トラップって強いよねぇ？

第45話 メーエル

　脚がガクガクと震える。目の前で現実と遜色ない殺され方、悲鳴、血、そのどれもが俺を恐怖へと包み込んだ。

　ケンジのあの悲鳴が俺の脳内で木霊する。あの、異常な様子に俺は一度ログアウトを考えたが、ケンジのかたきをを取らないとと、奇妙な義憤に駆られていた。

「……」

　そいつが、俺に向かって血濡れた短剣を持ちながら階段を下っていく。ケンジさんの死体が消えたが、血は残っており、階段を降りるとぴちゃぴちゃと血が跳ねていた。

「っ、ふぅ、はぁ、『鑑定』」

『名前　メーエル

種族　獣人(羊)

レベル10

能力値

HP　1

MP　20

力　8

防御　8

器用さ　8

速さ　8

魔力　8

スキル

死霊術　10

アーツ

スピリットボム　(MP-1)

デビルスライス　(MP-1)

バットショット　(MP-1)

』

　自身を落ち着かせながら鑑定するが、その異常なステータスに驚く。ゲームしている中でHP1のキャラクターは見たことがなく、力や魔力などの能力値が8と綺麗に並びすぎていた。

　鑑定を見ている間にも俺とメーエルの距離は狭まってくる。

　だが、能力値的にはまだ勝てるレベルであると判断し、俺は剣を構える。

「鑑定したね」

「！」

　メーエルは歩きながら俺が鑑定したことを看破した。

「まあいい。さぁ、お前の感情を見せろ」

「『プロンプトコマンド』」

　そう言いながら、俺の方に手のひらを向けると、そこから赤い光線のようなものが放射され、俺の体を貫いた。

「！？」

　光線は俺が反応する前に体を貫通し、俺は衝撃が来るのを身構えたが、予想外なことに何も起きない。

　なんだ？何が起こった。

　今のはアーツ？プロンプトコマンド……。そんなのステータスにあったか？

　状況が整理できず俺が動揺する俺と裏腹にメーエルは悠々と歩きながらこちらへと距離を詰める。

「ふぅ」

　一旦思考を止めて俺は大きく息を吐きながら、自分を落ち着かせる。そして、まずは罠で相手を翻弄しようとアーツを発言した。

「『自動設置』」

　だが、俺の目線に罠を設置する座礁を示す矢印が現れない。

「な！こんな時に」

　俺は大声を上げた。いつも罠を設置するときは矢印が現れ、座標を指定することで簡単に罠を設置することができていたのに今の俺の視界には何も映らない。

　このゲームでは、HPやMPのバーなど見えない。自分がどの程度のダメージを負っているかは視界の赤色の迫り具合で分かるが、MPはプレイヤーからは一切分からない。

　このMPは時間経過でしか回復せず、どれくらいの時間で程度回復するのかというのは俺は知らなかった。恐らく、先ほどのオクとヒラの戦いでMPを使いすぎていたため、もう自動設置するMPが残っていないのだ。

　俺は罠を使えなければただの剣士であり、ステータス向上系のスキルがない分、劣化だ。相手の数値と俺の数値は競っているため、まだいけるだろうか？だが、この気味が悪い男にいきなり近接戦を挑みたくなかった。

　だが、俺は覚悟を決める。

「すぅ、はあああああ！」

　大きく息を吸い、その勢いのまま俺はメーエルに向かって剣を構えて突撃する。

「はぁ！」

「ぎひぃ！」

　相対し、俺が上段で剣を振り下ろすと、メーエルは片手で短剣を持ち、受け止めた。

「くっ……！」

　余裕そうに受け止める様子を見て俺は動揺する。体に力を込めながら、冷や汗が流れる。

　どういうことだ！？ステータスでは力は勝っているのに明らかに力負けしている……。

「はははぁはぁははぁ！？」

　絶叫しながらメーエルは驚異的な力で俺の剣を強く弾き、俺の胸に短剣を突き刺そうとする。

　まずい、と思いながら俺は体を大きく逸らし、ぎりぎりで胸に突き刺さらなかったが、服を貫通してわきの下を薄く切り裂いた。

「痛……、っ！」

　わずかに、わずかであるが熱いものを脇の下に押し付けられたように鋭い痛みを感じた。

　い、痛い……？な、なんで。

　現実と同じように、その裂傷が痛いのだ。サカタに体を刺された時よりもオクとヒラに木の幹に直撃されられた時よりも、その痛みは遥かに大きいのだ。

　動揺していると、腹に大きな衝撃が加わった。

「ぐっ……！？」

　俺の腹にメーエルの脚がめり込んでいた。

　瞬間、腹の内臓が大きく揺れるような激しい痛みと急激な嗚咽感が俺の体を流れた。

「あぐぁ、げほぉ、げほぉ」

　その場で剣を取り落とし、腹を抱えてうずくまる。

　その場で崩れ落ちた俺にメーエルの声が響く。

「異世界人よ、お前らの感情を……もっと、見せろ」

　その言葉の後、俺の背中に強烈な痛みが流れた。