第4話


 わたしはうさぎ。


 今、“わんちゃん”って子にほえられてるの。

 

 おうちのひとは、“わんちゃん”をしばってる知らないひととニコニコおはなししているけれど、わたしにはわかるわ。あの子が“まだ終わらないの?”って思っていること。

 

 あの知らないひともそうなのかしらね。

というよりあなた、まずわんちゃんを離してあげなさいよ。

なんでずっとしばっているの。

わんちゃんがかわいそうだわ。

 


「わんっ!わんわん!ぐるるる。わんっわんっ!わんわんわん!!」


 


 あんなにないて。

もしかして助けてほしいのかしら。

このひもをはずしてって、私にお願いしているの?

 


「きゅ?」

 


「ぐるるるるぅわんっ!!」


 


 そうよね。伝わるわけないわ。

わたしだって分からないもの。

 


「くぅぅん…」

 


 あら、すごいわね。においで心が読めたのかしら。



 「……わんっ!わんわん!!!!」

 




「すみませんねぇ~うるさくて。

ライムだめでしょ!そんなにほえちゃ!

も~普段はこんなうるさくないですけどねぇ。

あ~ 分かった! あんたうさちゃん口説いてんでしょ?

まったく~女の子には目がないんだから!」

 

「いえいえ、うちのうさぎと仲良くしてくれるのは大歓迎ですよ。ライムくんありがとね」

 

「もうね~、すみませぇ~ん。ほらもう行くよ」

 


 「ぐるるる!」


 

「――うごきなさいって!


 ――っああ!」




 ドスッ!



 

「だ、大丈夫ですか?!」


 

 ふふ。言葉づかいに似合わずハデな転びかた。

わんちゃんをしばってなんかいるからよ。


 

「ほほほ、ごめんなさい~。

ライム!あんたが動こうとしないからよ!」


 「ぐるるるる。わんっ!」


 

 ねむねm……だめだわ。

 周りがうるさいせいでろくに独唱もできない。

あなたも言われた通り帰ってあげなさいよ。わたしもそろそろおうちの中にもどりたいのよ。


 

「くぅん……」



 まただわ。本当すごい子ね。


 


「ほら早く歩くっ!

ではでは、おやすみなさぁ~い」




 ふぁ~。やっと終わったわ。

 


「くぅ~ん…」


 

 いいのよ。きっとまた会えるわ。

 待っててあげる。何年経っても。









 む、 “何年”?


 聞き覚えのある響きね。

 



 そうだわ。あのわんちゃんは何年生きてるのかしら?


 


 わたしは、わたしは――。



 









  “わたしは”?



 







 そうそう、わたしはうさぎ。


 おうちのうさぎ。

 










 名前は何だったのかしら?





 






 お顔ももう、忘れてしまったけれど。



 

 

 




 















「わんっ! わんわん! ぐるるる。わんっわんっ!わんわんわん!! 」


(うさぎのおばあちゃん!今すぐ病院に行ってください!

においで分かってしまったんです。あなたがもう長くないって。


 せめて! せめて楽に……! )


 

 




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