第28話:襲撃された製鉄所
「ラクタム、だと?ポリンちゃんは本当にそう言ったのか?」
午後の授業。
体育のテニスの時間中、こっそりと抜け出した
「何か心当たりがあるのか?」
「心当たりも何も、
「……分かりやすく言ってくれないか?」
「
「なん……、だって……?!」
雷に打たれたかのような衝撃が走る。
「じゃあポリンは『ラクタム』の構成員で、今回の媚薬騒動は、その『ラクタム』が関わっているってことかよ?!」
「そう解釈して間違いないぜい。……でも、やっぱり不可解な点がいくつかあるな」
太陽が雲に隠れたことで一面が薄暗くなり、二人に影を落とす。
「まず一つ。『ラクタム』ってのは、主として政治家や権力者の毒殺を秘密裏に行ってきたフランスの秘密組織だぜい。そいつらが媚薬なんていう生温い手段で、わざわざ目立つような真似をする意味がないんだよ」
「何か注意勧告的な意味合いがあるんじゃないか?これ以上は事件の捜査をするな、みたいな文言を新聞で切り貼りして、鋏やカッターナイフを郵送するってやつ」
「だとしても、オレたちに喧嘩を吹っ掛けることにメリットがないぜい。こっちは『豊乳派』と『貧乳派』の二大巨頭。その二つを相手取って喧嘩をすることに何の意味がある?」
『ラクタム』はフランスに拠点を置き、古くから要人の暗殺を毒物によって行ってきた組織である。
古くから時の権力者たちと金によって繋がっていたこともあり、資金力や組織としての力・規模は大きいのだが、戦う相手が能力者ならどうなるか。
例えば、どれだけ最新の銃火器を所持していたとしても『貧乳派』の能力を以てすれば、全ての弾丸の速度が盾によって殺されて無力な鉛の塊となってしまうし、『豊乳派』の能力によって巨大化した物体が空から降り注げば、子供が遊びで落とした砂に埋もれる蟻のように、無様に潰れる他ない。
能力者対能力者という構図を想定して動いているのならば問題ないが、そうでない場合は一方的な虐殺の未来しかないのである。
「おっぱい饅頭に媚薬を仕込むということは、オレたち能力者が饅頭を食べることを知っていて、あえて仕込んでいるってことだろ?そうする意味が分からないぜい」
顎に手を宛てて、さらに思案を巡らす。
「そして二つ目。『ラクタム』が日本進出した意味だ。フランスでは比肩する組織がないくらいに巨大な秘密組織が、どうして日本に来たんだ?」
「そりゃあ活動範囲を広めたいんだろ?目指すは世界征服的な」
「おいおい……。純多は日本のヤクザや半グレがフランスで暴れているところを見たことがあるか?」
言われてみて、ヤクザの抗争をモチーフにしたゲームや漫画を何作品が思い出してみるが、どれも日本国内の
「最後に、ポリンちゃんとラクタムの関係だ。「ラクタムから抜ける」と言っていたんだったら、ポリンちゃんが『ラクタム』に所属していると見て正解だと思うが、あの娘が要人の暗殺をするようなプロには見えないぜい」
幼少期から柔道を嗜んでいると耳の一部が潰れて形が変形することがあるし、拳による殴打を繰り返すと拳の一部がゴツゴツと尖った形になることがある。
どんな武器を使うかによって違いはあるものの、何かしらの暗殺を請け負う者ならば身体の一部に何かしらの癖や傷・
「いずれにせよ謎なことが多すぎるぜい。一度持ち帰って組織の奴らに報連相した方がいいかもな」
ラケットを交換しに来ている、という体なので長居するのは教師に怪しまれる。
山積みの疑問を抱えながらテニスのラリーに戻る。
☆★☆★☆
「いいか?日本にどれだけの人員が来ていて、どれだけの規模があるかは分からないが、『ラクタム』の名前を口に出してしまった以上は、オレと純多は間違いなくマークされている。絶対に家に帰らずにアジトで寝泊まりしろ」
「名前を声に出すのも恐れられてる系魔術師かよ?そんな創作の世界みたいなことあるのか?」
「確証はないが、相手はアンダーグラウンドな世界では超巨大な組織だからな。神経質になり過ぎて損なことはないはずだぜい」
校門前まで一緒に来た籾時板に釘を刺された後に解散。来るのを待っていたのか校門前でそわそわしていた
「あの……、先ほどは何の話をしていたのでしょうか?危ない話、とかではないですよね……?」
『ラクタム』の名前は口に出すのも危ないらしいので、言葉を選びながら慎重に話す。
「媚薬を混入させた犯人について有力な情報を掴んじまってな。もしかしたら、そいつらが俺の命を狙いに家の前で待機してるかもしれないんだ」
「はわわっ!
「っ!!走るぞ!田打っ!!」
「は、走るのは苦手ですぅ!!」
このままでは『貧乳派』の支部が危ない。
強い力でアスファルトを踏み締めると全速力で駆け抜ける。
☆★☆★☆
「な……、ん…………」
製鉄所に到着すると、敷地の周りには見覚えのない車が大量に乗り捨てられ、縦横無尽に駐車されていた。
「こ、この車……っ!!」
「間違いない。『ラクタム』の奴らだ!ちくしょう!もう動いてやがったのか?!」
盗聴器などで情報を収集していたか否かは定かではないが、純多の交友関係から家族構成まで全て特定されたのだろう。
幸い両親は共働き。妹も部活があるため家は留守だが、帰宅した所を待ち伏せされて拉致監禁・最悪の場合、その場で殺害されるに違いない。
自宅はどうなっているのか。
様々な心配や不安が
こんなところで不安がっている場合ではない。
まずは状況を確認しなければ。
「製鉄所に向かおう」
人気のない道路を埋め尽くすように散らばった車を縫うように歩き、製鉄所の敷地を囲む壁に背中を預ける。敷地内から出会い
「(待ってください)」
顔を覗かせようとした時、隣にいる少女が小声で制止する。
「(今から饅頭を食べる時間をくれませんか?私の盾で防ぎながら行った方が安全ですので)」
有事だというのに冷静な判断をする少女に脱帽しながら、饅頭を食べる咀嚼音を傍らに深呼吸をして呼吸を整える。
「(準備ができました。では行きましょう)」
初めて
そこにあったのは――。
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