第17話 卑怯な手

 男は長剣を地面に叩きつける。すると、長剣が叩きつけた地面が液体のように揺れ出していく。


「『ストーンボルト』!」


 揺れていた地面からなにやら弓矢のようなものが大量に生まれる。そして、俺に向かって一斉に飛んできた。


「っ!?」


 剣で弾こうとするが、弾くたびに新しいものが飛んでくる。俺は横に転がってそれらを避ける。


「はは、弱ぇ」


 これはあいつのスキルの力だろうか?もしかしたらこれが魔法なのかもしれない。俺はさっきの魔法を使われないよう男に肉薄する。男は薄ら笑いを浮かべている。


「はあ!」


 男に肉薄して剣を振るうが、男は長剣を振るわなかった。だが、その代わりに


「よっと」


 地面でうずくまっている子供の首を掴んで俺の真ん前に掲げた。


「!」


 俺の剣を振るう手はそこでピタッと止まってしまう。


「ええ、優しいな。こんなNPCの為に」


「おっさん、そんな漫画の悪役みたいな真似して嬉しいのか?」


「ああ、嬉しいし、楽しいなあ!」


 愉悦の笑みを浮かべながら男の長剣が俺の脇腹に突き刺さる。


「ぐっ!?」


 脇腹から熱いものが込み上げてくる。微量な痛みが俺の体を駆け巡る。それと同時に視界が縁が赤く染まる。


 思ったほどは痛くない。ゲームだからだからか?視界が少し赤く染まったのはダメージ表現だろうか?


 痛みの少なさに、これ幸いと俺は剣が突き刺さったまま男を思いっきり蹴り飛ばす。


「うおっ!?」


 男は驚き、地面にゴロゴロと転がる。俺の脇腹から剣が抜ける。


「よっと」


 男が手放した子供をしっかりキャッチする。とりあえず男から逃げる為、子供を抱きながら森を走る。森は転びやすいため慎重に早く走る。


「あっ、待てクソガキ!」

 

 男の声が聞こえたが無視だ。


 男が見えなくなったところで少しペースを下げる。


「おい、大丈夫か?」


「は、はい」


 子供は見た感じネコの獣人のようだ。ネコひげが付いている。顔には大きな痣が付いていて見ているだけで痛々しい。服装はボロボロの布切れ一枚だ。


「俺の名前はカジ。君は?」


「ぼ、僕には名前がないです」


「あっ、なんか訳あり?」


「はい……」


 彼にはどうやら名前がないらしい。



「怪我、大丈夫か?」


「あっ、なんとか」


 大丈夫と言っていたが痛そうに体をさすっていた。


「あとでポーションをあげるよ」


「いいんですか?」


 俺は笑顔で言う。


「いいよ。助けたんだからね」


「ありがとうございます……」


 彼も遠慮がちであるが笑ってくれた。


 ……どこか休めるところを探そう。

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