うーん、わたしって気さくな魔導師だ。

 コンコンッ。


 ここは美術室の裏側にりんせつされた勤務者用の生活隊舎、その分隊長室だ。女性魔術師は三階の六つある四人部屋、男性魔術師と兵士たちは一階にある四つの八人部屋にそれぞれ宿しゅくするワケだけど、わたしたち魔導師は二階に設けられた個室で営内生活をする。ちなみに魔導隊長と騎士たちのちょうは、さらにとなり建物トコロに寄宿している。


「はいはいー。ちょっとお待ちをー」


 わたしは気の抜けた声で応じ、布でカラダと床の汗を拭いて部屋着を、ドアに近づく。流石に分隊長といえど、裸のままで外には出れない。てゆーか出たくない。男性が訪ねてくることもあるのだ。

 

「うわ、汗だくじゃない? 相変わらずね、ドロテ」


 鍵が開けられたドアの外にいたのは、ララ•サン=ウーリード•クレマンである。美術室魔導隊に第二分隊長だ。序列は九十二番。カサンドルよりもさらに胸をはだけており、薄い肌色が目立つ。腰のくびれに密着するローブのたけも、わたしより短い。

 彼女と同じ勤務になるのは久しぶりだ。


 ララは勝手に部屋に入り、わたしのベッドのわきにある椅子に座る。わたしもため息をつきながら、机のトコにある椅子を持ってきて座った。


「相変わらずってどーゆーこと? 魔導師がのはとーぜんでしょ?」

「はぁ、まじめねえ……。いくらスタイルをキープしてもオトコを誘わないならないゾ?」

「うっさいわねえ。あんたはそーゆーの意識しすぎ」


 ララはクレマン家の三女である。大人しくお屋敷でせーに暮らしていれば良いものを、なぜか魔術師なんて生き方を選んでいる。まぁ親の言いつけ、自分で魔術師をえらぶ貴婦人サマの動機は、だいたい似たようなもの。


「いいじゃない? ワタシが魔術師になったのは、ワイルドな騎士サマと楽しむためよ?」

「ハイハイ、それで? あんたのかなうこーうんな若い兵士さんはいた?」


 ララの露出が多いのはわたしと違って見たまんま。そのほーまんな肉体を活かしたラクをするため。


「それがね? ワイルドなヒトは隊長サンしかいなかったんだけど、ちょっと可愛い子がいたのよね? 一人で行くのもアレだから、アナタも一緒に遊びに行かない?」

「……あんた今朝、魔導師の心得をちゃんと復唱してたよね?」

「あんなの。だから下の魔術師に『お堅いのがたまきず』って言われるのよ? 若くて可愛いのにもったいないって」

「どーせあんたがソッセンして言ってたんでしょ?」


 ララはわたしよりも三つ歳上だけど、わたしの後輩。何年か前に部下として、わたしの指揮下で働いてたこともある。わたしたちが互いになのは、わたしが魔術師たちに「わたしにデカい顔したければわたしよりも偉くなれ」的なことを言い続けてたから。

 ぶっちゃけ、わたしがこの地位にいるのはこの国の「生まれや年齢よりも能力、能力よりも努力を評価する」ってゆー、ある種のアピールだ。そんな国ので宮廷勤めになったわたしが舐められないためには、常にツヨでいるしかない。でもその強気がなぜか、アットホームなどーほーしんとして受け止められて、こんなかんじになっている。カサンドルやララに追い抜かれた今でも。

 んで、わたしは別に、自分よりも偉いヒトに「デカい顔をしない」とは


「昔のことはどうでもいいのよ。常にを見ていきましょ? で、行く? 行かない?」

「行かない。カサンドルとか魔術師上の階の子たちにでも声をかけなさいな」


 わたしは自分の周りに散らしてある「光の魔素」を手のひらに集めた。

 光に魔素はないけれど、天空の魔素に火と水と雷の魔素を集め凝縮した粒子を、わたしたち魔術師や光を使えるヒトたちは、光の魔素と呼んでいる。ちなみに、光を使えることが魔導師になるためのさいてーラインだ。


 わたしの手の上にアルドペシュあらわれる。光のホンブンは隠すこと。

 わたしは手のひらに収まる棒桃をそのままかじった。棒桃は普通の桃よりも皮が柔らかく、そのまま食べられる。うん、みずみずしくておいしい。筋トレの後にはサイテキだ。


「……まったく! アナタの言う『出会いが少ない』は、アナタ自身のせいよ? すぐにおばーちゃんになっても知らないゾ?」

「ならないから。わたし、エルフの血が流れてるもんでして。とゆーわけでそろそろ行ったら? わたし、シャワー浴びたいんだけど」

 

 王都の地下ではキレイな水が循環していて、こんな隊舎でも個別にお風呂がついている。ま、お風呂がなくても自分で水、出せるんだけどね。魔法を使えるヒトならば。


「ホントずるいわよね? まあ良いわ。ワタシは楽しんで来よーっと!」

「はいはいでわでわ、さよーならー」


 ララが部屋から出ていった。

 さてと、わたしはシャワーを……ってかそうだ、この部屋着。シャワーの後に着ようと思ってたのに。

 オークの牙色アイボリーの布地が汗で台無しだ。

 

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