ハンドクリームの効果

生糸 秀

ハンドクリームの効果

同僚のつけているハンドクリームがくさい。

どのくらいくさいかというと、息ができなくなるほどくさい。

なんか、くさいというよりも、息ができないという表現の方があっている

呼吸を止めにくるような匂い。

うまく例えられたことないけど、牛舎の中とか動物園とかって、匂いすごいじゃん?

あれの濃度を百倍ぐらいにした感じ。

いや、言い過ぎか、それじゃ息できんね。

まぁそれの2.3倍くらいの感じかな?

なんかくさいよりとにかく、息ができない感じ。


同僚はいつも食事の前にそれを塗る。

なんで食事前に塗るかというと、そのタイミングでいつもハンドクリームを塗ることを思い出すから、らしい。

あたまおかしい。

あんなにくさいハンドクリームを食事前に塗るだけで頭おかしいのに、

それを塗ろうと思い出すのが食事前だなんて。

とにかく僕はこの匂いが生理的に無理なんだ。


同僚は大体いつも昼食を席でとる。

となりの席の僕は、食堂や外にランチに行きたいけど、時間が無いから、コンビニで買ったおにぎりやらサンドイッチを自分の席で食べる。

だから、いつも同僚のハンドクリームのにおいを嗅ぎながら昼を食べる。

外で食べればいいのに、わざわざこの席で昼を食べる僕も、たいがい頭がおかしいのだろう。


同僚は言っていた。

このハンドクリームほんとによく効くんだよ。

いや、効くとかどうこうよりにおいがまず無理なんだわ。

そんな言葉を飲み込んで、作り笑いで返す僕。

いや、愛想笑いとかいいから。ほんとつけてみ?

無理やりクリームをつけられそうになった僕は、反射的に同僚の手を払った。

・・・。気まずい沈黙の後、同僚は笑った。

良かった。初めて正直な反応見れた。


同僚は言っていた。

あのハンドクリームは、僕の反応を引き出すためのアイテムだったと。

僕がなかなか反応を示さないから、だんだんあのにおいにも慣れてきたと。

そして、においからは気づけなかった、効果に気づいた、と。

僕は、同僚の奇行に若干引きながら、素直に笑って話せる相手ができていることに気づいた。


同僚が使っているハンドクリームの説明を見てみた。

効果ー手荒れ改善。友達出来る。恋人出来る。

胡散臭すぎて、吹き出した。

でも、ほんとによく効くと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハンドクリームの効果 生糸 秀 @uisyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る