己の運命
蔭井side
隣国リビアングラスとの開戦が告げられたあの日から、我々玉響班は今まで以上に訓練に精をだした。
橘「次は射的訓練。全員3列に並んで用意。」
玉響班の訓練指揮は全て彼女…橘に委任されている。
というのも、会長を除く玉響班の中で最も武芸成績が良いことで、橘は玉響班の中でも、そしてこの学園内でも軍事総帥として活動しているからである。
しかし、そのような名声に恥じぬ、それ以上の実力を持っている彼女の剣捌きや銃の技術はメンバー全員を唖然とさせるものだった。
(…銃の訓練が一番好きじゃない。)
剣の訓練なら佐戸ちゃんに相手してもらって適当に手を抜くことが出来るが、銃訓練ではそれが叶わない。
…それに、非常に難しいから。
「…っ。」
橘「蔭井、お前は多分左に傾きすぎなんだと思う。もう少し体幹を鍛えてみて。」
「…あぁ、すまない。」
自分の本当の気持ちが聞こえてしまいそうな気がして、嫌な汗が吹き出した。
(本当にごめん、内濱。こんなつもりじゃ、ないんだけどな…。)
銃を一丁持っているだけだと言うのに、尋常じゃない何かの重みが両手に握られてる気がして、すぐに銃を置く。
なんだかいつもの自分になれていない気がして、裏手の井戸の方に休みに行くことにした。
「っぷはぁっ………。」
井戸の水で髪が濡れても構わないくらいの勢いで顔を洗う。
(…酷い顔。)
水面に映る自分の顔が、水面の揺らぎのせいなのか、自分の心の揺れのせいなのかで歪んで見えた。
佐「三菜、こんな所にいたんだ。」
ここには俺以外誰もいないと思って油断していたからか、唐突にかけられた声に思わずたじろぐ。
相変わらず足音すら立てずに近づいてくる彼女には、未だに慣れることはない。
「……!!なんだ、佐戸ちゃんか。」
佐「驚かせちゃった?」
「ん、まぁ……。」
突然音もなく後ろから現れたのだから、心臓は本当に一瞬止まったと思う。
少し湧いて出てきた汗水を手で雑に拭って、二人でベンチに座る。
「……曇りだね、最近ずっと。」
佐「梅雨だからねえ。」
「雨、降るかな。」
佐「夜は危ないかもね。」
俺は佐戸ちゃんの方に向き直る。
「君は…いつまでこうしているつもりなんだ?」
佐「…そっちこそ。」
そこからは長い沈黙が流れた。
お互い、恐らくなにも発する言葉が思い浮かんでこなかったからだろう。
手を空にかざす。
私は一体今まで、そしてこれから、どのくらいこの手を血に染めればいいんだろうか。
「わからないなあ…俺…帰りたいよ……。」
佐「……陽には、この事言ったの?」
「言うわけ無いじゃん。…この戦争の行末がどうなるかで、俺らもどうするべきなのか決まる筈だ。」
佐「まあ、あんまり焦る必要はないんじゃない?時間はまだたっぷりあるよ。」
「そうだと…いいんだがな。」
佐「あんまり思い詰めると良くないよ、殿下。」
私は耳をピクッと反応させてしまう。
「その呼び方やめろよ…。」
佐「懐かしいね。それに…もっと昔は、3人でたまに…遊んでたよね。」
あまりにも惚けている佐戸ちゃんに、思わず呆れのため息をつく。
「昔の限度が超えてるんだよ。それに……俺だって最近だしな、思い出したのも。」
ただ、魂の輪廻は本当に起こりうるものだというのを、暁学園に来てから思い知ったのだ。
そう、君___朔間に出会ったから。
「いつか来世は……お前と同じ崖にたてる人間でありたいよ。」
そう井戸の底に言い捨て、私は席を立った。
佐「もう戻るの?」
「あぁ、そろそろ会合の時間だろ。お前も準備しないとじゃないか?資料作成。」
佐「あ”!やべっ、ありがとう!じゃまた!」
「あっおい走るなって……!…ははっ。」
お互い大変だけど、この時代の波に飲まれながら必死でもがいてここにいる意義を、己の使命を俺は見出さなくてはいけない。
まだ見つけられないとしても、いつか、いつか何かを持って帰れるように。
だから、
朔「あっ!蔭井氏発見!もー探したんだぞー!」
「ふはは、ごめんって。行こうか?」
今はお願いだから、
朔「おう!…ってかやべ!遅刻組の人と一緒にいると遅れちゃう!」
「は!?おいお前……待て!!」
俺に…笑わせていてくれ。
朔「やーい、早くおいでよー!」
「…はっ。」
笑っていてくれ。
いつか、壊れる日までの、ただの楽園として………………。
ー現在公開可能な情報ー
・橘 紅紀【新情報】
戦闘検査で好成績をあげ、現在は暁学園軍事総帥。
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