便な能力だな……」

「そもそも、相手が持っていた装備を元に戻せる方が意味が分からないと思わないかい?」


 そういわれればそうか。と何処かで納得してしまう鬼頭。


「できないものはできないのだから、残念ながら裸で帰ってもらうしかないね」

「しかし、この格好のまま外を出歩くわけにもいかんだろうが」

「……恥ずかしくも何ともないって言ってなかったかい?」

「公序良俗というものがあるだろう?私は何も問題なくても、社会的には問題がある。このまま大手を振って歩いたら公然猥褻わいせつで捕まってしまうぞ」


 うーん、と思考を巡らせた挙句、鬼頭の頭の上に電球が灯る。


「……いるではないか。ここに服を着た人間が!」

「おいおい。何度も言わせないでくれよ?私はS。服を脱がされる方ではなくて、脱がす方だぞ?」

「そんな事情は知らん」


 スコップのヘッドを向ける。


「抵抗するというのなら気絶してから脱がすだけだ。さぁ、今すぐ服を脱いでもらおうか」



☆★☆★☆



「これほど大掛かりな扉の中に誘い込んで来るということは、入った瞬間に弾丸の雨霰で大歓迎される可能性だって十分にありえるぜい。純多じゅんたは絶対に盾の外には出るなよ?」

「歓迎するなら、もっと慎ましくして欲しいもんだな」


 籾時板もみしだいたはゴム銃を構えながら扉に背中を預け、田打は盾を構えて前方に。そして、その盾の後ろに純多が隠れる。


「まずオレが背中を押して扉を少しだけ開けてから索敵クリアする。二人は後に続いてくれ」


 静かに頷く。


「行くぞっ!!」


 高層ビルの37階に出現した不可思議に古風な扉が、ぎいいい……、という音と共にゆっくりと開けられる。


 扉に背中を預けた籾時板が目を動かし、照明の点いたオフィスの中を索敵クリアするが、


「……?誰もいない??」


 整然と机が並べられたオフィスの中には、社長席に座ったまま背中を向ける金髪の女性以外、誰一人としていない。


 拍子抜けしたような表情の三人がオフィスの中へ足を踏み入れると、


「ギャングらしく扉に爆弾でも仕掛けて、ドカンと一発かましたり、一斉射撃で蜂の巣にしてやりたかったけど、素直に招き入れてあげたワ。暗殺闇討ちをせずに真っ向から戦うのもたまにはいいものネ」


 金色の髪を持つ女性は席を立ち、こちらへと身体を向ける。


 黒いスーツは特注品なのか身体にぴったりとフィットしており、長くすらりとした脚から魅力的に膨らんだ胸部のボディラインまでを、くっきりと表出している。


「ここまで来たということは、もうお分かりだと思うけど、一応名乗っておくわネ」


 軽い靴音を鳴らしながら数歩歩いた後、リップがなまめかしく光る唇を動かす。


「ワタシの名前はリーナ=セイファス。セイファス薬品の社長であり『ラクタム』の首領。そして、SDU能力者集団のフランス支部の長ヨ」

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