第28話 老プレイヤー

「え」


 呆ける俺にその大柄な獣人は気にすることなく言う。


「邪魔したか?」


 そう言いながら獣人は力任せに魔物を押し込んでいく。大柄な獣人であるが、2メートルの魔物に身体的には大幅に負けているはず。だが、怯むことは一切なく、ついには斧を上に勢いよくはじくことでその巨体を転ばせることに成功した。


 そしてすぐに魔物ののどに斧を突き刺し、息の根を止めた。


「すごい」


 腰が抜けて立てない俺にその人は俺に向けて手を差し伸ばした。


「俺の名前はケンジだ」



……



「ありがとうございます」


「いや、なんてことない」


 あの後、俺らはひとまず休憩することにした。先ほど休憩していた所はさっきの魔物に壊されてしまったため、別の手ごろな岩に3人で座っていた。


 ケンジの格好は正に男という見た目だった。筋肉隆々なガタイであり、髪は鮮やかな紅色であるため、少し見た目が怖く見えるが、先ほどのやり取りから悪い人ではないだろう。


「すごいわね!私、エマ!よろしくね」


 エマはケンジの格好に一つも物おじせず、手を突き出すとケンジもその手を握る。


「あぁ、よろしく」


 そう言うと2人は握手した。


「僕の名前はカジです。よろしくお願いします」


 俺も手を差しだすと、ケンジはしっかり握ってくれた。


「よろしくだ」


 挨拶も一通り済み、ケンジさんにステータスを直接見せてもらった。


『名前 ケンジ


種族 獣人(トラ)

レベル 14


能力値

HP 20

MP 10

力 17(+7)=24

防御 12

器用さ 5

速さ 6

魔力 4


スキル

斧術 10

力溜め 7

防御形態 4

火魔法 3

筋力上昇 7


アーツ

パワーブレイク (MP‐1)

スピンアックス (MP‐3)

パワートーン (MP‐2)

ファイアショット (MP‐1)

ガードシールド (MP‐2)


装備 

胴 森獣の皮鎧

脚 森獣の皮スボン

腰 ポーチ

足 瞬足の靴

武器 怪力のアックス&森獣の皮盾』



 俺はケンジのステータスを見ながら、気になることを聞いた。


「ケンジさんって、もしかしてプレイヤーの方ですか?」


 ケンジという名前から、ある程度プレイヤーだと思ったため聞いてみたが、やはりそうらしい。


 俺がそう言うと、少しだけケンジは目を見開いた。


「そうだ。良く分かったな。俺はプレイヤーだ。そちらもプレイヤーか?」


「はい。俺はプレイヤーですね」


「ん?プレイヤー?何それ、美味しい食べ物?」


 エマは首を傾げた。


 その様子から、俺はエマにプレイヤーか?とは聞いたことは無かったが、やはりエマはNPCなんだろう。


 先ほども少し目を見開いていたケンジであったが、エマのその様子を見た途端、先ほどよりも大きく目を見開いた。


 見つめられていたエマであったが、ケンジが見つめる意図が分からずより首を傾げていた。


 えっ、何かおかしなこと言ったのだろうか?ケンジの様子の変化に俺は疑問を浮かべる。


「ちょっといいか」


 そう言うと俺の服を引っ張り、近くの草むらに連れ込んでいく。


「えっ、えっ?」


 俺が動揺していると、ケンジの力が強く、あっという間に引き込まれた。


 置いて行かれたエマは?を浮かべながら石の上に座っていた。



……



「ど、どうしました。ケンジさん」


 草むらに連れ込まれた俺だが、すぐに服を引っ張る手を離してくれた。


「説明しずらいんだが……、まず俺はかなり古い人間なんだ」


「へ?」


 言ってる意味が分からずにいると、ケンジさんが続ける。


「俺はこの体はかなり若々しく見えるが、実年齢は50歳を超えているんだ」


「へ!?」


 先ほどは俺は疑問の声を浮かべたが、次は驚きの声を上げた。ケンジのキャラクターはどう見ても50代には見えず、普通に見たとしたら20代前半の容姿に見えた。


「いや、俺は現実じゃあ結構年喰っているんだがな……。ちょっと若者の雰囲気を久しぶりに味わいたくてな」


 少し恥ずかしそうに言うケンジだったが、話が逸れたと本題を話し出す。


「さっき言ったように、俺は昔の人だ。昔の古いゲームもたくさんしているんだが、こういうNPC?というのだったか?それなんて同じことしか喋らず、同じ道をグルグルと回るだけだった」


 そう懐かしそうに言うケンジさんにはぁ、とあいずちを打つ。


「遅く生まれた息子の頼みで一緒にこのゲームをやっているんだが、このゲームのNPCがちょっと現実的すぎてな……。古い人間だから少し合わない」


 そういうことか……。確かに今のゲーム産業は発達している。ゲーム産業なんて10年前のでも技術革命でもう出土品並みに古臭く感じる物になっている。そりゃあ、規則的な動きしかしない旧時代のゲームと比べて、この自由すぎるゲームはさぞかしびっくりするんだろう。


 よく言えば最新のゲームにまだ慣れていないだけ。悪くいえばゲームなのに本当に生きてるみたいで気持ち悪い……という感じか。 


「だから、ちょっとNPCってものがどうにも苦手でな」


 少しバツが悪そうにしたケンジさんを見て俺は言った。


「そうなんですね……。でも、すごいですね。それなら息子さんに行ってこのゲームをしないって言えばいいのに」


「レベルを上げて一緒に遊ぼうとあんなキラキラした目で言われたら断れんくてなぁ。それにこのゲーム自体は昔の自分の体を再現出来て結構新鮮で、楽しいからな」


「……良いお父さん、なんですね」


 嬉しそうに語るケンジを見て胸に何かチクリとしたもの感じたが、俺はそれに気づかないふりをした。

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