裏話

裏話1

 やっちまった。

 目の前には、顔面がボコボコになったボンボン。

 まぁ、俺がやったのだが。

 そして、周囲にはその光景を見て息を飲んでいる、名門校の在校生&教師達。

 あー、これ約束の推薦状取り消しかも。

 どうすっかなぁ。

 バイトしながら通信制高校に進路変更かな、これは。

 なんて考えていると、暴れた俺を取り押さえに教師や在校生、そして既にこの名門校に入学が決まっている新入生がやってきた。


 受けたくもない入試を受けて。

 さんざん身分やらのことでボンボン達にバカにされ。

 そのことを怒ったらこれか。

 

 ムカつくから、もう二、三人殴っておこう。

 そうして俺は入試の実技試験会場である体育館から追い出された。

 追い出された後は、別室で待機。

 で、他の受験生とは時間をずらして学校からも追い出された。


 そもそもの始まりは何時だったのかと言われれば、アレだ。

 中2の時に受けた健康診断だ。

 そこで俺にも魔力が発現しているとわかった。


 魔力持ちは、基本的に貴族にしかいない。

 その理由はよくわかっていないらしい。

 だけれど、ごくごく稀に俺みたいな先祖代々の農民のような身分の人間にも発現するらしいというのは聞いたことがあった。


 とにかく、魔力持ちはその力の使い方を学ぶ権利が等しく与えられるため、魔法学校への受験、あるいは入学資格を得るのだ。

 俺はそもそも、それまでの十四年間で魔法なんて使ったことも無かった。

 なので、今更使い方を教えますよ、そのための学校の受験資格を得ましたよと言われてもピンとこなかったし、行く気も無かった。

 だから、進路調査や三者面談の時も自宅から自転車で通える農業高校を選んだし、教師や親にもそう報告した。

 でも、入試資格がありますよ、うちの学校を受けてください、という旨の通知が届いた。

 中身を確認して、終わった。

 受ける気はさらさら無かったからだ。

 しかし、後日、クラス担任の教師に言われたのだ。

 

 『サクラとして受験してきてくれ』と。


 まぁ、大人の世界にも色々あるらしい。

 んで、受けた。

 んで、散々バカにされて切れて、実技試験の相手であった在校生を殴った。

 それだけだ。

 それだけのことだ。


 怒られるかなぁと、翌日、担任へ報告に行ったがとくに何も言われなかった。

 どうやら、俺が在校生を殴って暴れたことは都合の悪いことだったようで伝わっていなかったようだ。

 なるほど、これがもみ消しか、と納得してしまった。


 とくに警察が来ることもなく、俺はその後予定通りに校内推薦をもらって希望していた農業高校を受験、合格し、今日も今日とて授業に、作物や家畜の世話にと追われている。


 ハナコと出会ったのは、そんな忙しい日々の中だった。


 ハナコというのは、ドラゴンである。

 子供のドラゴンだ。

 どうやら元々飼われていたが、飼い主が老衰で亡くなり色々あって農業高校が保護したそうだ。

 幸いというべきか、この学校には他にもドラゴンを飼っている。

 家畜もそうだが、ドラゴンの糞も堆肥になるのだ。


 ハナコはまだ子供だが、大人の牛くらいの大きさがあった。

 名前の由来はよくわからない。

 前の飼い主がつけたからだ。

 ハナコの世話は、ほかの家畜同様各学年が持ち回りでやっていた。

 とにかく人懐っこい性格で、皆に好かれていた。

 


 その日。

 夏休み、最終日。

 俺はハナコへお別れを告に来た。

 何の因果か、あの名門校へ転入することが決まったのだ。


 俺や他の生徒の心を癒してくれたハナコ。

 この時点で俺はもうこの農業高校の生徒では無くなっていたので、短い時間のなかで出来た友人たちに協力を要請し、その手引きによって侵入、ハナコと最後の触れ合いをした。

 うう、離れたくない。

 泣く泣く俺は、ハナコとじゃれ合って学校を去った。

 短い期間で出来た悪友達は、学祭になったら遊びに来いよと言ってくれた。


 正直、その言葉にも泣いた。


 本当だったら。

 もっともっと楽しいことをここで体験するはずだったのに。

 実技試験であそこまでやらかした俺に、話しかけてくれる人なんているわけがないと、これからの生活を思ってただただ胃が痛くなった。


 

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