己の誠
雷堂side
「それじゃあ、ここに補給地点を置いて、飛龍班と共用出来るようかけあってみます。」
藤「うん、頼んだよ。それと…縁ちゃん、また敬語になってる。」
「!ご、ごめんな…ごめん。」
藤「…最近二人とも話せてないようだけど。」
「……やはり、身分が違いますから。」
此度の戦争の戦略について話すため、昼休憩の間、日だまりの照らす温かな部屋に会長と二人で座る。
ふと会長の口から”2人”と出ると、自らの意志とは関係なしに思い出が蘇ってくる。
まだ小さかった私達は、この世の構図という柵に縛られず、ただ己と相手の娯楽のためだけに仲を紡いできた。
しかし、この年齢となりこうして軍部機関に入ったからには、もうそんな戯言は通用しないと、どこかで…いや、体に流れている血が訴えかけてくるように私を引き留める。
藤「…少し、話をしよう。我が藤堂家について。」
「!」
滅多に自分の事を話さない会長が、紅茶を口に含みながら私に向き直る。
それに合わせて自然と背筋を伸ばす。
藤「我々の家は…皇族離脱の一件で臣下に下がり、華族として、この紫苑を支えてきた。それは、間違っていない。」
「…なにか、よくない噂でも?」
藤「いいや。正直を言えば、言われていることは全て本当だ。華族が財流や物流を止めてしまっていたり、神道滅却法案は私達が皇帝に進言したものということも。」
(神道滅却法案……懐かしい響きだ。)
10年前に起こった大事件とも言えるこの法案は、私の大切な幼馴染を一瞬で地の底に落としたものでもあった。
……でも、それでも何も慰めの言葉をかけられなかったのは、当事者の一部であるからか…あるいは、会長の言う通り、私も罪人だからだろうか。
藤「しかし、我ら藤堂家、そして夜堅家は、このような悪事から足を洗おうと、今新政府の樹立を計画している。」
「新政府…ですか?」
藤「うん。勿論、雷堂家にも助力を願おうということになっているよ。」
「それは……勿論会長の命とあらば、何なりと。」
つい、癖でそう言って胸に手を当てる。
私にとって、藤堂会長は絶対だ。何があっても、この方の発言が1番尊いものなのだ。
…だからこそ、新しく1人の友人としてどう接すればいいのか、たまに忘れてしまう。
どうしたってそこには、越えられない壁があるものだと錯覚してしまうから。
すると会長は、頬を膨らませた。
藤「だから、私は会長としてこの話をしている訳じゃない。君の友人である、”藤堂千里”として、この場で縁ちゃん…あなたと話しているの。」
「…!」
藤「…それに、学園では親華族派も多い。あまり大声では言えない。」
会長……藤堂千里様は、藤堂家の長女にして現当主でもある。
ご両親は既に病で亡くされ、およそ11の頃に今の席に座られたというが……彼女に対する悪い評判は滅多に聞かない。
それほどの聡明なお方と、私はこうして対等に喋ることを許されている現状に、己の甘さを今だけでも許してやりたいという願いも共に芽生えた。
「…分かったよ、家にも話しておく。」
藤「!!助かるよ!」
タメ語で話すと、わかりやすいようにパアッと笑顔になる。
こういうのを見ていると、彼女も私も、一人の少女なのだと考えさせられる。
……もし、この世界ではなく、別の……何も考慮せずに生きられる世界で共に生きることが出来たなら……。
そう、何度願ったことか。
「それで、新政府の樹立とは言っても、会長はこれから戦争に全てを肩入れしなくてはいけないし、具体的にはどうするつもりでいるの?」
藤「それが、今からあなたに話す……この国の秘密だ。」
「秘密…?」
窓がガタガタと揺れる。私の心と同期しているように、激しく、揺れる。
風が強まり、雨も降りつける。
藤「……あぁ。最初に言っておくが、これは他言厳禁だ。」
「心得ておりますがゆえ。」
一体何のことを話されるんだろう?
そう思いながら、より一層声を小さくした会長に少し近づく。
藤「…本当の皇家の家系を、皇室に戻す。」
「?っ、それはどういう…。」
藤「今の
「……それはつまり、華族の中から本当の皇家を探すと?」
藤「そう。でも少し違う。もう確証はついてる。…そして、私はその方のためにここに来たんだ。」
「なるほど……。それで私も、あなたの護衛として…。」
そう言えば、彼女は眉をへの字に変え、困ったように笑った。
藤「つい先程までは身分は関係ないと言ったのに、やはり、どうしてもこの関係は避けようのない事実ではあるの……申し訳ない。」
そんな彼女に微笑む。
確かに私達は、周りから見れば単なる主従関係にしか見えないのだろう。どうやったら対等な立場になれるというのか。私は別にそんな事を望んではいない。
ただただ、皆が大切だから。
「ううん、気にしてない。私は…役目でもあるけれど、普通に楽しいよ。玉響班。」
藤「それは良かった。」
そうしてお互い笑いあった。
これが、もう心の緩みをお互いに見せられる最後のチャンスとでも言わんばかりに。
藤「…その方については大丈夫、私がなんとか出来る。……けど、問題はもうひとり。」
「もうひとり…?」
藤「これがあなたに頼みたい、願い事よ。」
果たしてどんな任務を言い渡されるのか、少しだけ体が強ばる。
藤「…………を守って欲しい。」
「……?いきなりどうして。」
藤「彼女は皇家の血筋。すなわち、あの御方の従姉妹にあたる。」
「そんなこと、ある…わけ…。」
あまりにも面食らうような人物の名前を告げられ、思わずフラッと足元がグラつく。
私は今まで、彼女の何を見てきたのか。長らく一緒にいる時間もあり、互いに見知っていた関係なはずだ。どうしてか、言葉のつけようのない虚しさが私を支配する。
藤「…ショック?」
「…いや、別に。可能性で言えば、そんなこともあろうとは思うけれど…。」
言い渡された人名は、至って身近で、しかしながら私の記憶に墨を塗るような、そんなものだった。
本当は別に、だなんて言えるほど余裕の心持ちは、欠片も持ち合わせていない。
でも、”大丈夫”と口に出せば、本当にそう思える気がした。
藤「…これについては紅紀も知っているんだけれどもね…。彼女、最近顔色悪いし、あまりこの事で煩わせたくなくて。縁ちゃん一人に任せることになってしまってごめん。」
「とりあえず、事情は分かった。…だけど、とりあえずは戦争に集中しよう。内部情勢のことを考えていて国が滅亡したら、それこそ本末転倒だよ。」
藤「ふふ、そうね。それじゃあだいぶ話は逸れたけれど、戦略会議を再開しよう。」
「その意気だよ。」
私達に課せられた運命は重くも、きっと儚く散りゆくものでもある。
今、激動の時代を生きる我々はある意味…幸運とも言えるかもしれないが。
だから私は………いつだって最善を尽くす。
それがどんな結果になるのかは、誰にもわからないのだから。
ー現在公開可能な情報ー
・
玉響班メンバー、主に参謀を担当。頭脳明晰で、剣術にも優れている。後輩の面倒見も非常によく、学園内では玉響班の顔としても知られている存在。
話によれば、彼女は藤堂を護衛するために学園に入学したとか…。
・藤堂家【新情報】
国内で批判高まる旧皇族、所謂華族の不祥事問題について徹底的に問題を明確にし排除する考えを示している。
なお、この国を王政から新政府による民主政へと切り替えることも検討しており、そのために”真の皇家”をもう一度皇室に連れ戻す必要がある。
このような計画には華族のなかでも唯一、夜堅家しか賛同していない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます