第29話 チーム加入
話を終え、草の茂みから出るとエマが手を振った。
「遅ーい!何してたの?」
そう言うとエマは俺たちに近づいてきた。
俺はちらりとケンジさんを見て、エマに手を振る。
「いや、ちょっと話してただけだよ」
「えっ、そうなの?……もしかして、ケンジも私たちと一緒にクエストやるの!?」
「え」
ワクワクした表情でエマは言う。
「私たち、前線弱いじゃない?カジはあまり敵を引き付けるとか難しいから大丈夫かなって思ってたの!でも、ケンジがいてくれたら、私もカジも敵の攻撃に集中できるからいいでしょ!」
矢継ぎ早に言うエマを見て俺はまずい……と心の中で冷や汗をかいた。
ケンジはNPCが苦手なのだ。おそらく、ケンジはこの後俺たちと別れるつもりだったのだろう。
「いや、ケンジさんは……」
俺から断っとこうと、エマに対して言おうとするとケンジさんが俺の肩に手を掛けた。
「いや、そうだよ、エマちゃん。俺も微力ながらこのチームに参加させてもらおうと思っている」
「え」
その言葉に俺は驚いた。
「やった!」
ケンジの言葉を聞きエマはより一層嬉しそうな顔をした。
嬉しそうなエマの横顔とは裏腹に俺は疑惑の顔をケンジに向けた。俺はケンジに顔を近づけ、耳打ちした。
「良かったんですか?彼女はその、NPCですよ」
「いや、良いんだ。あんな嬉しそうな子の願いを俺の言葉で拒否したらばちがあたるからな」
そう言って、ケンジさんは笑った。
俺はNPCが苦手なはずのケンジのその言葉の意味がよく分からなかったが、少し考えて理解した。
そうか、ケンジは彼女が悲しまないためにわざわざ嘘をついたんだ。……あまり、良く思っていないNPC相手に。
俺はああ、優しい人なんだなとケンジについて思った。NPC達が苦手だと思うのも彼らを一番人間らしいと感じている証拠なのかも、そう俺には感じた。
喜ぶエマを尻目に、僕はケンジに聞いた。
「そういえば、息子さんは今日は一緒ではないんですか?」
「ああ、学校らしい。カジ君、君は?」
「……ちょっと休学してマス」
俺がずっと行ってない場所だな、学校かぁ……。
こうして、俺たちはケンジを加えて3人チームで探索とクエストを行うこととなった。
……
「ケンジさん!」
「ああ」
ゴブリンの群れに俺とケンジは突っ込んでいく。そして、俺とケンジは近くにいたゴブリンをとにかく自身の獲物で切り伏せ、押しつぶしていく。
「ガァ!?」
「グッ……」
辺り一面にゴブリンたちの死体が溢れかえっていた。
「こういう、敵、を倒すのは大丈夫ですか?はぁ」
息を切らしながら言う俺に対してケンジは息を切らさず冷静に言った。
「まぁ、敵を倒すゲームとかはよくやってたからな。それに野生動物の解体でこういうのはある程度は耐性がある」
「そう、なん、ですね」
疲労がどっと押し寄せていると、俺の後ろから物音がした。後ろを振り返ると死体に紛れていたのだろうか、倒したはずの一匹のゴブリンがこん棒を振りかぶりながら俺に飛び込んでいるのが見えた。
やられる……、そう思う前にゴブリンの頭に太く、巨大な弓矢が突き刺さり、その勢いのまま横に吹き飛ばされていた。
「ふぅ……」
俺の喉から空気が漏れるような音がした。俺の後ろを見るとエマが手を上げて、サムズアップしていた。
俺もサムズアップすると、エマが近づいてくる。
「もうすぐで小鬼の森から抜けるわ」
「分かったー」
解体などを終わらせて、俺たちはしばらく歩いていると、小鬼の森を抜けることができた。……できたのだが、
「すごいな」
「ええ」
ケンジと俺は目の前の光景に唖然とした。
雲海をも貫いた崖が俺たちを見下ろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます