ヤン•サミュエル•モロー卿からの受注案件。
Y.T
島 薙刀 廊下
あの島国の武器を造るのはけっこう大変ッス!
「オヤカタ! この机の上の落書き、捨てちゃっても良いッスか?」
「待てイネス。それは大事な図案だ。そのままにしといてくれ」
ここは王都から遠く離れた山村だ。この山村でアタシとオヤカタは二人、鍛冶屋で生計を立てながら暮らしている。肩書きは一応、一人親方とその助手ってカタチではあるのだけど、実質的に夫婦みたいなものだ。
てへへ。
アタシとオヤカタは似た者同士——。
この世界にはマイナーな亜人を含まなければ大きく分けて四つの種族がいる。人間、エルフ、ドワーフ、ホビット。この四つ。エルフ、ドワーフ、ホビットのルーツは人間とゴブリンの混血とされ、それぞれがゴブリンの仔を孕んだ女性から産まれ広まった——というお話だ。
でも、アタシは違うと思ってる。だって一番人間に近い見た目のエルフが、一番歪んでいることが多い。
エルフの母が、ペットにしていたホビットの父からしぼりとって産まれたのが、アタシ。
ドワーフの女性がエルフの男にはめられて産まれたのがオヤカタ。
アイツらはろくなもんじゃない。
アタシはまだ子供のうちに追い出された。エルフは変態のくせして穢れを嫌う。混血を嫌うなら、堕胎を禁止する戒律なんて作らなければ良いのに。種族として、破綻している。
ドワーフはそんな事はしないのだけど、ドワーフとエルフは仲が悪く、低い身長や屈強な体つき以外がエルフに近い
オヤカタは、鍛冶屋として独り立ちできるようになってからドワーフの里を飛び出し、この辺境に流れ着いた。アタシはその途中でオヤカタに拾われ、今に至る。
オヤカタの名前?
オヤカタはオヤカタだ。そう呼ぶように言われてるから、呼び名はオヤカタという記号で良いのだ。
「図案? ヘタクソすぎて、耳かきにしか見えないッス」
「違う。これは
「ナギナタ?」
「ああ。また『ヒゲ男爵サマ』からのオーダーだよ」
「……なるほどッス」
ヒゲ男爵サマ。
それはこの山村のある領地の有力者——ヤン•サミュエル•モロー卿という、成り上がり貴族のことである。元々はここの領主の侯爵様おかかえの
もっとも、アタシとオヤカタがここに流れ着く前どころか産まれる前の大昔にあった戦争なので、村人が語り聞かせてくれたもの以外の情報を、アタシは知らない。
とにかくモロー卿はヘンな案件をオヤカタに持ち込む変わり者——それだけで十分だ。
「なんでもモロー卿が若き日、遠征で行った島国にあったモノだそうだ」
「もしかして、また……ジパング、ッスか?」
「ああ、先端の細長い穂先は、
「うひい!」
カタナ! またなんてモノを!
刀というのは、アタシたちの住む大陸の東の更に向こうにあるジパングという島国に伝わる切れ味の鋭い剣。
製造工程がこちらのものと比べてかなり複雑で、金属を打つときに三つ、刃を
以前作らされたときは、七日間の徹夜をし、ボロボロの姿で納品した。
「……それで、いつまでに納品ッスか?」
「五日後の夜だ。『以前に刀を造ったノウハウがあるのだから、もっと短い時間でイけるだろう』との事だ」
「あ、あ、あ、あのハゲ男爵! なんでいちいちウチらに限界を越えさせようとしてくるッスか!? ナニ? なんかの嫌がらせッスか?」
「仕方がない、顧客ってのはいつだって厳しいものだ。ヒトサマから金をもらうってのはそういうことさ。それと、ヒゲ男爵だ」
「てゆーかオヤカタ! オヤカタもオヤカタッス! なんでそんなモン受注してくるッスか!?」
「それも仕方がない。あの
「アタシは
「フトい仕事とコマい仕事、両方ともこなすのが商売人だぜ?」
「ハイハイ……」
アタシは、これから身に起きる地獄に備えて、大量の薬草を発注するのだった。
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