第16話 胸くそ悪い光景

「グワアア!」


 突進してくるクマを間一髪のところで避ける。クマが荷物を置いた場所に突撃して荷物があちこちにバラバラになってしまった。


「ふぅ、冗談きついよ」


 俺が持っているものは剣と今作ったばっかの自作アイテム。これでこの巨大なクマさんをやらねばならないようだ。


 俺は剣を構える。


「グアア!」


 クマが勢い任せに俺の方に突っ込んでくる。


「うわっ!あぶね!」


 俺は横に体を飛びこまして回避する。


「グルル」


 血のついた歯を見せながらクマは俺を威嚇する。


「よし、こっちから行くか」


 俺は立ち上がってそのまま自作したから玉を相手に向かって投げる。そして、それと同時に走る。


「グワッ?」


 クマに辛玉が当たり、丸まり草の丸まりが失われ、中からホットの身の粉末が辺りに撒き散らかされる。


「グワアア」


 赤の粉末はクマの目に入り、クマに強い痛みを与える。クマはあまりの痛みに体を地面の上でのたうち回らせている。


 俺は走りながら剣を強く握り、クマに向かって飛び込む。狙うはクマの頭。俺は全身の体重をかけてクマののたうち回る体に剣を突き刺す。


「くっ、外した!」


 クマが大きく動くせいで狙いが外れてしまった。クマは体をばたつかせて抵抗する。クマの爪が俺の体に当たる。頬にもクマの爪が掠り、血が薄く出る。


「大人しく……しろぉ!」


 剣を引き抜き、今度はクマの頭にねじ込む。すると、クマの体は急にピクンと震えだす。俺が剣を抜くとクマの体は一際強く震えて微動だにしなかった。


「おっし!」


 クマを狩ることができた安堵に俺は尻餅をつく。現実では遭遇したらまず勝てないクマを俺は自分の手で倒せた。そのことに少し俺の心は高揚した。だが、このゲームかなり鬼畜だ。ゴア表現とかがかなりえぐい。いや、今更かな?


 クマを剥ぎ取るとアイテムが手に入ると思いきや、なにやらウィンドウが現れてなにも取れなかった。ウィンドウには『剥ぎ取り失敗』と書かれていた。


「んー、解体にも失敗ってあるのね」


 落胆したが仕方ない。俺はぐちゃぐちゃになった荷物を片付ける。ゲームでこういうのは面倒だけど、リアル感があっていいのかもしれない。


「よし、行くか」


 準備を終えて俺は元来た道を辿る。今回で色々倒したのでもう今日は疲れてしまったからだ。森の中を歩いていると人の声が聞こえた。それは子供の悲鳴だった。


「これは……」


 俺は悲鳴のする方へ駆け出した。子供のような悲鳴はだんだん大きくなってくる。悲鳴が近くなったところで辺りを見渡すと、なにやら人影が見えた。


「おい、ガキ。大人のルールを教えてやるぜ」


 獣人の男と子供の後ろ姿が見えた。だが、獣人の男の下に子供の獣人がうずくまっており、男は子供を足で蹴りつけて愉快に笑っていた。


「やめっ、やめて……ください……」


 子供の獣人は体を蹲らせながら男の蹴りに耐えていた。男の口元は笑みを浮かべ、長く細い舌を出していた。


 俺は、この光景を見て思わず弓を構えて男に向かって打ち込んだ。矢は男に向かって一直線に進むが男が矢に気づいて避けてしまう。


「誰だ!?」


 男は周囲の警戒をして辺りを見回す。俺はここで男の前に姿を出した。


「いやぁ、すいません。矢があらぬ方向に飛んでっちゃいまして……」


「なんだこのクソガキ?テメェプレイヤーか?」


「……そうですよ」


  どうやらプレイヤーのようだな。


「俺はこのガキをいたぶるので忙しいんだ。とっとと失せろ」


 男の鋭い視線が俺を貫いた。この獣人の格好を見れば、腰に長剣を着けている。


 俺はこの男を睨みつけながら言う。


「一ついいですか?なぜその子供をいたぶってるですか?」


「あ?そりゃあここはゲームの世界だ。プレイヤー様はこの世界じゃなにやってもゆるされるからだ。俺はやりたいことをやってるに過ぎない。……ん?なんだお前のその顔は?どうやらお前もいたぶられてぇようだな?」


 どうやら不快感が顔に出ていたようだ。戦闘になりそうだがら、上等だ。戦ってその性根を叩き直してやる!

 

 俺は剣を抜く。


「お前の行為には虫酸が走る!」


 男も舌をチロチロと出し、目を歪めながら長剣を抜く。


「大人に逆らうんじゃねぇよクソガキがあ!」


 男の腕が長剣を振るった。

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