兵器としての薙刀は骨董品ッス!

「こんにちわ、イネスちゃん。ったく、モロー卿にも困ったもんだよ」

「セリーヌさん!」


 セリーヌさんはこの村で薬屋を営むオーバンさんの奥さんだ。オーバンさんは人間のお爺さんだけど、セリーヌさんは純血のエルフで見た目がかなり若い。アタシはエルフは嫌いだけど、セリーヌさんは別。だって、迫害された仲間だから。


「はい。注文の薬草だよ。薬草の数量で仕事の大変さはだいたい察しがつくけど、あんまりをつめすぎないようにね?」

「ハイ! いつもありがとうッス!」


 そう言ってアタシは代金を渡す。


「それはコッチの言うことさね。皆んなツケだのなんだの言うこの村で、キチンと料金を払うのはおたくらくらいだよ」

「当たり前ッス! アタシたちの仕事は決して安いもんじゃないッスから!」

「ふふ、オヤカタさんの受け売りかい?」

「え? てへへ……。まあ、そうッスね」


 オヤカタが言っていた。「俺たちの仕事は安くできるような楽なもんじゃない。顧客の金も同様だ。だから手を抜かないし、抜けない。そして俺たちが客側にまわった時は、正当な対価を払うべきだ。それで、金がまわる」って。


「オヤカタも、オヤカタの親方の受け売りらしいッスけどね」

「ところで今作ろうとしてる武器ってどんなものなんだい? たしか——ナギナタって言ってたけど」


 薙刀なぎなたという武器は、コッチでいうグレイブとかパルチザンみたいな、馬上から敵を薙ぎ払う武器。戦時中、槍にとって代わられたそんなこっとうひんのような兵器である。

 コッチでもそうなのだけど、昔は馬に乗って一対一で戦ったり、歩兵数人に対して騎兵一人で戦うために考案されたモノ——ってオヤカタが言っていた。

 騎兵同士で戦ったり、盾とか甲冑を装備した敵と戦うのは斬るよりも叩く、叩くよりも突く、そういう戦い方のほうが効率がいため、廃れたのだ。アッチでもコッチでも。

 そして現代では、戦乱が完全に終わったので、さらに需要はない。


「なんでそんなブキ、モロー卿は欲しがるんだろうね? そもそもあの人、騎士団にいた時はたしか、砲兵、だったハズだろ?」

「え? そうなんスか?」

「まあ、剣とか槍とか使う人らよりもかわざんようが得意だったんだろうね。ああ、あたしもあんまり油売ってらんないね。もう行くよ」

「ええ、またッス」


 これだけ薬草があれば、魔力不足にはならない、だろうけど……ああ、やっぱり夜は寝ていたい。でも仕事は仕事。切り替えないと!


「イネス、こっちの準備は終わった。にはの木を使う」

「カシネコ? ああ、そうッスね柄が金属じゃ、せっかくのカタナの意味がないッスから」


 カシネコとは、この辺りで採れる材木のこと。この山村の人たちにとって農作物と並ぶ、大きな収入源である。金属には劣るけどそれなりに硬く、適度な弾力性もある。そして軽い。

 戦争などでは扱いやすさよりも耐久性が重視されていたため武器として使われることは少なかったみたいだけれど、農耕具や生活備品として十二分の活躍をしてくれる、いい素材だ。


 柄の部分は問題ない。問題はの部分。


「そっちはどうだ? 魔素、というか、魔力配分の計算は済んだのか?」

「うん、まあ……」


 コッチ側の武具は、重い。なぜなら兵士には屈強な男たちが選ばれるし、むしろその重い武器を軽々と扱える兵士は、それだけでステータスになる。だから重量などは考えずにとにかく、大量の金属を使って耐久性だけを重視すれば良いのだ。派手な装飾もそこまで難いわけでもなく、ただ後から飾り付けするだけ。

 しかし、ジパングでは機能性とおもむき、その両方が重視されるので、武具もそれに見合ったものでなければならない——と、これもオヤカタが言っていた。


 その「耐久性と軽さと美しさ」を実現するために、多種類の魔素を大量に消費する必要がある。最適な比率で。


「計算はできたッスけど、以前作った刀よりも難易度は高めッスよ?」

「だろうな」

「もう、ミスリル銀使うってのはどうッスか? あれならただ、叩いていで終わりッス。モロー卿ならその分のお金も払ってくれるッスよ、きっと」

「コレ一本ならそれで良いんだがな。モロー卿はコイツの大量生産も視野に入れているらしい」


 はあ!? 大量生産!? 魔王どころかモンスターとも戦う必要のない現代で!?


「っていうか、難しい時点で無理ッスよ、ソレ」

「だから、薙刀を造るレシピも一緒に買い取りたいそうだ」


 ——皮算用。

 アタシにはあのハゲ男爵の描く図式がわからない。というか、レシピなんて売ったらアタシたち、用済みってことにならないのかな? あ、でも、それであのハゲに振り回されることもなくなるのか。そしてオヤカタとのスローライフ。ならそんなに、悪いことでもないのかもしれない。


 少しだけやる気の出たアタシは、オヤカタと共に、作業場へ向かうのだった。

 

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