裏話3
案の定だ。
今日も今日とて、俺は存在を無視されボッチで合同授業を受けることになった。
まぁ、いつもの事なので準備は万全である。
それはそうと、先日まで見なかった顔が、その日はあった。
森の入口にて、引率の教師が前回と同じ説明をする。
それを右から左に聞き流しつつ、俺はその初顔さんをそれとなく見た。
他クラスの生徒だ。
そして、とても特徴的であり個性的な髪型と格好をしていた。
モヒカンなのだ。
荒野でバイクを走らせてイキってそうなモヒカン生徒がいるのだ。
耳、鼻、口にピアスをしている。
角は無い。人に近い姿をしている。
とても痛そうだ。
鼻ピアスは、家畜を思い出してしまっていけない。
…………農業高校で世話をしていた乳牛のヨシエは元気かな。
彼に注目しているのは、俺だけでは無かった。
ヒソヒソ、コソコソと他の生徒達が彼について噂しあっている。
それによると、どうやら見た目通りの、まぁ年代的には些か古い姿ではあるが、彼は不良と呼ばれる人種のようだ。
ちなみに種族は魔族である。
王族の血を引いていて、あんな見た目だが一応次期魔王候補の一人らしい。
偏見かもしれないが、ピッタリだなと思ってしまった。
見た目の怖さとかは、うん、魔王なら中々迫力があると思う。
そんなモヒカンの名前は、マレブランケ。略称はブランらしい。
なんでも彼は入学早々にあの格好で登校したのを皮切りに、あちこちで喧嘩など暴力行為が絶えなかったらしい。
夏休み前には喫煙しているところを発見され、今日まで謹慎処分を受けていたのだという。
俺とはまた違った意味で腫れ物扱いされている生徒だった。
俺よりまだマシなのは、向こうの担任がそれなりに気にかけている事だろうか。
羨ましい限りだ。
そうこうしているうちに担任による注意事項などの説明が終わる。
他の生徒達には魔法袋が支給される。
この中に倒した獲物を入れて、授業終了と同時に教師へ提出し採点される。
まぁ、俺には配られないから今のところ俺はこの授業では赤点だ。
でも、俺はこれを好機だと考えた。
小遣い稼ぎのために利用できる、と。
そう、なんでも入る魔法袋は、なにもこの魔法学校でだけ支給されるものじゃない。
農業高校でも支給されるのだ。
作物を入れたり、狩猟授業での戦利品を入れたりするために。
そして、それを俺はこの学校に持ってきていた。
誰も彼もが、俺には袋が無いと思っている。
だからこそ、戦利品をちょろまかすことが出来ていた。
戦利品とはすなわち、倒した魔物である。
これを農業高校で受けていた狩猟授業の時のように素材などに解体、処理をしてこっそり売買しているのである。
いやぁ、儲かる儲かる。
とくに、農業高校の悪友達にはいい値段で売れた。
道具も自作するので、その材料になるのだ。
携帯端末万々歳である。
なので今日も一人で悠々自適に素材狩りと、夕飯の食材を狩ろうと考えていたのだ。
モヒカン・マレブランケ少年が声をかけてくるまでは。
「おい、お前」
不遜な態度でモヒカンに話しかけられた。
「はい?」
「お前のこと知ってるぞ。
入試の時に暴れた奴だろ」
「あ、はぁ、どうも」
「一人なんだろ?
特別に俺の荷物持ちさせてやるよ」
「え、いや、結構です」
即答する俺に、しかしモヒカンは引かない。
「落ちこぼれ同士、仲良くしようぜ?
ま、俺は将来的には魔王になるけどな。
未来の魔王の荷物持ち、そんな名誉なこと中々できないぞ?」
あ、痛い人だこの人。
それはそうと、くんくん、うーん???
タバコねえ?
誤解されやすい人なのかな??
格好が格好だし。
ま、いいや。
「名誉も栄誉もいらないので。
それに、これ見て分かりません?」
俺は首に巻かれたチョーカーを自分の指で差す。
「生憎、魔法を制限されてるので足でまといになっちゃうんですよ。
無理やりペアを作らなくても、三人組とかでも大丈夫そうですよ?
他の人と組んで」
俺の説明は途中までで終わった。
何故ならモヒカンが、チョーカーのことを瞬時に理解したのか、つまらなそうな顔をしてその場を去って行ったからだ。
わかりやすい。
清々しいまでにわかりやすい。
つまらなそうな表情の中には、壊れた道具を見るような色が含まれていた。
荷物持ちでも足でまといになって、その荷物を紛失するような事になっては堪らないのだろう。
ましてや、今の俺は魔法袋に道具を全て片付けてあるから、他の生徒と違ってほぼ手ぶらに近い。
モヒカンは結局、担任の紹介で別のペアの中に加えてもらったようだった。
おっと、そうだ。
今のうちに飲んでおこ。魔法が使えないなら、実家にいた時の方法を取るしかないのだ。
俺は、念の為に周囲の生徒達に注意しつつ、そのカプセルをポケットから取り出して服用した。
一時的に身体能力を上げてくれるカプセルだ。
ちゃんと合法のやつである。
農業高校では、学食や購買で買えたが今は悪友達に頼むか、ネット通販で定期的に送ってもらっていた。
「さて、と」
気づけばほとんどの生徒達の姿が森の中へ消えていた。
俺ものんびりと森へ足を踏み入れた。
と、携帯端末が震えた。
確認すると、悪友達からの有難い情報だった。
なんでも例年より木の実が不作で、人里の方へ本来なら出てこない害獣や魔物が姿を現しているらしい。
こちらでの授業の事を伝えてあったため、メッセージには、もしもそんなレアな魔物を狩ったら連絡と素材を寄越せという内容が書かれていた。
なら武器、もとい、道具は用意しておこう。
いつ戦闘になってもいいように。
俺はすぐに判断して、魔法袋から鉈を取り出した。
特別製の鉈だ。
ドラゴンの硬い鱗だろうとサクサク切り刻める代物だ。
婆ちゃんが若い頃使っていたやつだ。
ま、今回遭遇するとは限らないけど、無いよりは良いだろう。
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