パルグロンデ•スライム、ッス……。

 ——クェローム、トゥルーム、モールの三神は、木の魔素を凝縮させクントゥムを造り出し、それに他の魔素をまとわせ、生物を創り出した。しかし、その生物の立つ、足場がない。自分たちが触れているうちは、その生物も自由に動き回れはしたがひとたび離れると、何もできずにただ伸び縮みするのみである。

 そこで三神は、自分たちのからだで世界を創ることにした——。


「なるほどッス! つまり空がクェロームで、大地がトゥルーム、海がモールッスね!」

「うーん。近いんだけど少し違う、かねえ?」


 違う? どう違うのだろうか。というか、少し気になる部分があった。


「もしかして、そのうまれた生き物って、スライム、ッスか?」

「おお、よくわかったねえ。その通りだよ。その名も原初のスライム『イーモヌトゥ•スライム』さ」


 うげ、やっぱり。


 誓っても良いが、アタシは生き物の見た目にはかんようだ。自分の顔も少しうわいた小さな鼻が「ちょっとで可愛い」とか思ってる。


 でも、スライムだけは、本当に駄目なのだ。

 クントゥムをおおう半透明のしつが絶えず、ウネウネと流動するようすがヌラヌラとした表面から透けて見えちゃったりして、グロテスクに感じる。一言でいうと、気持ち悪い。


 とくに「パルグロンデ•スライム」なんて、まるで狂気。

 複数のスライムが集まりぐんたいとなったその姿は、アタシの「ニガ」を全て足したようなものだ。圧縮され凝縮された細かなスライムたちのクントゥムが沢山の眼のようにも見えるし、シュルペンマデューラのらんのうにも見える。

 そしてそれらが普通のスライムのようにいるのだ。想像しただけで鳥肌が止まらない。


 うん。もう想像するのはよそう。


「そ、それで、神サマたちはどうやって世界を創ったッスか?」

「そうだねえ。たとえるなら、パルグロンデ•スライム。そんなかんじだね」

「え!?」


 ——三神はそれぞれ、自分たちのからだを細かく、分裂させた。それらは天空の精霊、大地の精霊、海洋の精霊となる。


 天空の精霊は天空の魔素と光を生み出し。

 大地の精霊は大地と火と雷の魔素。

 海洋の精霊は天空と大地、そして水と木の魔素を生む。


 一度拡散した精霊たちはもともとクェローム、トゥルーム、モールであるため、それぞれを愛し、また集まり、沢山のグループを作った。

 それらのグループが更に集まり、物質が生まれ、空と大地と海が生まれる。


 そして、世界が生まれた——。


「や、ややこしいッス」

「あはは。要するに、だねえ。一度分かれた神サマたちがまた集まって世界ができた。つまりこの世界は、一つの大きなパルグロンデ•スライム、ってことさ」

「……そういえば、前々から疑問だったんスけど、海洋の精霊がいて、『海洋の魔素』がないのはどうしてッスか?」

「ああそれは、モールが、クェロームとトゥルームの交わりで、産まれたからさ。イネスちゃんやオヤカタさんも、お父さんとお母さんの。それと似たようなもんさね。ま、しょせんは大昔の神話、話半分に聞いてくれれば良いわさ」

「むむう。でも、信憑性あるッス。きっと海洋の精霊の『海洋』って呼び方も、その神話が広まってできたって考えればナットクッス」

「まあアタシたちエルフは長生きだからねえ。大昔に広まったって説は、たしかにあるかもね?」

「でも、まだちないことが、あるんスけど」

「良いよ。なんでもお訊き?」

「こんなお話があるのに、なんでエルフは『混血を嫌う』ッスか?」


 言ってみればこの神話、神サマや精霊が「混ざりあって」沢山のモノが産まれたお話だ。近親相姦の部分で純血にこだわるような種族が、なぜ混じり合う部分を軽視しているのだろう。

 アタシはとくに憤ったわけでもなく、ただ純粋な疑問を口にする。


「そう、さね。ここからは歩きながら話そうか? あとは道に沿って帰るだけだから、つまずいて転ぶようなこともないだろうしさ」


 セリーヌさんは、ぱんぱんっとお尻を払い、立ち上がった。


「そうッスね。ちょっと汗も、冷えてきたッスから」


 ちょっと歩いて道に合流したアタシたちは、また会話を、再開した。

 


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