第3話 運命の分かれ道
~2週間後~
「お母さん、ちょっと出かけてくる」
「どこ行くの?」
「散歩ー」
「はーい。気をつけて行ってくるのよ?」
「わかってるー」
休日にちょっとランニングでもしようと思い外へ出る。コースは適当。
なんだかんだ体を動かしている時が一番楽しいと感じる。
他に何も考えなくてよくなるから。
「よーい、スタート」
いつもの癖で、走り始めた。
特に何も考えずに走っていた結果、たどり着いた先は高校の近くにある公園。
「(思ったより大きく回っちゃった......)」
学校の反対側に走り出し、ぐるっと回って家にたどり着けるようにしたつもりが、気づくと学校近くにいた。
「(少し休憩したら帰ろ)」
すぐ近くにある公園まで行き、自販機で水を買ってベンチに座る。
「あれ?なんだろ」
公園の広場に人溜りができていた。 人というのは、こういうのがあると気になってしまうらしい。
『俺は、君が......』
『私はね......』
『今から......』
「はい一旦ストップ!もう一回ねー!そこ、もうちょっと大袈裟な感情表現でも良いかも!」
「......」
今回だけは、自分の軽率な行動を呪った。
「お、かかおー!」
さっさと帰ろうと身を
「よっ」
「......練習、頑張ってるんだね」
「そりゃ来月本番だからな」
「そう。いい舞台になるよう頑張って。それじゃ」
「いやいやいや!だからちょっと待てって!」
「何よ。どうせ舞台立てって言いたいんでしょ?」
「残念でした。今回は違いますぅ」
その馬鹿にしたかのような言い方に少しイラっとしてしまい軽く蹴りを入れる。
「いってぇな!」
「いいから、本題あるなら早く言って」
「今のシーン、どうだった?役者の子たちに何かアドバイスをしてくれないか?」
「は?」
まさかの斜め上の予想の物言いに、素っ頓狂な声を出してしまった。
「ほら、別に舞台に立って演技しろって言ってるわけじゃないんだから、それくらい良いだろ?」
「いやだから、そんなのみんな聞き入れないでしょ。そもそも嫌われてるんだから」
「大丈夫だ。ここにいるやつは皆お前と面識ほぼないから」
「いや、そういう問題じゃ......」
横目でチラッと演じてた人達を見てみると、確かに誰も知らない人ばかり。なんなら先輩も混じってる気がする。
「特にヒロイン役のこの子、何かあればガンガン言ってあげてほしい」
「是非!」
キラッキラという擬音がつきそうな目でこっちを見てくる。
「な、何で私なの?監督とかいるんじゃないの?」
「監督は一応俺がやってるけど、俺よりお前の方が適任だろ?俺の得意分野って脚本作りの方で演技指導は素人なんだよ。こう、なんか違うとか、ざっくりしたことは言えるけど、それだけなんだよな。かかおはアドバイスとかその辺経験あるだろ?」
「確かにあるけど……」
「んじゃ頼む!」
「で、でも、私なんかには教わりたくないでしょ」
「そう言われると思って予め一通り聞いておいたが、少なくともここにいるメンバーは嫌どころか教えて欲しいって前向きだった。だからこそわざわざ休日に集まってもらったんだよ。お前なら土日は走り込みするだろうと思ってな」
と、私の行動を見てたかのように言ってくる。
「いや、でも、私演劇部じゃないし......」
「アドバイスするだけに、そんなもん関係ないだろ。ほら」
背中を押され、みんなの前に立つ。 何故か向けられる期待の眼差しに思わず後退りしてしまう。が、レンに止められる。
根負けして、私が素直に感じたことを伝えることにした。
「(まあ、アドバイス、だけだし......)」
きっと、これが私にとっての分かれ道だった。
「......じゃあ、まず君。ヒロイン役の子に見惚れすぎかな。この子が可愛いのはわかるけど。だから演技が少 し疎かになってた」
「うぐっ !?」
「実際この子可愛いから気持ちわからなくもない。けど、それだと『登場人物』じゃなくて、『貴方自身』になってるから、もう少し演じるってことを意識したほうがいいかな」
「はい......」
「それから、次は貴女」
「は、はいっ!」
「脚本に忠実なのはいいけれど、忠実にやろうとしすぎて、動きがものすごく固いかな。リラックスするっていうのと、自然に話せるようにすればもっと良くなると思う」
「わっ、わかり、ましたっ!」
「次は...その後の相手してた君。演じることに夢中で周りのことが見れてない感じかな。時々あの子が困っ てたように見えたよ。でも演技自体は思い切りもあってすごく良かった。だから、次は相手の子もちゃんと 見てあげて」
「うっす!」
大体 6 人目が終えたあたりだろうか。最後の1人になった。
「最後は......」
おそらく主役のうちの 1 人であろうヒロイン役の子を見る。
「......正直、貴女に関しては私から言うことは無いかな。感情表現も巧いし、演技も自然体で。周りのことも ちゃんと見てて時折アドリブらしき動作もあった。それに......とても楽しんでるように見えたから」
そこまで言って、改めて前の自分のことを思い出し、自己嫌悪してしまう。
「あ、あの......」
「っ、ごめん。少し考え事しちゃった。うん、だから......そう、だね。自分が演じる役を、その人物についてもっと深 く考えてみると、いいんじゃないかな。 シナリオには無いけどこういう時だとどう動くのか、どう言ったものが好きそうなのか、普段どんな感じな のか、とかね」
「はいっ!」
おそらくこの子が、例の噂の子だろう。
百聞は一見にしかず、と良くいうが少し演技を見てよくわかる。この子はすごい。噂に違わぬ演技だった。
レンによると、この演技なのに始めたのは一年前ほどだという。
だけどそんな情報なんてなくても、この子は俗にいう天才なんだと一目で分かった。
だけど天才というのは努力をするからこそ天才と成り得るということも、私はよく知っていた。
だからそこに嫉妬心は抱かなかった。
この子ならきっと、レンと一緒に、盛り上げてやっていけると思う。
お似合い.........で......
