第10話:『貧乳派』の救世主

棟倉むねくらくん。ちょっといいかな?」


 製鉄所の内部について一通り説明が終わった後、冴藤さえふじから声を掛けられる。


「何でしょうか?」

「君の能力について話があるんだ。少し来て欲しい」


 一体どのような話があるというんだろうか。

 かつて製鉄所で働く職員たちの休憩スペースとして使われていたという二階部分まで移動する。


「棟倉くんは自分の能力が何か分からないって言っていたよね?」

「えぇ」


 アニメのポスターなどが貼られている元製造レーン部分とは違って殺風景な部屋であるため、有事にしか使われない部屋なのかもしれない。正面に座る青年に向けて肯定の意を示す。


「分からないっていうのは、どういうことなんだい?能力が発動できないってことかな?」

「いいや。能力が何も発動しないんです」

「百聞は一見に如かず、だね。とりあえず異能力を使ってもらおうか」


 ことり。

 机の上におっぱい饅頭が四つ置かれる。


「いくら頼もしい仲間と言っても、能力が使えないなら意味がないからね。能力の使い方を覚えるのも兼ねて僕と少し練習しようか」


 うち二つを冴藤が手繰り寄せ、二つを純多がもらう。


 ちなみにだが、能力を解放するのに必要なおっぱい饅頭の数は、直会之儀なおらいのぎの時が一つ、普段能力を使う時が二つだ。


「……今は冴藤さんのペースに合わせる必要はないんですよね?」

「ククリ様との直会之儀ではないからね。自分のペースで遠慮なく食べてよ。何処にでも売っているような安物だから口に合うかは分からないけど」


 やはり越谷屋こしたにやのものとは風味や舌触りが全然違ったが、今はそんな贅沢を言っている場合ではない。口に饅頭を入れて吟味・咀嚼・嚥下えんげするうちに体内に力が宿ってくる。


「食べ終わったようだね。ではまず、僕の能力を紹介しようか」

「ククリから聞いたから見なくてもわかりますよ。『触れた物体を減らす能力』ですよね」

「まぁね。でも『減らす』にも二つのベクトルがあるんだ」


 眼鏡の青年が掌を天井に向けると木製の板が出現した。


「例えば同じ『触れた物体を減らす能力』でも、僕の能力は俎板なまいたの生成。この俎板は特殊な力を持っていて、触れた物体の火力・速度・運動エネルギーなどを吸収・削減・分散する盾のような役割を持っているんだ。田打さんが持っている鋼鉄の盾を生成する能力も、これと同じだね」


 見えやすいように掲げられている俎板をあらためるも、ごく普通の一般家庭で、ごく普通に使われている俎板にしか見えない。


「もう一方は鬼頭さんのように武器を生成できる能力。この能力によって生成した武器を使えば、触れた物体をこそぐ・穴を空ける・削り取ることができるんだ」


 話を纏めるならば、同じ『貧乳派』でも、相手の攻撃を受け止めることで威力を吸収・分散する防御向きの能力者と、相手の防御を削り取って突き進む攻撃向きの能力者の二種類がいるということか。


「鬼頭さんはどんな武器を使うんですか?」

「それは直接見てからのお楽しみってことでどうかな?同じ場所で生活している以上、遅かれ早かれその目で見ることになるだろうからね」


「まぁ鬼頭さんは、その武器を普段使いしているみたいだから見当はつくと思うけどね」と一言添える。


「それはさておき、問題は棟倉くんの能力についてだ。この場で武器を生成してみてくれないかな?」

「それが、ククリとあれこれ試してみたんだけど、何も出ないんですよ」


 貧乳フェチであるのならば、冴藤のように能力に関わる武器や防具を生成できるはずだし、中には手で触れることで能力が発動する者もいるそうだ。


 しかし、純多は武器や防具を生成することができなければ、ククリが作り出した砂の山を消すこともできない。

 ククリと実験したあれこれの顛末を興味深げに聞いていた冴藤は頷くと、珍しく興奮したような声音で答えを出す。


「ククリ様から事前に聞いてはいたけど、やはり君は『『貧乳派』の救世主』と見て間違いなさそうだね。まさか、こんな所でお目に掛かるなんて……」

「金曜日の夜の時にも言ってましたよね?その『『貧乳派』の救世主』っていうのは何なんですか?」

「それは――」


 言い掛けた直後だった。


「ここにいたのか冴藤!ノックもなしに済まない!急用でな!!」


 元休憩室の扉が強引に開け放たれ、うっすらと汗を掻いた鬼頭きとうが姿を現した。


「どうしたんですか鬼頭さん。敵襲でもあったんですか?」

「そのまさかだ!見回り組の仲間が三人ほど敵に襲われた!!」

「……嫌な予感って的中するものですね」


 眼鏡の青年が歯噛みする。


「相手は誰でしょうか?」

「負傷したメンバーの証言によると、頭に猫の耳を生やした少女だそうだ。この特徴からすると『どちらでもない派』と見て間違いないだろう」

「頭に猫の耳……。動物擬態性愛スードゥズーフィリア辺りでしょうか?」

「人間と判断できるほどの外見が残っているのだとしたら可能性が高いな。ま、仇討ちのためにぶっ潰すだけだから、誰だろうと関係ないがな」


 身体の向きを変えると、その動きに合わせて一つに縛ったポニーテールが揺れる。


「冴藤には支部の防衛として残って欲しい。私は新人二人を連れて、そいつを倒しに行ってくる」

「お気を付けて。場所は把握しているんですか?」

「負傷した同朋から聞いた。問題はない」

「……え?行くんすか?俺も??」

初陣ういじんにしては少々ハードだが来てもらおう。大丈夫だ。危なくなったら命を賭けてでも守るから安心しろ」


 真っすぐで。

 誠実で。


 それでいて燃える闘志を宿した瞳。


「…………」


 そんな眼差しを向けられたら従わざるを得ないではないか。

 田打と合流した後に三人で敷地の外へと出ると、敵が出没した場所へと向かう。

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