第33話:触るのは何処でもいいのだが

 無事ではあったものの、大事であったことには変わりはない。

 その日のうちにポリンは救急車で近場の病院まで搬送された。


「こんな湿っぽい空気の中で言うのもアレだけどよ……。オレたちなら、あれくらいの高さから落ちても死なないぜい?」

「えッ……?」


 病院のベッドで布団を被るポリンが目を点にしながら籾時板もみしだいたの言葉に耳を傾ける。


「だって、おっぱい饅頭を食べてたんだろ?だったら身体能力や筋力が強化されているから、学校の屋上から落ちるくらいだったら衝撃を殺さずに着地したって全然大丈夫だぜい?」

「……おっぱい饅頭の力って、そんなに凄いの?」


 饅頭を食べてもその恩恵を受けないザンネンボーイ・純多じゅんたも目を白黒させる。


「オレたちが戦うような輩の中には、ロボ娘・巨大娘みたいなやつもいれば、ドラゴンやスライムみたいな、明らかに人の形をしていないようなやつらもいるからな。15~20mくらいの高さから落ちて死んでいるようじゃ、そいつらとは渡り合えないぜい?」


 あれ?ここってスライムを倒すとお金を落としたりするファンタジーの世界だっけ?

 今後そいつらとも刃を交えなければいけないことを憂えて泣きそうになる。


「……っつーか、ポリンは能力を手に入れてから結構長いんだよな?なのにどうして知らなかったんだい?」

「いやぁ、ワタシ、「危ないからダメ!」ってママンに言われて前線に立つようなことはなかったから、すっかり忘れていたヨ…………」

「さては一人娘だからって大事に育てられたパターンだな?!」


 組織のボスの娘だから、という理由で部下たちからちやほやされて、小さい頃から欲しい物は何でも手に入る環境にいたのだろう。そのお金が出所不明の怪しいお金だと本人が知っていたかどうかは分からないが。


「……で、どうするんだ純多。今ならポリンの能力を消してやれるけど?」


 隣にいる『救世主』は首を横に振る。


「今の状態の方が、ある程度身の安全が約束されるんだよな?だったら、まずはポリンの母さんを一発ぶん殴って、そこからポリンの能力を消す。それでいいだろ?」

ウィうん……」


 歯を見せて屈託のない笑みを見せる少年が、ポリンには救世主のように見えた。


「ジュンタ……。ジュンタは、この一件が終わったらワタシの能力を消すんだよネ?」

「ん?何を今さら?ポリンはその能力が嫌いだし、『ラクタム』やSDUの能力のしがらみから抜け出したいんだろ?」

「そうなんだけド……」


 ベッドの上で横座りをすると、布団を寄せて身体を隠す。


「ワタシの身体を触るんだよネ?」

「あぁ」

「どこが触りたいノ……?」


 上目遣いで白い肌を紅潮させる。


 触爪ふそうとの戦闘時、拳が腕で防がれたにも関わらず『『貧乳派』の救世主』の力が発動したように、純多が手で触れるのであれば何処を触れても発動する。

 何も腕に触れる必要はなく、頭でも、手でも、そして胸でも問題はないのだ。


「(これはチャンスだぜい純多)」


 隣の幼馴染みが小さな声を発する。


「(見たところポリンの胸はBカップもないくらいじゃないか。またとないチャンスだぜい?お言葉に甘えろよ)」

「(あのなぁ。確かにそうなんだが、それじゃあ『救世主』の力を口実におっぱいを触っているみたいじゃないか?)」

「(あながち間違ってはないぜい。なんなら『救世主』の力は『どちらでもない派』にはあまり知られていないみたいだし、おっぱいを触らないと発動しない、ってことにしてもいいんだぜい?そうすれば、いろんなおっぱいを触り放題じゃねぇか?)」

「(う……、ぐぬ……)」


 そこを即座に否定すればいいのだが、「その手があったか!」と頭の隅で一瞬でも思ってしまった自分が悔しい。

『救世主』なんていう一人で抱えきれないような立場を握っていても、結局は年頃の男の子。おっぱいが触れるかもしれない、となったら性欲という邪念によって善悪の天秤が傾きかけることもあるのだ。


「(なかなか踏ん切りがつかないようだな。なら、)」


 ぎしり、とベッドの縁に手を置くと、


「純多が「ポリンのおっぱいを揉んでみたい」だってよ。明日の戦いが終わったら存分に揉ませてやるといいぜい!」


 一度も口にしていない内容が隣の親友から発せられ、こちらの様子を窺っていた金髪の少女の耳に届く。


「お、おいっ!!」


 セクハラ・犯罪・性的暴力・猥褻わいせつ行為。

 新聞の紙面に載るような文言が次々と頭の中を駆けていくが、


「ジュンタならいいヨ……。早くママンを倒して、ワタシを助けテ……」


 顔を背けて、少し恥ずかしそうに肯定する金髪少女。

 その横顔は真っ赤になっていたが、すぐに金色のツインテールに隠れてしまう。


「良かったな純多!オレより先に大人の階段登っちまえよ!!」


 まさか、本当にそんなことが可能なのか。

 自分生涯恋人アベックを見つけることも、誰かと肉体関係を持つこともないまま死ぬだろうと覚悟していた純多にとって、青天の霹靂へきれきだった。

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