ダークロード散歩道
洞窟から外へと続く道のりは木材の砦で出来ていて、砦の外側は獣が来ないように対策しているのか、動物の血を木材に染み込ませていた。
木材の砦からはひどい死臭を放っていた。
トグサは周囲を見回して困難を極めた。
外の世界に明かりというモノがない。
辺り一面は真っ暗で、目を凝らしても視界が良好になる事は無かった。
「お外は暗くて、なんだか恐ろしいですわ…」
辺り一面が真っ暗なものだから流石のお転婆娘であるルイーズ=カンデラも少し気弱な態度を見せつける。
「そうだな、少しだけ変な気分だ」
気弱になっているルイーズ=カンデラを見て、彼女にもそんな一面があるのだとトグサは思いながら、なんとか会話でこの空気を打破しようとする。
が、要らぬ世話であった。
「それって…『私の傍に居てどうにかなってしまいそう』と言う意味で?」
彼女の前向きに物事を捉える癖は健在であるらしい。
多少大人しくても、彼女らしさが残っていると、なんだか安心した。
彼女がその調子ならトグサも普段通りに接する事にする。
「話の脈絡を聞いてたか?暗闇なのに人物の姿はハッキリとしている事に対して変な気分だ、と言ったんだ」
「あ、見て下さいまし、小動物ですわ!」
トグサの彼女に対する共感をルイーズ=カンデラは無視して別の物件に興味を示す。
「話の脈絡ッ」
手のひらに乗れるくらいの小さな動物だった。
リスのように似ているが頭部は細長く伸びていて狼のような顔にも見える。
眉間の辺りから小さな角が生えていて、薄い墨汁で染めた様な色をしていた。
彼女はしゃがみこんで指先を擦らせながら食べ物がある様なジェスチャーを交えながら、その小動物に対して鳥の鳴き声を真似して誘き寄せようとしている。
「恥ずかしいからやめろ…と言うか来ないだろ」
トグサはそんな原始的な行動をしているルイーズ=カンデラをたしなめる。
「そんな事ありませんわ!きっとこれで来る筈ですわ、ほら、チッチッチ」
「いいや、鳥じゃないんだから」
トグサの押し付ける様な物言いに苦言を申し出そうと顔を向ける。
「じゃあどうやって呼ぶんですの?当然分かりまして?」
「分かるワケないだろ」
出来ないと決めつけるトグサにルイーズ=カンデラは鼻で笑う。
「これは面白いですわぁ、やり方も分からないのに、わたくしのやり方が駄目とおっしゃるなんて…随分と育ちの良い教育を受けて来たんですのね?」
厭味ったらしい言葉だ。
同時に勝ち誇った様な表情を浮かべて、トグサは口を紡いだ。
腰を降ろすトグサ、両手を広げて、リスの様な小動物に手招きをすると。
「イ”ーッ」
猫が威嚇する様な声色で招き出す。
それに驚いて、近くに居るルイーズ=カンデラの手元に逃げ込んだ。
「なんでだよッ!」
「逆になんでそれで成功すると思いまして?」
トグサは、負けた様な気分を味わう。
恥を忍んで行動したのに、それで負けたとなれば、より一層恥ずかしく思えてしまった。
「しかし…なんですのこの生物、リスですの?毛並みが真っ黒ですわ…」
「あー…それはだな」
恥ずかしさを隠す為に、トグサは彼女に説明をする事にした。
ポケットに入れておいた世界観の内容が書かれた資料を取り出して確認する。
「…この世界の説明を見る限り、殆どの生物は闇色に近いらしい」
「そうなんですの?全員が真っ黒なんですのね」
「いや、自然物は元から闇だけど、生物は違う」
トグサは、資料に目を通して、より繊細にこの世界の事を知り出す。
「この世界の神は、闇そのものらしい。生物は、その闇と同化する事を目指している」
『暗黒深淵庭園』は闇を司る神が存在する世界だ。
そしてその世界の住人は、神様と一つになる事を望んで生活をしている。
闇色に近い肌をする彼ら闇の一族は、その衣装すら黒く、闇に溶け込もうとしているのは、習性としてだからに他ならない。
ルイーズ=カンデラは小動物の毛を撫でながらトグサに聞き返す。
「闇と同化?…だから、目立たない格好をしていまして?」
トグサは、死亡する前の事を、儚げながら思い出しながら話しだす。
どこかの雑誌か、それとも漫画で知ったのか、今となってはもう思い出せないが、確かにそんな話があった事をトグサは知っていた。
「宗教でもある話だ。人間の死後は神と同化する、なんていう話は、何処でも同じで、此処の世界では死後ではなく、生きている間に神様に近づこうとしている…けど、話では完全に同化した生物は存在しない」
歴史で、今まで、一度も、同化したものは居ない。
トグサの説明にルイーズ=カンデラは納得したように頷く。
「悲しい話ですわね」
「…何処がだ?」
彼女の感想に、トグサは意外そうに答えた。
「誰も成し遂げない偉業、神と言う存在が、存在するのであれば…及第点くらい差し上げても良いと思いませんこと?私が神様であれば、頑張った人には報われて欲しいと思いますわ…けど、どれ程頑張っても、報われないと言うのは、悲しい話、でしょう?」
それは優しい思考でなければまず思い至らない。
人が努力を重ねる事は当然だが、それで報われない事など、あってはならない。
全員が努力をして、研鑽して、そうして至った領域は、例え周囲が認めなくても、何よりも美しいものではないのだろうか、と。
「…そうかな」
トグサの考えは違う。
彼女の言葉の中であれば、トグサの考えとルイーズ=カンデラの考えは相反する。
「違いますの?」
「絶対が存在する。覆らないからこそ、尊いんじゃないのか?」
届かない領域、絶対的な存在、崇高して、手を伸ばしても届かないからこそ、偶像として心に残る。
妥協も油断も許されない、真に揺るがない一本の線だからこそ、美しいものだと思う。
「絶対は美しい事であれば、そうでしょうけど…私からしてみれば、この世界の神様は、きっと…意地悪な人ですわ」
その台詞だけには、トグサは同意した。
「…どこの神様でも同じ事だろ」
神と呼ばれるものが存在するとすれば、よほど趣味が悪いか、性格が歪んでいる。
…異世界が存在する以上、神と呼ばれる上位種は存在するが、トグサは、神を語る程に知り尽くしていない。
それ以前に、彼はまだ、この目で神に会った事ないのだから。
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