契約内容の確認

黒色のローブを顔面に巻く腰の折れた老人は枯れた声色で喋る。

その老人がトグサらを呼び寄せた依頼主であった。

老人は己が呼び寄せた存在であるかトグサに問うた。


「貴殿らが、異世界の到来者で、間違いない、のだな?」


老人の言い方にトグサは訂正を加える。


「複数人ではないです。俺が帰還者で、こちらは道具の様なものです」


ルイーズ=カンデラはあくまでもトグサの所持品としてその世界に立っていた。

だから厳密に言えば機関車はトグサ一人だけとなる。

トグサの冷たい言い方に対してルイーズ=カンデラはポジティブシンキングな思考回路で彼の言葉を前向きに捉える。


「それって『お前は俺のものだ』と言う婚約の台詞と受け取っても良いんですの?」


両手を頬に添えて体をくねらせた。

嬉しいことこの上ないらしい。

トグサは勘違いしないようにと訂正文を加える。


「…どちらかと言えば『お前は俺に利用される存在なんだよ』ってニュアンスじゃないか?」


しかしトグサの台詞は、まるで自分の所有物を強調しているような意味合いにも聞こえた。

強引でも自分を必要とされているような気持ちになるのでルイーズ=カンデラは悪い気はしなかった。


「まあっ!傲慢ですわ!俺様キャラ!」


誰かに独占されることが好きであるみたいだ。


「それよりも、仕事の内容を、確認してくれ」


「はい、失礼ですが、貴方が依頼主で間違いないですか?」


トグサはもはや自分の世界に入り込んだルイーズ=カンデラのことなど放っておいて仕事の話へと持ち込んで行く。


「である。私は、この闇の一族を束ねる長である」


「それにしても凄いですわね、私以外真っ黒ですわぁ」


周囲を探索するルイーズ=カンデラ。


「おい、あんまりうろちょろするなよ…それで、この迷光とは何ですか?」


迷光。

トグサの肉体は翻訳機能を持ち合わせているが、しかしその内容までは理解できない。

例えば牛乳という言葉を翻訳したところでトグサがそれは牛の乳から絞り出される液体であることは理解出来るが、異世界人にとっては牛乳という文字は認識できればそれが何であるかまでは分からない。

異世界の人間が使う固有名称は異世界の人間に聞かなければ分からない事が多かった。


「ご機嫌よう皆様、わたくし、ルイーズ=カンデラと申しますわ。なんでそんなに暗い所に居ますの?怖くてよ」


暗闇に潜む闇の一族に挨拶をするお嬢様を尻目に闇の一族の長の言葉を待つが。


「分からぬ」


「は?」


まるで馬鹿にされているような気分だった。

その生物の特徴、形状が分かれば討伐の仕事に役立つのに、まるっきり分からなければ一体どれを討伐すればいいのかすらわからない。

まさか生物を手当たり次第殺せとでもいうのだろうか。


「しかし、光っておる。光は、我らにとっては邪魔な存在。光は我ら一族を襲う。帰還者ら、そなたらは、光を討伐して欲しい」


トグサは光るものに対する装備はあるかどうか頭の中を探る。


「…分からない、か。情報が不十分ですな。他に特徴は?」


「光っておる、見れば分かる、それしか、分からぬ」


特徴が『見れば分かる』という事で一応は納得をする。

物珍しいのか洞窟の中を歩いて回るルイーズ=カンデラ。

暗闇であるのに自分だけが背景の中に浮き彫りになっているのだ珍しくてついつい動いてしまう。

暗闇だからかつまづいて転んでしまうルイーズ=カンデラ。


「痛ったいですわッ!」


膝を擦りむいたのか涙目になりながら大きな声を荒げる。


「ちょっと使用人はいませんのっ!?暗すぎますわ!!明かりを下さる!?」


いつまでもお姫様気分が抜けないのか使用人を呼ぼうとする。


「ルイーズ!!仕事の内容が頭に入らないだろ!!こっちに来い!!」


あまりにもうるさいので内容に集中できないトグサはルイーズ=カンデラに静かにするように叫んだ。


「まあ!それって『私の事を考え過ぎて仕事にならない』と意味合いで宜しくて?」


もはやどのような言葉でも好意的に捉えてしまうのだろう。


「ある種ではお前に夢中だよ…すいません、それで特徴は?」


トグサは否定をすることを諦めた。


「ない…奴らの光、眩く、我らの目を焼く。しかし、光を見れば、おのずと、それが討伐すべき、光である事は、理解出来るであろう」


その汚れを走る姿を見るにその光はとにかく厄介なものであることが分かった。


「そうですか…最後に、報酬の確認をしたいのですが」


トグサが報酬を確認する為に闇の一族の長に品物を要求した。


「良かろう、おい、持ってこい」


闇の一族に報酬を持って来る様に告げる。


「なんですの?何を持ってきてくださいますの?ご当地料理ですの?」


「少し黙っててくれ」


「これが、闇衣、貴殿らの、報酬だ」


闇の一族の長は、一握りの玉を取り出した。

それは粘土のように変形している。

黒色の物質は、黒い煙を出しており、まるで黒く染めたドライアイスの様だった。


「黒色の…珠?」


「これは、我ら、一族が束ねる最強の戦闘衣装、闇は、全てを同化し、姿を晦ます、そうでなくとも、闇はあらゆる攻撃を、吸収し、無力化させる。姿も変貌が可能、防御と言う点では、まず、鉄壁に等しい」


闇の一族が作り上げた至高の逸品であるらしい。

現物があることを確認したトグサは頷く。


「成程…正体不明の討伐、その内容に釣り合う代物と見ました、では…改めて契約の内容を確認します」


トグサの傍に近づき、闇衣の報酬に手を伸ばすルイーズ=カンデラ。


「これそんなに凄いんですの?ちょっと触らせて下さいませ」


「少しだけ、だぞ」


闇の一族の長が許可する。

ルイーズ=カンデラが手を伸ばして報酬を気に触れようとしていたが。


「止めろ、討伐し終わってからにしろ」


トグサは犬をしつけるように人差し指と中指を立てて掌を叩いた。


「…さて、仕事の内容は『迷光の討伐』、報酬は『闇衣』、私が迷光を討伐する事で、報酬である『闇衣』を頂戴します…宜しいですね?」


「うむ、それで、よい…早く、あれを、倒してくれ、頼む…」


闇の一族の長は代表として頭を下げる。

すると、それに合わせる様に、闇の一族たちが一斉に頭を下げた。

トグサはせいぜい二人か三人ほど洞窟を中に飛んでいると思ったがその動作で吸う住人の一族が潜んでいる事を知った。


「では、了解したと言う事で、仕事に移ります、まずは、周囲の散策から始めます」


とりあえずは討伐する相手を確認しない事には始まらない。

トグサは外に出てその光る物体を探る事にした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る