儀仗とは最上級の接待だ。
美術室前の通りの奥から、馬車がやって来る。
「〝アゲンラスフォーストゥー〟!!」
ドニくんが魔法を唱えた。儀仗用の花火みたいな魔法。それは魔導師ではなくて、魔術師の役割。
パンッパンッパンッパンッパンッ!
侯爵への
それくらいに彼の魔法は美しい。
それにしても今のこの状況、かなりカオスだ。
金ピカの甲冑をしっかり着込んだ美術室騎士隊長サマ、同じくしっかりと着込んだ騎士と兵士。それだけならダイジョーブ、なのだけど、問題はわたし達魔導師。
ドニくんは全然問題ない。魔術師だからしっかりとした
でも、わたしの肌の色は恥ずかしくないし、女が肌を見せて悪いハズもない。……たぶん。
フレディが今のわたしを見たら、どんなセリフを吐くのだろう。
馬車が停まり、
二人のおじさんが降りてきた。
「「侯爵閣下! 並びに男爵閣下に対し! 捧げー!
騎士隊長とアルテュール隊長の声に合わせて、騎士達は剣を鞘ごと縦に振り上げ、キスをするような動作をする。わたし達魔導師、魔術師も同じように杖を掲げた。
「〝アゲンラスフォーストゥー〟!!」
ドニくんがもう一度花火を鳴らす。
侯爵サマと男爵サマがわたし達の前を通過して、騎士隊長サマの前で止まる。
——わたしが予見した通り、やっぱり、この二人だった。
毎度おなじみヤン•サミュエル•モロー卿と、その後見人でもある「サミュエル•サン=テ•キャベール•フォン•ロレーヌ=ナヴァール」侯爵である。名前長すぎ。
「いやいや、素晴らしいね。王都の美術室に恥じない練度だよ。キミたちの存在こそが芸術や学術を発展させる。これからも頑張ってくれたまえよ」
「ハッ! 侯爵閣下のありがたき御言葉! 肝に銘じ! これからも我々一同! 励んで行きまするッ!!」
おじさん、というかお爺さんのような見た目に反して
アドリブで困るくらいなら事前にセリフ、考えとけば良いのに。兜で顔は見えないけどたぶんこの人、昇級したてなんだろうな。脳筋ってこういうトコ可愛いよね。
アルテュール隊長は直立不動だ。侯爵サマにスルーされて、肌に汗が浮いている。
侯爵サマに続いてモロー卿が中へ入っていき、わたし達はそれぞれの持ち場に戻った。
んだけど——。
受付で侯爵サマがとまっている。モロー卿も手招きしていた。
「侯爵閣下? ナニ止まってるんですか? とっとと中へお進み下さい」
「ちょ!」
わたしの「軽口」にドニくんと、受付を代わってくれていた可愛い兵士くんが絶句した。
「相変わらずだねドロテちゃん? 元気してた?」
相変わらずキモい。
侯爵の、この老いぼれた姿は
わたしどころかモロー卿よりも歳を取ってるはずなので、外に出る時はいつも、このような姿なのだ。
一応「光で本来の姿を隠している」とモロー卿からは聞かされているけど、そんな事できるのだろうか。どちらかというとリージュンの
「で、では! 自分はこれで!」
兵士くんが逃げるように去っていき、ドニくんがわたしに訊いた。
「ドロテ
「ああ、気にしないで。この
「つれないね? 今日はキミに案内をしてもらおうと思ってたのに」
「ムリッス! あたしは受付がありますッス!」
侯爵のお誘いにわたしがイネスのモノマネをして対応していると、モロー卿が口を開いた。
「受付なら彼に任せれば良いのではないかね? あの美しい花火を出来るほどの逸材だがね? 問題ないのではないかね?」
「彼はこれから
彼の代わりにくるコリーナちゃんも優秀なんだけど、ちょっと一人で任せるには頼りない。シモーヌちゃんはアレだ。まだ
「ど、ドロテ隊長。俺なら大丈夫です。一日くらい昼メシなくても……」
「彼もそう言ってるがね? やはりドロテ嬢が指揮する隊は違うがね?」
「さあ、ドロテちゃん。早く行こう」
う、ドニくん。そこで気遣いは発揮してくれなくても良いんだけど。てか、ホントゴメン。このヒト達がこんなヒト達で。
わたしはこの二人をさっさと帰すため、さっさと要望を満たす方向に方針を、変更するのだった。
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