第13話:ケモ度
「もうちょっと丁寧に扱ってくれないかしらん?みうはもう能力者じゃないんだからにゃん♡」
後ろ手に縄で縛られたまま製鉄所の床に座らされた黒猫の女性を
「さて、どうしてくれようか?」
「どうしようも何も、みうは
頬を膨らませながら不満そうに口を開く。
「結局のところ、襲った理由は縄張りを荒らされたから、ということなんだろ?『どちらでもない派』の組織の意向でやったわけでもないんだし、俺たちにも責任があるってことですよね?そのまま帰してあげればいいんじゃないんですか?」
能力を失って一切抵抗のできない人間を一方的に痛めつけるのは可哀そうだ。
純多が恩赦を提案するも、
「それはできないね」
冴藤は首を横に振る。
「な、何ででしょうか……?」
仲間が傷つけられたことに対する復讐を何としてでも敢行したいとでも言うのか。
恐る恐る田打が尋ねると、
「
鬼頭は冷徹に答えた。
「能力が使えなくなるということは、それ即ち性欲・性癖を捨てたも同然。仲間の所に戻ったって、裏切り者扱いされて殺されちゃうんだにゃん」
茶化したような口調だが、言葉の端々から絶望感が滲み出ている。
「そういえば、君――」
「
「触爪さんは何処に属しているんですか?」
「『どちらでもない派』の
「ケモナー勢力との関係はあるのか?」
「あなたって犬派でしょ?宿敵には教えないにゃーん」
鬼頭の机の上に置かれている犬の置物を一瞥すると、ぷいっと顔を背ける。犬派の鬼頭のことが嫌いらしい。
「……お前の頭にあるすかすかの脳味噌を、私のスコップで掘り起こしてやってもいいんだぞ?」
今にもスコップで殴り掛かろうとする鬼頭を手の空いている構成員たちが必死に宥めようとする。
「でも、そこの新人二人は将来有望そうだから教えてあげようかしらん。……これは二人に対して言っているのであって、決してあんたに話しているわけじゃないにゃん♡勘違いしないでよね」
んべー。と舌を出すと純多と田打に目線を向ける。
「みうたち動物フェチは『動物を性的対象として見ている』という部分で根底は同じなのだけど、それぞれ対象とするものが違うんだにゃん。
例えばメカ娘とロボ娘がある。
メカ娘が『機械を装着した女性』を性的対象とするのに対し、ロボ娘は『機械でできた女性』を性的対象とする。
それと同様に、性的対象のケモ度の高さによって、主として
決定的な違いとして、
つまり、
ちなみにだが、これらの動物に対して性的嗜好を持つ者たちを一括りに『ケモナー』と呼ぶことがあるが、厳密な区分としては『人間に近い体型をしていて、言葉を話すことができる動物』が好きな人間を指す語であり、動物を愛好する者や、動物のパーツを付けたアニメキャラクター・コスプレイヤーなどに好感を抱いている者は『ケモナー』とは呼ばない。
「だから、みうたち
猫のように気ままな性格は元からなのか呑気にウインクする。
☆★☆★☆
「話がずれた気がするから内容を整理するぞ」
支部長を務める少女がホワイトボードの上に黒いマジックペンを走らせる。
「一つは、触爪が失踪したことを不審に思い、
縄で縛られたまま椅子に座らされた黒猫少女も一緒に参加する。
「まずはこちらについて解決しようか。触爪よ。君を探しに
こちらは実質捕虜を握っているようなものなので、下手をすれば『どちらでもない派』の一勢力と『貧乳派』の戦争へと発展しかねない。今後の命運を左右する重要な情報を聞き出そうとするも、
「犬派の女には絶対に言わないにゃん」
否が応でも犬派の女に靡く気はないらしい。
ならば、ここはぐっと涙を呑んで、無理してでも話を合わせるしかない。
「ネ……、ネコカワイイナァ……」
「そんな引き攣った顔で言われても説得力ないにゃん?!気持ち悪い顔をしないで欲しいわ?!」
涙ぐましい(?)努力と引き攣った無骨な笑みが功を奏したのか、黒猫のような女性は溜め息を
「可能性は低いわね。みうは
「扱いとしては失踪したことになっているわけですよね?触爪さんがいなくなったことで、仲間が殺されたと思って報復を考える者もいるのではないでしょうか?」
「いないわよそんな奴。みうは、こっちに一人で来て、独りで生活しているんだからにゃん♡」
「あの、少しいいでしょうか?」
静観していた純多が手を挙げる。
「独り暮らしをしているし、
「優しいのね『『貧乳派』の救世主』さん。みうがいいことしてあげたいにゃん♡」
舌なめずりをしながら色っぽく目を細める。
「みうだって恨みを買うようなことを一つや二つはやってきたから、そいつらに家の前で待ち伏せされている可能性は十二分にあるんだにゃん。今のみうが
「自宅に戻すのも危ないということですか……。ちなみに職業は何をしているんでしょうか?」
「職業?みうは働いてないにゃん」
「じゃあ――」
「拙者たちと同じでござるか?」
抱き枕と戯れていた初老の男性と、壁に張られたジュニアアイドルのポスターに、一体化しそうなほど顔を近づけていた中年太りの男性が期待の眼差しを向けるが、
「
その一言を聞いて、初老の男性と中年太りの男性が胸に何かを突き刺されたかのような苦悶の表情を浮かべる。
そして、ここにも都合が悪そうに顔を歪めた男が一人。
「大学生……?」
現役大学生・冴藤
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