そう考えていたのに、なぜか胸がチクリと痛んだ。
ソレの表現が、私は分からなかった。
「こんなところ、かな。ぱっと見だとこんな感じ」
いつのまにか野次馬はいなくなっていて、ここにいるのは演劇部のみんなだけになっていた。 私がアドバイスをした人たちはこぞって黙ってしまっている。
「......ごめん。やっぱり、迷惑......だよね。それじゃ、練習頑張っ......」
「すげぇ!」
「ありがとうございます!」
突然大きな声で言われ、少しビクッとしてしまった。その瞬間、全員が詰め寄ってくる。
「え?え?」
「いままで、違うのは分かってたんですけど何が違うのかよく分からなくて!こう、腑に落ちたと言いますか!」
「少しの演技だけでこれだけわかるなんてすごいです!」
「これからもアドバイザーしてくれませんか!」
「ちょ、えっと、あの......」
頭が混乱して、思わずレンの方を、藁にも縋る思いでみると、悪戯が成功したかのような笑みを返してきた。
よし、あいつあとで殴る。
「い、いやいや。だからみんな言ってるでしょ?私演劇部じゃ無いんだから。それに......ほら、ほかの先輩たちにも、聞けば......」
「いやぁ、それが......みなさん、受験勉強とかで忙しくて、顔を出せないって......」
「そ、それなら貴女が教えてあげれば......」
「いやぁ、それが私が教えてもみんなよく分からないらしくて......」
「かかお。この子バリバリの感覚派だからその辺向いてないぞ」
ヒロイン役の子が申し訳なさそうに言い、レンが補足して言い、ああと納得する。
「どうだ?かかお。こんなに言われてるのに断るのか?」
「う、そ、それは......」
当たり前、と言おうとしたけど、一瞬横を見ると皆の瞳がキラッキラしているように見えた。
「うぅ、かかおさんはやっぱり......私たちが嫌いなのですね......うぅ」
「いや、違っ」
ヒロイン役の子が、涙ぐみながらそう言ってくる。 いや演技なのは分かってるけど、これ断れない雰囲気を作られた。
そんな雰囲気の中突っぱねることもできず、数分の葛藤の後、苦し紛れに答えを出した。
「......はぁ、わかった。でも土日だけ。それもレンが選んだメンバーのみ。それでいいなら......良いよ」
そういうと皆が喜んでいた。
おそらく、私も心のどこかで、まんざらでも無いと、そう思っていたのだろう。
今更何を。私にそんな資格なんてないのに。
「あーレンヤ君!」
そこに聞こえてきたのは、以前聞いた声。いつぞやの帰り道に私に色々と言ってきた人。
「練習してるなんて偉いですね!呼んでくれたら私も行ったのに......って、なんでこの女がいるんですか?」
「たまたまだよ。それに俺が無理を言って止めたんだ。お前に、蘭には関係ないだろ?」
「関係無いわけないじゃないですか。レンヤ君、コイツが前にどれだけの......」
「知ってる上でだ。それに聞けば聞くほどしょーもない」
「は......?」
「......」
レンは私とその女......蘭を互いに見て、両方に言うかのように告げる。
「お前だけじゃない。かかおも、あの時の演劇部の奴らも、全員が、だ。何をしたいのかは知らないけど、 話し合いもせず、あのような事をけしかけるお前も、それに従った演劇部のやつらも、......あんまり言いたく ねぇけど、自分一人でなんとかなると思っていたかかおも、全部が、だ。
俺が言えるのはそれだけだ。 んで、かかおが今いる理由?アドバイスを求めたからだけど?何か文句ある?」
「いや、それでも......なんでよりによってこの女に。やっぱりレンヤ君も、この女が......」
「いや?その理由にかかおだからだとか、その辺一切関係無い。俺の知ってる舞台経験者で一番指導がうまいと思ったらから頼んだだけだ。曲がりなりにも今回『脚本兼監督』って立場だ。舞台をより良いものにするために使えるものは全部使う。それのどこが悪い?」
レンの言葉に蘭は何も言い返せなくなっていた。
「それに、お前次の舞台に出ないだろ?毎日毎日、用もないのにずっと稽古場に来て、求めてもないのにアドバイスとか指導とかして。邪魔してるだけって良い加減分かれ。皆優しいから言ってないだけかもしれないけど、ほんっとに今のお前邪魔なんだよ。こちとら少しでも舞台をよくしようと奔走してるんだ。さっさと帰れ」
レンは有無を言わさずに蘭を追い返していた。
その帰り際になぜか睨まれた。
「あ、あの、レン」
「何?」
「......ごめん」
「何が?俺は何もしてないぞ」
「それでも、ごめん。あと、それと......
ありがと」
「え?なんて言った?」
「なんでもない。それじゃ、また......アドバイスに関しては、うん、前向きに考えるよ。また明日、学校で」
「おう。楽しみにしてる」
「......じゃあ、私は帰るから。頑張ってね。みんなも......練習、頑張ってください。良い舞台になることを、 願ってます」
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