もうひとりの精鋭
藤堂side
「美花…!帰ってきたのか!」
夜「ふはっ、千里変わらないねえ。1年半ぶりかな?」
先程紗奈や紅紀に偵察任務を言い渡し、その後静香を見送ったすぐ後だったから、驚きすぎて若干後ずさりをしてしまった。
「どうだった?シャンディガフは。」
夜「いやぁ…本当に進んでるよ、この国と違ってね。あっちには”AI”というものがあるらしくてね。それはそれは凄いものだったよ。」
「へぇ……。詳しく聞かせて欲しい。」
そう言って、生徒会室のソファに両者とも腰掛ける。
そう、現在所属する玉響班は合計9名だが、近頃はずっと8名で稼働していた。それも、目の前にいる彼女が海外遠征に行っていたからだ。
彼女…
華族とは、元は皇族であったが1755年に皇族離脱をしたあとに財閥などの政治経済の上の立ち位置に座る身分となった家系のことだ。
だから、実は我々は皇族の血が流れており、深く辿れば私と美花の祖先は同じだということになる。
その中でも夜堅家は国外との貿易にも力を伸ばしており、此度の遠征は彼女の家絡みの遠征で、シャンディガフでの市場を体験してくるという意図があったそうだ。
それを聞いた時、私は秘密裏に彼女にシャンディガフの軍事調査をして来てほしいということと、雪から頼まれた、我が国に無い結核の治療法を持ち帰ってきて欲しいということの依頼を託したのだった。
夜「まず、軍事力についてだけど…」
そう言いながら美花は一枚の写真を手渡してきた。
そこに映るのは見たこともない武器の数々だった。
「…これは?」
夜「グレネード、というもので、ピンを外して投げると落ちた場所で爆発する代物だ。それとこれはライフルというもの。紫苑にある銃とはまるで精度が違う。今回このライフルを3丁だけ持ち帰ってきたから、明日玉響班に輸送する予定だ。」
「助かる。ありがとう美花。」
夜「このくらい任せてって。千里は外に出られないんだし、私が沢山持ち帰ってくるくらいなら越したことないでしょ?」
「ああ…そうだね。」
そう優しく微笑む彼女に、私もまた同じように微笑んだ。
夜「…そう言えば、あれはどうなってる?」
「…残念だが、交渉決裂だ。戦争は避けられない。」
夜「…そうか、仕方ない。」
「桜林家の当主様が殺されたんだ、これは全面戦争だろう。」
そう言うと、彼女はわかりやすくガタッと大きな物音を立ててたちあがる。
夜「なっ…!?そんな事、到底許されない!」
「落ち着いて、本題はここから。……これはもしかすると、リビアングラスだけではないかもしれない。」
夜「敵が、他にもいるっていいたいの?」
「…そう。」
明らかに不可解な点がいくつもある。
なぜなら、桜林家の当主の奥方はリビアングラス出身で、比較的リビアングラスには温厚な態度を示していた。
佐戸ちゃんは気づいていないのか分かっていないのかわからないけれど、リビアングラスが我が国の瑠璃石を手にしたいがために、外交官を殺すなど正直あり得ないのだ。
…となると、我々華族が邪魔だと思うどこかの組織が根回ししている筈。
「!!!」
そこで私は、あるひとつの機関が浮かんだ。
(いや…でもこれは…考えすぎだ。いくらなんでも、あの御方を悪者扱いするわけにはいかない。それにあの御方だって…正直借り物に過ぎない。本当は………ゆず様に……。)
考えても仕方ないことだというのは分かっている。
でも、やはりこの戦争は何かが引っかかる。
ただ紫苑のために戦う我々をもし…消したいのだとしたら、一体それは誰が望み、誰が手を引いているのか。
もし手を引いているならば……内部にいる誰かだろう。
夜「…まぁ、千里も考えすぎんなよ。体に悪い。」
「!…あ、あぁ。」
珍しく人前で考えにふけっていると、美花は私の頭に優しく手を乗せて、ポンポンと叩いた。
夜「それじゃあ、結核の治療法について明日まとめて持ってくるからここで失礼するよ。」
「うん、遠い中ご苦労だったね。」
夜「はは、ありがと。」
そう言って生徒会室を出ていった。
「はぁぁぁ……。」
大きな溜息だけがこの静かな一部屋に響き渡る。
生徒会長、玉響班のリーダー、この肩書きは重くも嬉しいものであった。
けれど、その肩書きを手に入れた事によって私に入ってきた物は冷たく、虚しいものばかりだった。
感情を消し、己の任務を全うすべきということは知っている。…でも。
(私だって…皆を失いたくないんだ。)
だから、もう少し待って。
私と、皆のために。
ー現在公開可能な情報ー
・
玉響班所属生徒会メンバー。紫苑国最大財閥夜堅家令嬢。国家戦略『対外計画戦略』により夜堅一族は一定期間、隣国シャンディガフへ貿易遠征を行っていた。
実は座学も戦闘も成績は4であったが、その強い闘志に惹かれ藤堂会長が推薦したことにより玉響班入りを果たした。
・藤堂 千里【新情報】
藤堂家は1755年の皇族離脱により皇族の身分を離れた一族のうちのひとつであり、主に軍事外交の総括を行う。その他にも夜堅家、
・華族
1755年の皇族離脱で皇室から臣下に下がり、紫苑国の重要役職に携わることとなった8つの家系のことを指す。
そのうち1つの家系のみ滅びたとされているが、その滅亡理由と具体的な一族名は明らかにされていない。
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