裏話2

 予想は大当たりした。

 教室や授業での直接的なイジメは無かった。

 あの日、実技試験の時に暴れた俺は、所謂『怖い人』認定されているようで、新しいクラスメイト達から距離を置かれ、無視をされていた。

 むしろ直接的だったのは、大人達だ。

 まず、本当は入る予定だった寮。

 そこの管理を任されている寮母というか、管理人から出ていけと言われ、1歩も寮に入ることなく俺は名門中の名門校である【王立聖魔学園】の敷地内でホームレスとなった。

 朝食と夕食も寮で用意されるのだが、それが無しになった。

 昼食は学食を利用するように言われていたが、これも水しか出てこないという徹底ぶりだ。

 注文しても、なぜか俺の注文だけ売り切れになるのだ。

 仕方ないので水だけもらって終わった。


 転入前の特別勉強合宿からこれは続いていた。


 幸いだったのは、この広すぎる学園の敷地には手入れされていない森とか林とか、そういう場所があったことだ。

 そこには、所謂食べられる野草なんが自生していた。

 家からあれこれ理由をつけて送ってもらった鍋でそれを煮て食べた。

 水は学園の水道から得た。

 米やら味噌やらも生き抜くために、嘘をついて実家から手に入れた。

 本当のことを言ったところで、この学園に居たくない理由を捏造してると思われるのがわかっていたからだ。

 そんな風に思われるのは心外だし、これ以上【血の繋がりのある他人家族】に失望も絶望もしたくなかったのだ。


 「それにしても、ここ、元畑かなんかだったのか?」


 今寝泊まりしている小屋。

 その外には荒れ放題の土地が広がっている。

 一応ここも学園の敷地内である。

 小屋の中には桑やらスコップやらの園芸道具が置かれていた。

 今日の夕食の味噌雑炊を煮込みながら、俺はその光景を眺めた。

 ボウボウに生えた雑草。

 それを取り除いて耕せば畑が作れるかもしれない。


 俺は、嘘に嘘を重ねることにした。


 仕方ない。だって食わないと人は死ぬのだから。

 俺は、近所に住んでる龍神族の爺さんにだけは事情を話して、農機具を実家から送ってもらうことに成功した。

 そして、その週の休日に早速作業へ取り掛かった。

 まずは、俺のじいさんと親父の生き血を啜った電動草刈り鎌。

 爺さんと親父は、これで足を切っている。

 切断になっていないのは不幸中の幸いだった。

 先端に回転する刃がついていて、立ったまま効率的に草刈りできるのだ。


 電気は、これまた実家から送ってもらった延長コードを使い、学園から拝借する。

 これくらい許されるはずだ。

 うぃぃぃぃぃんという、電動草刈り鎌の甲高い音が鳴り響く。

 一歩歩く度に俺は草刈り鎌を左右にゆっくり振るように動かす。


 草がなぎ倒され、あっという間に終わった。

 ここからはなぎ倒された雑草を回収して、もう少し体裁を整え、農業高校に入学すると同時に取った大特免許故に堂々と公道でも乗り回すことが可能となった、トラクターの登場である。

 これで耕して整地するのだ。

 いったいどれだけの野菜を作るつもりなのかと言われれば、自分が食う分はもちろん、小遣い稼ぎができる程度の量は作るつもりでいた。

 種と苗は、婆ちゃんにわけてもらった。


 これが良かったのかもしれない。

 この農作業は、実にいいストレス発散になった。

 作物は冬野菜ばかりなので、収穫はまだまだ先だが、この冬は鍋料理の具材に困らなそうだ。


 しかし、魔法が制限されているのも困りものだ。

 俺は首にはめられたチョーカーに触れる。

 煩わしいことこの上ない、首輪である。


 入試の時のアレで、俺は入学と同時にこの首輪を嵌められたのだ。

 魔法で暴力を振るわないように。

 魔力を封じられているのだ。


 まぁ、小さい炎くらいは出せるから良かった。

 マッチやライターの代わりになるから困らないと言えば困らない。

 カセットコンロもあるし。

 火力が小さいのがちょっとあれだけど。


 「あー、明日は合同授業か」


 雑炊をモサモサズルズル食べながら、明日の時間割を確認する。

 あー、憂鬱だ。

 合同授業はペアを作って受ける授業である。

 体育と同じ実技で、これは魔法を使う授業だ。

 ちなみに俺はボッチで受けている。

 誰も組みたがらないし、無視されているから、俺はいないものとされているからだ。

 単位もらえるのか、とても不安だ。


 この授業では学園の外へ出られる。

 魔物蔓延る森へ出かけるのだ。

 そこで、魔物相手に攻撃魔法を使った戦闘訓練をする。

 なんで色んな国のVIPの子供にそんな授業してんだよ、危ないだろ。

 農業高校の狩猟授業じゃあるまいし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る