この世界の鬼子であるわれが、道理を弁えられる筈もなく。
「
われが嗅いだ臭いの正体、それは、人間の屍体から昇るものだった。村中のあちこちに、転がっている。
傷口を見るに、獣の
われは屍体の一つに近寄った。
——ふむ。糞に混じってわかりにくいが、腐臭はせぬな。どれどれ?
屍体に触れてみる。雨晒しのせいで冷たいが、まだ硬くはなっていない。指についた血も舐めてみるが、やはりまだそこまで腐ってはいない。時間の問題ではあるが。
どうやらこの辺り、賊が出るようじゃのう。
だが関係ない。
われの役目は、ここより東の海に出る海賊を、成敗する事である。ドロテから貰った
だからモロー殿はこの任務にわれを選んだ。他の者では目先の良心が任務を
今のわれの問題は食い物じゃ。何故か家畜が見当たらん。この村の者は、何を喰ろうて生きておったのじゃ?
その時、風に乗って甘い匂いがわれの鼻をくすぐった。これは、酒だ。われは匂いのする小屋に入る。
ほうほう? コレはたまにナーレでも見ることのある密造酒「
われも何度か呑んだ事があるが、なかなかに旨い。貧しき者達の収入源である為、国も表立って取り締まりはせぬが、このような場所でまで、作る者がおったとは。
まぁわれは人であった頃に、
となると、肉は家屋に備蓄してある物だけであろうな。恐らく、この州の都で買い込んだ干し肉だけじゃろう。
われは生肉を焼いて食いたいというのに!
ははーん?
この肉はオークのものだ。棒桃の木で燻った匂いに覆われてはいるが、間違いない。この村はオークに襲われたのだ。この村の収入源であろう酒がまるまる残されていたことにも説明がつく。
オークは、われがまだ人として生きていた世界でいう、猪と
北北西を司る魔獣として、ナーレの広場の十二体の像にもなっている。
魔獣は亜人の近縁種とされ、狩る事を禁じられているが、その肉の味の需要は消えず、闇市場では高値で取り引きされていた。
オークは温厚な獣という事であったが、流石に仲間を狩られたならば、話は別か。
モロー殿への報告は無しじゃ。獣を狩った者どもが獣に報復されただけ。国に処分される言われもないじゃろう。
そして、われは肉を食らう。それで良かろうなのじゃ。
————だがその時、われの耳に、人の悲鳴と獣の声が届いた。
無視じゃ無視! われは肉を食らうのじゃ!
しかし、人の悲鳴には、幼な子の声も混じっている。
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