クェロームとトゥルームとモール、ッス!

 薬草のいた薄皮をたどりながら、アタシとセリーヌさんは山を下る。茎の上部の枝分かれしているところのささくれを下部に向かって引くと、薬草の薄皮はかんたんにがせるのだ。収穫するたびにそれをばら撒き、帰りの目印にしてるのである。


「イネスちゃん。そういやさっき『ツユ』とか言ってたろ? どんなモノなんだい?」

「梅雨? ああ、実はアタシもよく知らないんスけど、オヤカタがいうには——」


 世界には色々な魔素がある。その魔素を生み出すのが精霊だ。精霊たちは色々なグループをつくり、それが大気の流れになったり、地面を揺るがしたり、ろうや海鳴りなんかをつくるそうである。

 ジパングの梅雨も主に、天空の精霊たちのそれぞれのグループが互いに影響し合った結果、というのが通説であるらしい。


「アタシにはチンプンカンプンッス」

「なるほどねえ。つまり、神サマたちのお話、みたいなものかね?」

「神サマ、ッスか?」

「ああゴメンねえ。イネスちゃんはエルフの神話なんて知らないし、聞きたくなんてないよねえ」

「い、いいえッス! 同じエルフでもセリーヌさんは別ッス! だからその神話ってやつも、セリーヌさんがいうならアタシは全然平気ッス!」


 エルフはドワーフと仲が悪いけど実は、それ以外の種族とも仲が悪い。セリーヌさんがまだアタシぐらいの歳のとき、セリーヌさんやセリーヌさんの両親はそのせいで、かなり居心地悪い生活をしていたらしい。

 お父さんとお母さんは貧しさと過労で倒れ、セリーヌさん自身も若き日のオーバンさんと知り合ったとき、病を抱えながら生活をしていたそうである。

 アタシは、自分を捨てたエルフという種族は嫌いだけど、セリーヌさんという「個人」は好きだ。だから今もこうしてセリーヌさんを手伝っている。

 オーバンさんの体力の衰えも薬草ではどうにもならないし。


「そうかい? なら、語らせてもらうとするかね? ちょうどホラ、まで来たからね。ちょいと休憩がてらに、ね?」


 あの石、とは、往路でアタシたちが休憩したときに使った二つの大きな石のことだ。アタシたちは石にそれぞれ腰掛け、そしてセリーヌさんが、語り出す——。


 天空神クェロームが産まれた時、この世界には何もなかった。

 クェロームは自身の体をもとに、火、水、雷の魔素を創り、それを練り合わせて大地神トゥルームが産まれる。

 クェロームはトゥルームを愛し、トゥルームもクェロームを愛した。

 二神は人や亜人、その他の生き物でいう親子の関係であったが、彼らの愛は大きく、やがてクェロームとトゥルームは混じり合い、海洋神モールを産み出す。

 クェロームはトゥルームとモールを平等に愛し、トゥルームとモールもクェロームを愛した。

 三神の愛が混ざることで命、すなわち木の魔素ができたが、そのとき、問題がしょうじる。命の住まう場所がない——。


「うわあ、きんしんそうかんッスかあ」

「ふふ、エルフが純血にこだわるのも、ここから来てるんだろうねえ?」

「それでそれで?」


 アタシはセリーヌさんに、話の続きを急かした。


 

 

 

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