パズル 田舎 銅像

 偶然マッチングしちゃった時、きみならどうする?

 ここはママやパパが住むサンテキャベールより北の、元国境の山岳要塞を越えた向こうにある街、ナーレである。今はこちら側にいるのだからという言い回しもおかしな話なのだけど、それでも故郷を基準に考えてしまうのはもう、田舎者のみたいなものだ。


 そんなわたし「ドロテ•ド•オーバン」は、このナーレの十二魔獣像広場の真ん中にある噴水の前に、立っていた。ヒトを待っている。

 サンテキャベールと違って山を降りたとこにある街だから、南にある王都と比べてかなり暑い。けど、ぶきの混ざる大気が心地いい。

 

「やあ」


 お、ベルターニャ系のハンサムガイ。その顔と、そでのないシャツから見えるはるかにうすい褐色に焼けた肌もポイントが高い。腕の血管がセクシーだ。背が高く顔も良く働き者、物腰も柔らかで、かなりイイカンジ。

 でもザンネン。わたしが待っているのはこの人ではない。


「こんにちは、おにーさん。わたしに何か用?」

「用ってわけじゃないんだ。こんな場所に一人で、何してるのかなぁ、って」


 ありきたりなセリフ。でも、嫌いじゃない。なぜならこの街は、もと辺境伯のげん侯爵サマが作った、人々の出会いの場だ。チラチラ見るだけではなくてキチンと声をかけてくるトコロ、それに何より、ほかのヒトじゃなくてわたしに声をかけてくれたのが嬉しい。まじでザンネン。


「今わたし、待ち合わせ中なの。その間のお話相手をしてくれるってゆーのならとっても嬉しいのだけど……ごめんね?」

「はは、わかってる。先客がいて当然だ。ただ、ちょっと気になってさ。君みたいな可愛いコが、そんな格好はしない方が良い。なんていうか、その……この街の男達には


 む、ちょっとポイントダウン。初対面で服装にダメ出しなんて。んー、いや。コレはわたしがいけないか。


 わりと小さめなこんいろさんかくぼうからはみ出た、長くしてるわたしの髪の毛は、ママの白とパパの黒がミックスしたマルチカラーである。

 肌も、ママの血でかなり薄まってるのにも、乾いた土みたいな色だ。その肌が見えやすくなるようにわたしは、帽子と同じ色のローブに大きな切り目を入れて両肩を露出し、長い脚が映えるようにたけを膝上にしている。

 あ、もちろん穿くモノは穿いてる。セイのときに穿くやつじゃなくて、ちゃんと男の人が穿くやつだ。だって貴婦人みたいに何も穿かないと馬に乗ったり不便だし、馬車を使うのも逆に不便でしょ。

 ちなみに靴は、オヤカタくん特製の合金を仕込んだ膝下までのびたブーツをいている。


「コレはわざと見せてる、ってゆーか、わたしにとっては必要なコトなの」

「ああ、うん。はっきり言おう。君のその肌はとても綺麗だ。でも綺麗だからこそ、そういう事はやめた方が良い。この街には君の魅力に見合うほどの男はいない」


 うわ、ぜったい勘違いしてる。インバイか何かと。ってゆーかマジメだね、この人。


「うーん。そういうコトじゃないんだけど。わたしが待ってるのは女の子。だから心配しないで」

「あ、ごめん。勘違いかぁ、はは。かっこ悪いね俺。でも、この街には変な奴らも多いし——」

「実はわたし、とっても強いの。だからヘンなやつに大丈夫」

「俺もその変な奴の一人さ。君は油断してそんな奴とお喋りしてる。俺はとっても心配だ」


 そう言って彼は白い歯を見せて笑った。

 これは困ったぞ? わたしの好みタイプにマッチングしすぎてる。いっそのこと待ち合わせはキャンセルして、この人とゴハンにでも行ってしまおうか。でもなあ。遊びで来ているわけじゃない、からなあ。


 今わたしがここにいるのは、ヤン•サミュエル•モロー卿からの頼まれごとだ。それをほっぽり出したら後で何を言われるか、わかったものではない。

 まあいいや。

 どうせモノを渡すだけのシゴトだし? 一瞬で終わるコトだし? 来るのもノリの軽い女の子だし? 

 ちょっとでもあの子が遅刻したなら、男をとってしまおう。てゆーか、遅刻して。いっしょーのお願い。

 

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