裏話4

 他の生徒と鉢合わせすることもなく、俺は小遣い稼ぎのための素材集めや狩りに勤しんでいた。

 なにせ、広大といえば広大な森だ。

 対人戦闘訓練でもないので鉢合わせはそうそう無いだろう。


 「お、また発見♪ 今日はキノコ鍋と炒め物にしよう」


 鉢合わせといえば、不思議なほど魔物とも遭遇していない。

 改めて周囲の気配を探る。

 鳥や獣の声、気配がない。

 ここに生息しているはずの、魔物の気配も無い。

 おっとー、これは来るかな?

 来ちゃうかな?

 来てくれたら嬉しいなぁ。

 せっかく服用したカプセルを無駄にせずに済む。

 なんてワクワクしながら俺はキノコ狩りを続けていた。

 キノコだけじゃなくて薬にもなる毒草集めも忘れない。

 

 その時だった。

 俺の頭上、木々の上をどデカい影が鳴き声と共に通り過ぎた。


 ドラゴンだ!

 家畜じゃない、ハナコとも違う、野生のドラゴンだ。

 大きさからして、子供と大人の間の大きさといったところか。


 「肉だァァァ!!!!」


 素材として売るだけじゃなくて、久々にステーキが食える!!!!

 先週と先々週はほとんど素材として売っちゃったからなぁ。

 俺は、近くの木に飛び上がって、ドラゴンが向かった先を確認する。

 ありゃ、残念。

 どうやら、他の生徒達が遭遇し交戦しているようだった。

 今回は諦めるかな、終わるまで待とう。

 他人の獲物をかっ攫うのはまずい。

 トラブルの元だ。

 …………。

 いや、まずいな。

 全然ダメージ与えられてない。

 魔法も武器も効いていないように見える。

 何でだ?

 それ相応の武器や魔法を持っているはずだろ。


 「…………教師達は何してるんだよ!?」


 俺は、待機しているであろう教師達の気配を探る。

 あ、ダメだ。全滅してる。

 教師達の気配が完全に消えていた。

 そしてそれを決定づけるかのように、教師達が待機していた場所から黒煙が上がっている。


 「マジかよっ」


 悪友達はここにはいない。だから、少し骨をおる事になる。

 それはいい。別にいい。多少骨を折るのは慣れてる。

 狩りとはそういうものだ。

 でも、下手に手を出すと被害が増えるかもしれない。

 さて、どうするか。

 いや、俺が手を出さなくてもこのままじゃ、すぐに生徒達も全滅する未来しかないだろう。

 生き残ったのが俺だけだとそれはそれで妙なことになりそうだし。


 「仕方ない」


 俺は狙いをドラゴンに定める。

 そして、挑発目的で殺気を放つ。

 あのドラゴンは若い。

 子供よりは大人に近い個体だが、それでもまだ好奇心とプライドの方が勝るはずだ。

 若いからこそ、この殺気を無視できないはずだ。

 

 よし、乗った!!


 ドラゴンが俺の挑発に乗ってこちらへ突っ込んでくる。

 一直線に。

 俺は、木の上に立ち、鉈を構える。

 そして、狙いを定め一閃させた。

 ドラゴンの首が堕ちる。

 体も力を失って落下した。

 ホッと息をついたのも束の間だった。

 今のドラゴンを解体処理する間もなく、別のドラゴンが現れたのだ。

 さっきのドラゴンよりも大きい。

 親かもしれない。

 もしくは、このドラゴンが属していた群れのリーダーか。

 どちらにせよ、あんなのに生徒達が襲われたらひとたまりもない。

 新しく現れたドラゴンは、咆哮をあげるとまた別の場所へ突っ込んでいく。

 俺は魔法袋から、これまた実家から持ち出してきたドラゴン用の毒餌を取り出し、鉈を握りなおすと走り出した。

 

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